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笑顔の裏側

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【東暦 一〇〇五年 十一の月 二十五の日】


 クリュエは浮かれながら帰路に付いていた。皇帝ロレンベルグ三世から跡継ぎとして認められたのだから。既に皇帝の勅使がラースル辺境伯のもとへ向かった。今頃、到着している頃だろう。


 これで当主になれる。父も弟――だと思っているルリュエ――も皇帝に対して逆らおうとは思っていない。自分の将来が約束された。クリュエはそう思っていた。


 一方のルリュエはというと勅使からの知らせを聞いて歯を軋ませる思いであった。今まで積み上げてきたものが鶴の一声で全て瓦解させられてしまったのである。業腹になるのも納得できる。


 このままでは終われない。しかし、皇帝に勅を出されてしまってはルリュエも立つ瀬がない。彼の取れる手段は限られているのである。


 まず、パッと思いつくのは暗殺だ。クリュエが死んでしまっては跡を継ぐことはできない。ばれないように殺せば良いのだ。もしくは、謀反を企てるか。しかし、それはリスクが大き過ぎる。


 ルリュエを支持しているのはロレック子爵、ブオーノ男爵、ドレン男爵の三貴族だ。せこせこと彼らの信頼を積み重ねてきたのである。


 オペチャム子爵の支持も得たかったが、なにやらクリュエと一緒に事業を行っているらしい。どちらに転ぶかはわからない。バレラード准男爵は……無理だろうとルリュエは諦めていた。


 三貴族は異議申し立てをしてくれるだろうか。もし、してくれたとして覆すことが出来るだろうか。頭の中でぐるぐると色々なことを考えながら父であるデリクのもとを尋ねる。


「失礼します」

「ああ、ルリュエか。話は……聞いているようだな」


 デリクはルリュエの顔を見て全てを察した。彼はどこからか跡継ぎ問題に帝室が口を出してきたことを耳にしたようであった。デリクは頭を抱える。


「如何なさるのですか?」

「受けざるを得んだろう」

「では、私はどうなるのです?」

「……帝都で官吏となるか、もしくは代官になるだろうな」


 ルリュエにとっては許容し難い提案であった。片方は辺境伯を。もう片方はしがない官吏か代官になるのだ。天国と地獄と言い換えても問題ないくらいである。


 自分よりも無能なクリュエが辺境伯となり、自身は代官。この仕打ちに耐えられるほどクリュエは大人ではなかった。父親に噛み付くルリュエ。


「覆しましょう。跡継ぎは父上が指名するものです。皇帝陛下に指図されるものではありません!」


 ルリュエの口調も熱を帯びる。しかし、ルリュエとは対照的にデリクは安堵していた。決めづらかったことを皇帝陛下が代わりに決めてくれたのだ。ルリュエの敵意は自身じゃなくて皇帝陛下へ向くと。


「いや、皇帝陛下がお決めになったことだ。跡継ぎはクリュエにすることとする」


 ピシャリと言い切った。こう言われてしまってはルリュエとしてもデリクを説得することはできないだろう。となれば、他の案を採用するしかない。


 暗殺か、謀反だ。ルリュエは覚悟を決め、笑顔で父に応える。


「そうですか、わかりました。皇帝陛下の決めたことですもんね。大人しく諦めます」

「ああ、わかってくれたか。お前には済まないことをしたと思っている。爵位を貰えるよう、陛下にお願いしてみるつもりだ」


 なれたとしても准男爵か男爵か。良くても子爵である。三つから四つは爵位が落ちることを覚悟しなければならない。笑顔ではあるが受け入れがたい現実であった。


 よし、殺そう。クリュエを殺す。


 ルリュエは覚悟を決めて父の前を辞した。ルリュエが反旗を翻すことが決定づけられた一日となったのであった。


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