帝都への帰還
シオンは一人、帝都を目指して歩いていく。とは言うものの、シオンにとって一人旅とは手慣れたものである。傭兵時代は一人旅か、アンバーとの二人旅が常であった。
川沿いを南下していくシオン。その間も彼の胸中を占めるのは配下三百名の安否だ。そのうちの百名はもう契約の切れた傭兵である。既に思考の外に追いやった。問題は残りの二百である。
特に孤児兵はまともな訓練もそこまで受けているわけではないのに、いきなり実践に投入されてさぞや困惑したことであろう。そう思うとシオンは不憫でならないと思っていた。
ただ、彼らも自身の役目を果たした。今回の大戦ではお役御免だろう。シオンはそうであってほしいという願望を抱えながら帝都に急いだ。
何日か歩き、ようやくシオンは帝都の外れにある自身の屋敷に足を踏み入れる。何人かがシオンに気が付いたようだ。インとエメ、ココとララ、それからジナが飛び出してシオンに抱きついてくる。
シオンはココがそこにいることに安堵を覚えていた。どうやら孤児兵たちも無事に帝都まで辿り着いたようである。感動の再会である。その喜びを分かち合いたいところではあるが、シオンはまずインに現状を尋ねた。
「今、どうなっているんだ?」
「はい。帝国の西部戦線および東部戦線は講和が見込まれそうです。というのも、西部戦線では共和国が首長国に攻め込み形勢が逆転。東部戦線でも西から兵を回して王朝相手に五分まで持って行ってると伺いました」
「北部戦線、ラースル辺境伯のところはどうだ?」
「依然として芳しくないようです。私としては王国が踏み止まっている印象があります。商業連合は王国に攻め掛かっていますが、それを良く凌ぎつつ帝国にも攻め入ってるようです」
どうやら王国はここが好機と言わんばかりに踏ん張っているようである。シオンとしては欲を出さずに手に入れた分の領地を確定しておけば良いのに。と思っていた。
「そうか。なら、オレはお役御免になりそうだな」
「まずは帰還の報告を上げた方が良いかと」
シオンはインの助言通りに、まずはデュポワ大公の屋敷を尋ねた。もちろんインも連れてである。シオンとしては思考を放棄したいほどに疲れ果てていたのだ。しかし、報告は貴族の務めだ。怠るわけにはいかない。
インがシュティ大公家の家令であるゴードンを呼び出す。そしてシオンがデュポワに帰還の報告をしたい旨を伝えた。ゴードンとしても無下にすることはできなかったのだが、いきなりの訪問である。
「御当主様は登城しており、こちらにはおられません。ご用があるのでしたら登城された方がよろしいかと」
最もな意見である。しかし、シオンは帝城に良い印象を持っていなかった。彼からすれば城に居る者すべてが鼻持ちならない奴なのである。
「仕方がない。城に行ってさっさと報告を済ませてしまおう」
「はい」
シオンとインは城に向かう。戦時中だ。城は厳戒態勢であった。途中、何度もシオンは貴族の証を求められ、げんなりしていた。
シオン一行には更に困難が待ち受けている。今度はどこに報告すればよいのかわからないのだ。伝統と格式のない、成り上がりの貴族だからこそ、こういった些細な情報が受け継がれず、右往左往してしまうのである。
「ん? そこに居るのはバレラード卿か?」
そう声をかけてきたのは他の誰でもない、クリュエ=ド=ラースルであった。彼はその身を案じられ、帝都に送られていたのであった。
「ああ、お坊ちゃまか。丁度良かった」
シオンはクリュエに用件を伝えた。クリュエとしても北方の戦線がどうなるか、他人事ではない。シオンを帝城の軍務室に案内する。
クリュエがノックをし、声を確認してから入室する。
そこでは大公デュポワと内大臣であるブロンソン公爵のほか、軍務大臣であるアンドリュー=フォン=ベンジャミン大将軍が意見を交わしていた。クリュエが口を開く。
「シオン=バレラード准男爵が帰還してございます」
「シオン=バレラード、帰還いたしました」
「おお、シオンか。確かシオンはホランド将軍とともにラースル辺境伯のもとにむかったのであったな。して、どうであった?」
デュポワがシオンに尋ねる。シオンはいつもとは異なり、デュポワに恭しく接する。人目があるのだ。シオンもそれくらいは考えている。
「はっ。ホランド将軍以下八千名はラースル辺境伯閣下の制止を振り切り無謀な突貫をして死亡しました。ラースル辺境伯閣下は今もなお籠城中にございます」
「其方たちはなぜ帝都に戻ってきた。どうやって戻ったのだ」
「深夜に城を抜け、王国の天幕に火をつけて回ってから帝都に落ち延びてまいりました」
シオンはこれまでの経緯を丁寧に説明する。大公デュポワ、ブロンソン公爵、ベンジャミン大将軍の三人がシオンの言葉に聞き入っていた。
「そうか、ご苦労であったな。疲れたであろう。下がってゆっくり休め。後はこちらで何とかする」
「はっ。ありがたき幸せ。では、失礼いたします」
シオンは深く一礼して背を見せずに退室する。これで自分の役目は終わりだ。それなりに活躍したと自分でも思っていた。そう考えていたのである。そして何より、彼は帝国を裏切らなかった。これは大きい。
「さ、帰るか」
シオンはインを促す。神妙な顔をしていたインはシオンのその言葉に頷くとシオンの後に続いた。そしてクリュエがシオンの後に続く。そしてシオンが言う。
「やっぱり止めだ。今から飯を食いに行こう。こいつの金でな」
気が変わったのか、シオンはクリュエの首根っこを摑まえてそう述べる。元はと言えば、彼の家の跡継ぎ争いから発展しているのだ。彼に罪はないとはいえ、腹の奥に淀んだものが溜まる気持ちはわからんでもない。
シオンはインとクリュエを連れて城下町へと消えていった。この戦は終わりだと言わんばかりに。
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