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北方より大軍来たる

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【東暦 一〇〇六年 一の月 二十七の日】


 その日は突然やってきた。年も明け、雪も溶け始めた一月の終わりに北から大軍が南進してきたのである。何が起きたのか。シオンはまったく理解できずにいた。


 一番最初に気が付いたのはバレラードの地を拠点としている傭兵――ベルグリンデの手下の一人――であった。その男が慌てて本拠地に飛び込んできたのである。シオンに報告しに来たのはコラリーであった。


「数は?」

「二万は居たって話だよ」


 二万。対してシオンはたったの五十である。傭兵団を入れても百でしかない。二百倍の相手に勝てるわけがない。ここは降参か撤退かの二つに一つだ。


「距離は?」

「国境付近で野営中さね。まだ、国境は越えてないところをみると何かを待ってる気がしないでもないけど」

「まあ、攻め込んでくるつもりだろうな」


 しかし、何故。シオンの心の中に疑問が生じる。それを氷解させたのはインであった。彼女曰く、ルリュエが王国に寝返ったのではと。そう聞いて得心するシオン。


「確かに。帝国の旗も王国軍の中に紛れていた気がします」


 傭兵の一人が言う。インの推測は十中八九、当たっているのだろう。問題は何故ルリュエが寝返ったのかということだ。


 ルリュエが跡継ぎになれる可能性は低い。それならば王国に寝返り、爵位を安堵してもらう方がマシだと考えたのだろう。筋の通った考えである。ただ、今になって理由を考えても詮の無いことではあった。


「シオンさん、どうします?」

「そうだな……。勝ち目はないから逃げるしかないだろう。インとララはエメと協力して必要な荷物を全てまとめろ。貴重品を中心に収納の魔法に収めていけ」

「「はい!」」

「アンとココは馬車の用意を。ジナとサラはアレン達に事情を伝えて準備を急がせろ」 

「わかりました」

「かしこまりました」


 一通りの指示を出す。いくら領主となっても大軍で攻め込まれたら勝ち目はない。対抗するには大軍を率いらなければならないのだが、しかし、今のシオンにはその力がなかった。


 なんとも歯がゆい。個の武であれば負けない自負はあるのに、それが雀の涙ほども役に立たないのだ。領主としての無力さに、自分に対して腹が立っていた。


「そして準備が整い次第、王都のシュティ大公の屋敷に駆け込め。そこで合流しよう。悪いが護衛を頼めるか?」

「もちろんさ。いただくものを貰えさえすれば相応の働きはするよ」


 右手の人差し指と親指でわっかを作るコラリー。つまり、金を寄越せという答えである。


「今度は遠回りでも安全な道を頼むぞ」


 シオンはコラリーにインたちの護衛を依頼する。新兵とはいえ、四十人が護衛に付くのだ。そう大きな間違いは起きないだろう。更にアレンたちの中から有志である十人も付けた。彼らは生死をシオンと共にするだろう。


 残りの兵は現地で。このバレラードの地で解散だ。やむを得ない。もともとはこの領の人間なのだ。連れまわすのは筋違いというものだろう。


 ただ、無駄な抵抗はしないよう、しっかりと言い含めるシオン。


「イン、一時的にお前に全権を委任する。無事に皆をシュティ大公家に連れて行ってくれ」

「シオンさんはどうするんですか?」

「オレは少しだけ残る。流石に尻尾を巻いて逃げかえるのは性に合わないんでね」

「え、でも――」

「大丈夫だ。必ずシュティ大公の屋敷で落ち合おう」


 そういってシオンはインに準備を急がせると、彼自身はどうやって立ち回るかを必死で考えた。抵抗はするだけ無駄だ。では、何をしなければならないのか。


 まずは領民の安全と保障である。これは領主として当然の願いだろう。それから自身の身の安全。この二つさえ叶えばシオンとしては願ったり叶ったりである。そして頭を捻らせた。


「男は度胸とも言うしな。はったり勝負と行こうじゃないか」


 シオンは貴族服に着替えると、王国軍を迎え撃つ準備を整えるのであった。

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