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手本とすべし

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【東暦 一〇〇五年 十一の月 十の日】


 クリュエはシオンの助言通り、オペチャム子爵からも文を預かり、一路、帝都を目指していた。これでクリュエはオペチャム子爵とシオンの手紙を所持していることになる。


 もちろん、シオンのような不作法はせず、シュティ大公家にはシオンの手紙を持った先触れが既に向かっている。クリュエは凡庸なだけで暗愚ではない。


 そしてその先触れがデュポワの居るシュティ大公家へと到着した。流石は辺境伯家。先触れまで礼儀が行き届いている。直ぐにデュポワの手に手紙が渡ることはなかったが、確実に目を通すだろう。


 シオンもシオンでシュティ大公に手紙を出していた。では、シオンはそこになんと書いていたのだろうか。答えは『皇帝一家はラースル家のお家騒動を見て手本とすべし』であった。中々に不敬な言い回しである。


 しかし、デュポワはその言葉を目にした途端、シオンが何を考えているのか瞬時に理解していた。そしてクリュエの先触れの内容と合致する。悪くない案だと思っていた。


 デュポワにとって、大事なのは皇帝一族なのだ。そのために辺境伯家を実験台にするくらいの覚悟は持ち合わせている。クリュエが到着するまでの間、デュポワは試案に耽るのであった。


 ◇ ◇ ◇


「突然の参上、不調法をお許しください」

「いやなに。事前に連絡はいただいておった。そう気にすることはない。テラスに席を用意してある。そこで話そうじゃないか」


 クリュエがデュポワを訪問する。デュポワはそれを快く受け入れ、彼を屋敷のテラスに案内した。ワインを嗜みながら雑談に花を咲かせる。


 クリュエとしては早く本題に入りたくて仕方がなかったのだが、貴族として余裕ある行動を心がけている。何とか笑顔を浮かべながら話を切り替えるタイミングを伺っていた。


「そういえば、そろそろお嬢様もご成婚ですか?」

「それが相手が定まらなくてな。どうも皇帝陛下のお心が定まらぬようでの」

「我が家と同じですね。父上のお心が定まらず、私もやきもきしています」


 自然な流れで家督相続の問題を話題にすることが出来た。クリュエはやればできる子なのだ。このまま自身の相続の問題の相談に持って行きたい。


「それは難儀な。さぞお困りでしょう」

「ええ。そこでシュティ大公閣下にご助力を願えないかと参上した次第にございます」

「この老いぼれに出来ることならば何でも手伝いましょう」


 にこりと微笑むデュポワ。しかし、クリュエはその笑顔の意味を知らない。ただただクリュエはデュポワの回答に喜ぶばかりであった。


「では、長子である私を跡継ぎに認めていただくよう、皇帝陛下からの命を下賜いただけませんでしょうか?」

「明後日に皇帝陛下にお会いする機会があっての。その時に頼んでみるとしよう。しかし……それは其方のみの願いかね?」

「い、いえ! 周辺諸侯からの願いでもあります!」


 クリュエはデュポワにオペチャム子爵、それからシオンの手紙を手渡す。中身はもちろん、辺境伯の跡継ぎが定まらなくてやきもきしているという内容だ。


「どれ、預からせてもらおうか。結果が出るまで帝都に留まってはどうかね?」

「そうさせてもらいます。幸い、使われていない別荘がありますので、そちらに滞在しようかと」

「それが良い」


 笑顔で頷くデュポワ。既にクリュエはデュポワに心酔している様相であった。それから再び雑談を交えて大公の屋敷を後にするクリュエ。


 彼の表情は行きとは違い、帰りは晴れやかな表情であった。大公が約束してくれたのだ。これはもう決定だろうと。彼は浮かれていたのである。


 後は果報を寝て待つだけである。クリュエはワインをしこたま飲んだ後、誰も使っていなかったベッドに身体を潜り込ませて深い眠りに付くのであった。

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