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内乱の兆し

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【東暦 一〇〇五年 十二の月 三の日】


 帝国に本格的な冬が訪れた。クリュエが謹慎を言い渡されている間、ルリュエは積極的に動いていた。まず行ったのは周辺貴族の囲い込み、買収からである。


 今回のクリュエの短絡さを伝える。彼が次期当主になれば、直ぐに癇癪を起こすに違いない。面倒なことになるぞと吹いて回るのである。


 そもそも、周囲の貴族たちはクリュエよりもルリュエに好感を抱いていた。今回の事件も相まって周辺貴族はルリュエを推す声が強くなり始めていた。デリクの跡継ぎ問題は諸侯の問題でもあるのだ。


 そのルリュエがシオンのもとにもやってきた。先触れを用意しているが非公式の訪問である。シオンはカジュアルに対応することを決めた。


「突然の訪問、申し訳なく思います。バレラード閣下」

「お気になさらず。しかし、足元の悪い中、良くお越しくださった。さぞ大変だったでしょう」


 既にバレラードも雪景色一色だ。雪が溶けるまでの二か月間、各家に籠もり寒さが過ぎるのを待つ。シオンも例に漏れず、室内での鍛錬と大好きなお風呂を繰り返す毎日だ。


 ただ、彼の誤算はというと燃料がもったいないということでお風呂に入る際は一人ではなく、複数人で入る必要があるということだろう。そして、この屋敷に住んでいるのはシオン以外は女性である。それ以外言うことは何もない。以上。


「閣下は回りくどいのがお嫌いでしたね。単刀直入に申し上げましょう。クリュエではなく、私の味方をしてもらいたい。既にロレック子爵、ブオーノ男爵、ドレン男爵が賛同してくれています。また、見返りはきちんと用意しましょう」

「ほう。それは私が満足するほどの見返りでしょうか?」

「大金貨十枚。これが閣下に対する精いっぱいだ」


 日本円にして一千万円で転べと言っているのだ。シオンは笑いを漏らしてからルリュエにノーを突きつけた。彼が欲しいものは現金ではないのだ。


「もし、私が欲に負けたとしましょう。世間は私をどう見るだろうか?」

「欲に負けたのではありません。義憤に駆られ、立ち上がるのです!」

「だとしてもです。私はシュティ大公に大恩があります。彼らを裏切ることはできない」


 シオンは演技がかった仕草でそう述べた。もちろん、これはインと打ち合わせた結果、こう振舞うのが最適であると判断したためだ。さて、断った場合どうなるか。ルリュエはこう口を開いた。


「それは私たちの敵になると?」

「とんでもない! 私はあくまで皇帝陛下の命に従うまで。ルリュエ様の敵になるはずがありません!」


 自分は皇帝の忠実な僕であり、その決定に従うと主張するシオン。仮にもし、シオンの住まうバレラードが攻められ、落ちたとしても帝国はシオンを攻めることはないだろう。むしろ、忠義の臣として称賛するはずだ。


 シオンはどちらに転んでも美味しいのである。味方をすればクリュエが皇帝の後押しを受け、息を吹き返した時が不味い。そのリスクを考えると安易にルリュエに味方は出来ない。


「そうか、それが貴公の答えか。やはり私と貴公は相容れないのだな」

「ええ、残念ですが」


 シオンは終始にこやかに話を終えた。そして感じ取る。血生臭い戦の匂いを。雪解けが勝負だと思っていた。ルリュエが帰った後、シオンは執務室に籠もり、そしてココにアレンたち十人ばかりを呼び付けさせた。


「お呼びですか?」

「この手紙をシュティ大公家に届けてくれ」

「承知しました」


 アレンが言う。手紙にはルリュエが良からぬことを企てていること、そして大多数の貴族が賛同していることを記載した。これでシオン、デュポワの両方が望んだ展開になりつつあるのだ。


「それからベルグリンデにも声を掛けないとな」


 どうやら傭兵を借りるつもりのようだ。戦前までに百名は用意しておきたい。シオンはそう考えていたのであった。それでも周辺貴族に比べて兵数は少ないのだが。


 ただ、彼はそれなりの場数を踏んだ傭兵。この程度の逆境には慣れている。彼は逆境になればなるほど燃えるのだ。そんな彼のもとを尋ねる一組の旅人。これが吉と出るか、凶と出るか。

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