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異世界帰りのおっさんは、父性スキルでファザコン娘達をトロトロに  作者: タカハシ ヒロ
第五章 勇者争奪戦

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 溢れる嫌な予感に硬直していると、ちょいちょいとリオに袖を引っ張られた。


「若い子ばっかいるからって、あんま鼻の下伸ばさないでよね」

「な、何言ってんだよ。俺はアラサー人妻好きだぞ?」

「あたしと婚約した口でそんなこと言っても、なんの説得力もないんだけど」


 そうなのである。

 俺は国家権力と国民の血税を用いて合法JK嫁を手に入れようとしている、危ないおじさんなのである。

 全く言い訳の余地がないので、「はい、すいません」とうなだれながら楽屋に向かう。

 

「おはようござ……うおっ、女の子しかいねえ」

「おはようございます、中元さん!」


 それから何が起こったかというと、いつも通りの展開だった。

 甘ったるい香りの充満する空間で十代女子達に取り囲まれ、たっぷりとボディタッチされた末に連絡先を交換させられるという、犯罪じみた待ち時間を過ごすはめになったのだ。


 今や俺のスマホには、四十人近い女子中高生のアドレスが登録されている。

 これはもう、女子校を持ち歩いてるようなものではなかろうか。

 しかも全員が芸能界に席を置けるレベルの美少女で、そのうちの何人かは「えっちさせてあげるから仕事下さい」などとストレートな要求をぶつけてくる始末で……。


「……うっ……くっ……」


 俺も一人の男。

 いくら同年代の女が好きだとしても、若い異性にちやほやされるのは悪い気分ではない。

 おまけにその気になれば、JCJKビュッフェすら行えるのだ。恋愛禁止を掲げているアイドルの踊り食いすらできるかもしれない。


「……権藤は毎日こんな気分で過ごしてるのか」


 落ち着け、俺。

 戦いの前に目を血走らせてどうする。

 

 呼吸を整え、神経を研ぎ澄ます。

 今はただ、エリンを倒すことだけ考えればいい。


 勝利は全てに優先される。

 平和のために。皆のために。この身を盾に。


「……やってやる……あの可愛い顔をぶち抜いてやるさ……」


 中元がなんか激しいプレイで妄想してる! と周囲から黄色い声が上がったが、無視をする。


「出演者の皆さんはスタジオまで来て下さーい」


 スタッフの声。

 いよいよだ。

 俺達は列をなし、スタジオへと向かう。人数が人数なので、ほとんど大名行列に近い絵面である。

 

 ……こうやって背後に人を引き連れていると、異世界時代を思い出す。

 王国の兵士を伴って、何度も遠征したものだ。


 オークを殺せ。

 ゴブリンを殺せ。

 ダークエルフを殺せ。

 盗賊団を討て。

 敵国を滅ぼせ。


 毎度毎度めちゃくちゃな要求をされてたよな、とおかしくなる。

 よくもまあ生き残れたものだ。

 俺が強かったのもあるが、パーティーメンバーが支えてくれたのも大きい。


 エリンは範囲魔法で、群がる敵兵を何度も焼き払ってくれた。


「お前がいると安心して背中を任せられる」と声をかけると、照れくさそうに目をそらすのがあいつの癖だった。

 思い出の中のエリンは、いつだって可愛らしい魔法使いのまま。あいつにはそれがよく似合う。

 だから、現代日本で虐殺を行う邪悪な魔女になる前に、始末する。

 それが俺にできる罪滅ぼし。

 

「やるか」


 後ろの方ではまだ、女の子達がくだらないことで騒いでいる。

 けれど俺の方は、すっかり気持ちが切り替わっていた。

 

 隣を歩くリオが、「お」と眉を上げる。


「なんか空気変わったね」

「空気?」

「中元さんの身にまとってる空気が」

「へえ。お前そういうの感じ取れるのか。案外鍛えればいい戦士になるかもな」

「あたしは単に、男が暴力をふるう前の空気に敏感なだけだよ」

「……好きだもんな、そういうの」

「それもあるけど、たまに母さんが連れてくる男にDV野郎がいたからね。鈍かったら死活問題っしょ」

「DV野郎って、もろにお前の好みなんじゃないの?」

「好きでもなんでもない男にぶたれるのは、普通に嫌なんだけど。痛くて怖いだけじゃん。加減も知らなそうだし」

「よくわからん世界だな」

「中元さんはその点、ちゃんと罪悪感を抱きながら力を調整して殴ってくれそうだし、いいDV夫になると思う」

「DV夫に『いい』って表現使っちゃ駄目だろ……」

「好きで人を殴る男は駄目なんだよね、相手の女をちゃんと愛していながらも嫌々手を出して、散々暴れ回ったあとで『本当は愛してるんだ』とか言って謝ってくるのがツボなわけ。で、仲直りの優しいえっちで盛り上がるの。中元さんはこういうシチュで輝くはず」

「やめろ、禍々しい」


 なんで開戦前にディープなDVトークなんかしてるんだ、とげんなりしてしまう。

 こいつはどこまで俺の戦意を削り取るつもりなんだ。


「……中元さんさ」

「ん?」

「殺そうとしてるでしょ、エリンって人のこと」

「そこまでわかるのか」


 内容が物騒になってきたので、互いに声のトーンを落とす。

 といってもこの平和ボケした日本なら、ゲームの話をしてるんです、で誤魔化せる気もするが。


「本当にそれでいいの? 中元さん的には」


 リオは探るような俺の目を見ている。

 俺の答えはというと、


「当たり前だろ」


 だった。


「エリンは危険だ。お前らを守るためにも、生かしちゃおけない。何もかもお前らを幸せにするためだ」

「……」


 本音を言えば、俺はエリンを殺したくない。

 だが、そんなのはどうでもいいことだ。

 俺の本心だとか願望だなんてのは、一番どうでもいい。

 今の俺は、身近にいる少女達を幸福にするだけの機械でいい。


 全員を愛して甘やかして守りぬく。


 そのためならなんだってするし、なんだって切り捨てると決めた。

 真っ先に切り捨てるのは、自分自身だ。


「安心しろ。俺はもうしくじらない。必ず勝つ」

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