その情報の価値は
シオンは案内されるがままラースル辺境伯の指定する部屋に入る。そして促されるまま着席すると給仕の兵士がシオンの目の前にあるグラスにワインを注いだ。
「さて、急に呼び止めて悪かったね」
「いえ、お気になさらず」
そう言ってワインを舐めるシオン。上物のワインではないが、この戦時下でワインを窘めるだけマシというものだろう。これで酔っぱらっている最中に襲われて死にました、ということにだけはならないように気を配る。
「まずはお礼と謝罪を。どうやら息子のクリュエに気を使ってくれたようだね。ありがとう。非常に助かった」
「お気になさらず。私は特に何かをしたわけではありませんので」
「それから愚息のルリュエが申し訳ないことをした。貴殿の領地を奪ってしまったこと、心から謝罪する」
「そちらもお気になさらず。この戦が終わり次第、代替の土地を用意していただければ。もちろん、色を付けて」
頭を下げるラースル辺境伯に対し、軽い言葉で返答するシオン。彼にとって、初めての領地ではあったが思い入れがそこまで強いわけではない。
薄情に思えるかもしれないが代替の土地を用意してくれるのならば、そこまで気にしていないのだ。むしろ、土地よりも金銀財宝の類の方が彼としては喜ばしいかもしれない。
「うむ。だが、そのためにも現状を維持しなければならぬ。こちらから動いてわざわざ隙を作ることもないのだ。だというのに、ホランドのやつめ。手下の数が多いからと調子に乗りおって」
苦虫を嚙み潰したように顔を歪ませるラースル辺境伯。ラースル辺境伯がここまで感情を露にするのは初めてだとシオンは内心、驚いていた。
「正しい判断は正しい情報から得られます。そこでどうでしょう。ホランド将軍に斥候をお願いしてみては?」
「ふむ……いや、ならんな。彼奴に任せた場合、虚偽の報告をされても困る」
「では、閣下も斥候を出すべきです。そして両方の意見が合致した場合、信じても良いかと。どこかで落としどころを作らなければホランド将軍は益々暴走し始めます」
シオンはそう述べた。全くもっての正論である。しかし、彼の発言の揚げ足を取るのであれば、どうやって王国軍の包囲網を搔い潜って偵察に行くか、である。それが出来れば苦労しないのだ。
しかし、シオンとしてはそこまで考えてあげる義理は無いのだ。ラースル辺境伯とホランド将軍の怒りの矛先を変えることが出来ればそれで満足なのである。
「卿の言うことにも一理ある。検討しよう」
「はっ。では、私はこれで」
シオンは一礼してラースル辺境伯のもとを立ち去った。これだけでどっと疲れた気がする。シオンもここ数年、戦いの中に身を置いてきた人間だ。自分の置かれている状況も情勢も良く理解している。
しかし、周囲の者はそうではないのだ。シオンと同等な考えを持つのはベテラン――ロートルといった方が正しいかもしれない――の傭兵たちくらいだ。
孤児兵たちは終始、怯えているばかりであった。覚悟が足りていない。殺さなければ、殺されるのだ。シオンは傭兵として嫌というほど経験してきた。生き残れたのは僥倖だろう。
シオンは自室に戻る。ココはまだ戻っていない。どこかほっつき歩いてるんだろう。シオンは横になり目を瞑る。色々と問題は山積みだが解決できる問題ではない。
こういう時は割り切って眠ってしまうに限る。いざというときのため、シオンは意識を手放すのであった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、ココはというと金目の物を探してあっちをふらふら、こっちをふらふら彷徨い歩いていた。正直、ココはシオンのもとが心地良かった。認められている気がしたのだ。
彼女は今まで卑しい盗人でしかなかった。しかし、シオンのもとで偵察やら情報集やらを任されていくうちに自分に価値を自分で見出すことが出来たのだ。彼のもとで彼女は自己肯定感が格段に上がったのである。
そんなシオンの期待に応えたい。彼女はその一心だった。必要とされているのが嬉しかった。
「さーて、どうしよっかなぁ」
手の中で収納の魔石を弄びながらキョロキョロと周囲を見回す。そして考える。シオンが何を欲しているのかを。パッと思いつくのは金銀宝石、財宝の類だ。こんなもの、なんぼあっても良い。
とは言っても、現在は戦時下である。宝石の類がそこら辺に飾ってあるわけがない。そして、ココは目利きが出来ない。絵画や骨董、調度品の真贋もわからないのだ。
なのでココは貴金属を中心にくすねていく。真鍮製の燭台に鈴、鉄製のナイフや銅の鏡などを狙っていった。そして一番おいしいのは何と言っても現金だ。
これは擦れ違う兵士の革袋を拝借し、中身だけを頂戴するのである。相手は厚い革の鎧を身に着けているため、腰に財布をぶら下げているような間抜けは悉くココの餌食となっていた。
辺りが暗くなり、一通り城内を巡った後、シオンが待っているであろう彼の個室へと戻る。そして元気よくその扉を開けた。
「ご主人様ー! ただいま戻り――」
ココの目に映ったシオンは目を閉じて眠っていた。一瞬、死んでいるのかと錯覚したココは息を呑んだが、すぐに寝ているだけだと気が付いた。
そして扉を閉め、誰も居ないにもかかわらず周囲を確認してから、ひっそりとシオンの腕の中に包まって彼女もまた、笑顔を浮かべて目を閉じるのであった。
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