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【東暦 一〇〇五年 九の月 二十二の日】


 シオンは一路、馬を駆って南下していた。目指すは帝都。インと相談してまずは一組の傭兵を誘致してみようという結果に落ち着いたのである。


 傭兵は便利だ。シオン自身も傭兵だから理解できるのだが、利があれば転んでくれる。義が無いというわけではないが、義よりも利を優先し、そして筋を通す。それが傭兵である。


 帝都に到着したシオンは貴族特権を使って待ち時間なしで帝都に入る。お目当ては前回同様、傭兵が屯する古惚けた酒場だ。さて、誰が待っているか。シオンは胸を躍らせていた。


 中に入ると酒場は閑散としていた。無理もない。真昼間の酒場である。しかし、シオンはこの状況を違う視点から捉えていた。傭兵が居ないということは駆り出されているということ。つまり、戦が近いのだ。


「おや、紫の。お前さんも何か用があったのかい?」


 そう言ってきたのはベルグリンデであった。彼女も一息吐くためにこの馴染みの酒場に足を踏み入れたのである。そして二人は出会った。


「景気が良さそうだな。何かあったのか?」

「お貴族様にそいつは言えないねぇ」


 余裕のある表情を浮かべるベルグリンデ。傭兵の仁義に反すると言いたいのだろう。これ以上の追及は無理だと判断し、シオンはベルグリンデに当初の提案を持ち掛けることにした。


「まあ、良いさ。今日はそんなことを言いに来たわけじゃないんでね」


 そう言って座るシオン。ベルグリンデも彼の対面に座る。それからシオンがエールを二杯分注文して会話が始められた。ベルグリンデはシオンに対し「気が利くじゃないか」と揶揄った。


「さ、聞かせてもらおうかね。話があるんだろう?」

「悪い話じゃない。率直に話そう。バレラードに拠点を築かないか、という提案だ。もちろん、ある程度の費用はこちらで用意しよう。バレラードは三国に跨る要地だ。悪い話じゃないだろう?」

「……続けな」


 ベルグリンデに促されたシオンはインが考えたプランを話していく。自分で考えたわけでもないのに――案はシオンだが――さも自分が考えたことのように話す能力は一級品である。


 シオンの面の皮が厚いのもあるが、彼の理解力も非常に高いポテンシャルを発揮している。人を説得するのは論理と感情である。


 そしてシオンの堂々とした自信満々な態度は人々を納得させるだけのものがあった。


「成程ね。住居を提供するから有事の際に守って欲しいと」

「簡潔に言うとそういうことだな」

「ダメだね。メリットに対してデメリットが大き過ぎる」


 ベルグリンデは否をシオンに突き付けた。その理由は至極単純明快。契約の不平等である。建物はお金を払えば買えてしまうのだ。また、いつか老朽化する。


 しかし、契約は不変であり、常にその代価を支払わなければならない。これは不当と言わざるを得ないだろう。ただ、シオンもその点は理解していた。


「デメリットを大きくするも小さくするもアンタ次第だろう。オレなら新兵の訓練拠点にするね」


 そう言い放つシオン。彼が言いたいことをベルグリンデは理解したようである。正直に言うと、新兵は邪魔なのだ。戦場では戦力にならないどころか、足を引っ張られてしまう。鍛えないことには使い物にならない。


 もちろん、新兵を盾にする非道な傭兵団も存在する。しかし、ベルグリンデのそれは違った。百人以上の団員がそれぞれ誇りをもって傭兵稼業を行っているのである。


 つまり、鍛える場所と新兵を置いておく場所が必要なのだ。そして人を住まわせるには食事も家も必要なのである。


 シオンはそれを提供すると言ってるのである。これならばベルグリンデも検討の土俵に載せても良いと思い始めていた。


「契約は破棄することが可能ってことで良いんだね?」

「一か月ごとに更新するかどうかの確認を入れる」

「収容人数は?」

「四十人を想定してる。と言っても三十人近くは大広間に二段ベッドだけどな」

「それでも上等さね。わかった。新兵の拠点として借りようじゃないか。ふふ、それにしても紫のは運が良い」


 ベルグリンデはそう呟く。


 これはベルグリンデにもありがたい提案だった。最初に断ったのは条件を吊り上げるためのフェイクだったのだ。結果として条件は据え置きになったが、シオンは自分の力で契約を勝ち取ったと思っていたのであった。

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