帝国民の不満を
シオンが居なくなった後の軍務室では三人が頭を抱えていた。折角、良い方向に風向きが変わったというのに大きな損失の話である。まさかホランド将軍以下八千名が失われるとは思ってもいなかったようだ。
「現状、北の地は諦めるしかないでしょう」
ブロンソン公爵がため息を吐きながらそう放つ。いくら商業連合と足並みを揃えたとしても、砦を築かれたとあれば領地を取り返すのも一苦労だ。
「東の王朝から奪った領地も取り返されてしまいました。これでプラスマイナスでいうところ、マイナスです。国民の不満をどうにか逸らさないといけませんな」
ベンジャミン大将軍が続く。帝国は東側の領地はなんとか現状維持まで持って行けたものの、西側と北側の領地はそれぞれ首長国と王国に削られたままなのである。
「それは、取り返すのは難しいということかの?」
「はい。西側は盛り返しておりますので、取り返すまでは行けるかと。しかし、北側の失地を回復するのは容易ではないでしょう」
ベンジャミン大将軍が大公デュポワに述べる。しかし、大公デュポワとしては失地を取り戻すことを諦めきれない。ベンジャミン大将軍に食い下がる。
「北は勝てんか」
「勝てないでしょう。もとより兵力では劣っているのです。兵法の基礎は相手よりも多く兵を集めることにあります。相手よりも兵を集められず、更に向こうには砦がある。難しいかと」
大公デュポワの問いにベンジャミン大将軍が答えた。大公デュポワは悩む。皇帝にどう申し開きをしようかと。そこで考えを改めることにした。
「では、北の地は捨て置くことにする。その代わり、西の首長国の領地をこれまで以上に削り取るのだ」
首長国に対しては共和国と共同戦線を張っている。西側ならば失地分の領地を確保できると見込んでいるのだ。ブロンソン公爵が算盤を弾く。そして静かに首を振った。
「物資も予算も足りません。物資を買おうにも共和国と商業連合を動かすために支払ったお金が大き過ぎました。これ以上の徴収は国民の反発を招きかねません」
完全に手詰まりである。人も金も物も無いのだ。どうすることもできない。こればっかりは直ぐに増やせるものではない。それでもどうにかしたいのであれば、私財を投げ打つしかないのだ。
「しかし、このままやられたままで終わるのは癪じゃな。せめて裏で手を引いた者がわかれば良いのじゃが」
そう言うデュポワ。それに対し、ブロンソンがこう切り返した。ブロンソンとしては、早く戦時を終わらせ平時に戻りたいのである。
「であれば、王国および首長国、王朝と和平を結ぶべきでしょう。そして和平の条件として首謀者の名も教えてもらうことにすれば」
「成程のぅ。では、手始めに王国と和議を結ぶか。こちらは失地を取り戻す余地は無いのであろう?」
デュポワの問いに頷くベンジャミン。それを見てデュポワは腹を決めた。王国と和平をすると。三者とも表情は明るくなかった。これからのことを考えると明るくなれるはずもない。
帝国民や帝国貴族からの反発は必至だろう。それをどう宥め、説き伏せるかを考えなければならないのだ。また、今回の戦で頑張ってくれた者たちにも褒美を与えなければならない。しかし、ない袖は振れぬのだ。
「ブロンソン公爵は貴族たちの取り纏めと王国との交渉を頼む。ベンジャミン大将軍は西の首長国に対して侵攻を頼む。ここらで武威を見せつけなければ危ういのでの」
「かしこまりました」
「承知いたしました」
「儂は皇帝陛下への報告と王朝への交渉に当たることにする」
三人のどの役目も威信にかかわるものである。失敗は許されない。神妙な顔をして一人、また一人と退室していく。最後に残ったのはデュポワであった。
「では、皇帝陛下とヴィダム枢機卿に会いに行くか」
皇帝陛下を説き伏せてからイファ正教のヴィダム枢機卿に和議の取り成しを頼む。どちらも骨が折れる交渉事だ。まだまだ老体に鞭を打たなければならないようであった。
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