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戦の帰結先を

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【東暦 一〇〇五年 八の月 十五の日】

 

 シオンはクリュエにお願いし、会議の場に紛れ込むことに成功した。


 そこには上級貴族(名代も含める)のみがズラッと円卓に着席していた。その数はおよそ二十人。大公が一、公爵が三、侯爵が五、辺境伯が二、伯爵が九である。


 議論は行き詰っていた。明らかに皆が苛立っている。議題はいつも同じだ。進むか退くか。進んで勝てるのか。退いて示しがつくのか。面子と実利のせめぎ合いだ。


 戦わずに帰るわけにはいかない。一戦するべきだ。勝てなくても示しが付く。いやいや、無駄に兵を消耗するわけにはいかない。恥を忍んで帰るべきだ。


 こんな議論が繰り返されているばかりである。辟易している貴族、飽きている貴族も散見された。シオンは今ならばこの意見が通るかもしれない。そう思い、発言の許可を願い出た。


 許可したのはシュティ大公の名代として参加しているグレンダだ。もちろん、あらかじめ根回しは済ませている。グレンダが諸侯を黙らせ、傾聴するよう仕向ける。


「お初お目にかかります。この度、准男爵に封じられましたシオン=バレラードと申します。さて、皆さん。そろそろこの場での待機も飽きて居られるかと存じます。そこで如何でしょう。まずは、この地を我ら帝国の地に組み込んでしまっては?」

「待て、バレラード卿。もっと詳しく説明し給え」

「かしこまりました」


 クリュエが苛ついた声でシオンを制する。これも織り込み済みの芝居だ。そしてシオンが地図を使って彼の考えるプランを説明した。まさか、詳細に書き込んだ地図が役に立つとは思ってもみなかった。


「この地図をご覧ください。現在の我々はここ。そして王朝兵が亀のように閉じ籠っているのがこの砦です。つまり、我らもここに砦を築きます。そして、この砦の地より西側を我らの領土として固めてしまうのです」


 そうすれば戦の結果、領地が増えたのだと言えば帰還する大義名分が産まれる。諸侯らもそれは理解していた。となれば、別の問題が発生する。誰の領地にするかだ。


「ここは帝国の直轄地にしましょう。そして参加した下級貴族には報奨金を」

「報奨金はどこから出るのか?」


 そんな声が貴族の間で上がる。当然の反応だろう。しかし、シオンは意に介さず、涼しい顔でしれっとこう答えた。


「皆様の懐から」

「何を馬鹿な!」


 拒否しようと声を荒げる貴族たちを制止してシオンがさらに言葉を続ける。


「考えてもみてください。ずっとここに留まればそれだけ費用が嵩みます。それならばいっそのこと早く撤収し、金銭を下級貴族にばら撒いた方が皆様方の利になるとご提案しているのですよ」


 長期滞在することの損と下級貴族に金銭をばら撒く損。長期滞在する利と下級貴族に金銭をばら撒く利を比較すればどちらが良いかは火を見るよりも明らかだ。


 この場に居る半数の貴族はシオンの言いたいことを理解していた。領地を獲得したという戦果も得られ、下級貴族も買収できる。無暗矢鱈に滞在しているよりは建設的だ。


「卿の言いたいことは理解した。しかし、帝国の直轄地と言うが代官は必要だ。誰が手配するのかね?」

「それはもちろん砦を築いた人が手配するのが道理でしょう」


 砦を築いた資金と労力を提供したものがこの地を治める。道理だ。これだけの貴族が納得していれば皇帝も反論は出来ない。すれば対立を生むだけだ。


「若造めっ、何を言うかっ!」


 椅子を蹴り倒して立ち上がったのは筋骨隆々の壮年であった。如何にも武辺者であるという風貌だ。ゴードラルド侯爵である。シオンはばれない様に小さく溜息を吐いた。


「戦もせずに引き下がるとは何たる恥晒し! 帝国の威光を地に落とすつもりかっ!」

「そういうわけではございません、閣下。誰も戦をしないとは申しておりません」

「其方は戦うと一言でも申したかっ!?」

「申しておりませんが、考えてみてください。我らが目の前に砦を築くのです。王朝側は黙って見ているとお思いですか?」


 そのようなはずがない。黙ってみているとあらば、ただ帝国に領地を割譲しているだけになってしまう。さらにシオンは畳み掛けた。


「もし、王朝側が指を咥えて見ているだけなのであれば、それこそ我ら帝国の威を国内外に示すことになりましょう。王朝が恐れをなして手出しできない。素晴らしいではありませんか」


 笑顔で告げるシオン。彼としては戦をしないのであれば一刻も早く帰りたいと思っていた。野営地はぴりぴりして息が詰まる。そう思っていたのだ。


「バレラード卿の意見を支持しよう」


 グレンダがそう言う。彼女としても一刻も早く帝都に戻りたいのだ。今、彼女はロメリアから意図的に離されている。というのも、ロメリアは帝国の皇子とお見合いの最中なのである。もちろん、三人の皇子それぞれと。


 その場にグレンダが居た場合、大問題に発展していた可能性がある。それはどんな問題か。ロメリアを愛するがゆえに皇子を殺害するという問題である。シュテイ大公はそれを嫌ったのだ。


「私も賛成しよう」

 

 クリュエも賛成の意を示した。クリュエも早く領地に戻りたかった。ルリュエがどのように暗躍しているか、気が気ではないからである。しかし、どちらもシオンに近い貴族である。問題はここから賛同が増えるかだ。


 シオンとしては勝算があった。何もシュティ大公に近いのはシオンだけではないからである。


「グレンダ殿が賛成なされるのならば私も賛成しよう」

「では、私も」


 こうしてシュティ大公の威光を借りて半数以上の人間が賛成の意を示した。いつの時代もどの世界でも人間というものは長いものに巻かれるものである。


 そこから先は詳しい話、下級貴族にいくらくらい払うのか。誰がどの貴族に払うのかという議題に移った。そこまでいけばシオンはお役御免だ。


 やっと領地に帰れる。その思いを胸に天幕を後にするのであった。

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[一言] さすがに30人の兵では派手なこともできないだろうし。 兵を損ずることもなく、派兵した名誉と一応の勝ち戦での形での決着案の提供とちょっとした略奪による臨時収入を得たと。 最上に近い成果かな…
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