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襲って奪うが戦の醍醐味

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【東暦 一〇〇五年 八の月 十の日】


「暇ですねぇ」

「そうだな」


 ココが手持ち無沙汰にそう呟く。周辺の調査だけで時間が過ぎていく。一日、また一日と。どうやら睨み合いが続いているようなのだ。


 そうすると食糧が枯渇しそうになった。なので、シオンは中央に伺いを立てた。周辺から食糧を調達してきても良いかと。つまり、村々を襲って良いのかと聞いたのだ。


 回答は可。


 シオンはその返答を伝令に遣わしていたオルグから聞いた時、にやりと笑ったと言う。そして兵たちを武装させて集合をかける。おそらく、中央としては敵を挑発する目的があったのだろう。


「皆に伝えなければならないことがある。実は、食糧がもう無い」


 どよめく兵士たち。当たり前だ。食糧がないと言われたら誰だって動揺する。ただ、それを宣言するということは解消方法があるということだ。


「なので食糧を調達しに行く。ココ、地図を」

「あいさ!」


 ココが地図を確認する。ここ数日の頑張りで地図には沢山の書き込みがされていた。そして近くの村の一つに狙いをつける。王朝の散村だ。


 だが、シオンはこの期に及んで悩んでいた。問題はどれだけ苛烈に食糧を取りに行くかだ。流石に善良な市民を皆殺しにするのは気が引ける。さて、どうしたものか。


 シオンは判断をするための情報をココに求める。


「近くに王朝の兵は来ているのか?」

「ここから東にあるドードリ砦に二万の兵が入ってると噂してました!」


 距離は約二キロ。歩けば老人でも一日で到着できる距離だ。つまり、村人を逃がすこともできる。自分にそう言い聞かせてシオンは覚悟を決めた。そして兵士たちにこう命じる。


「オレたちはこの村を襲いに行くぞ。全員、オレの指示に従え。絶対にだ」

「「「ははっ」」」


 シオンは兵を引き連れて近くの散村に向かった。そして兵士たちに指示を出す。村人全員を一か所に集めろと。兵士はその通り、無抵抗な村人を暴力で恫喝しながら広場に集めた。


「バレラード閣下、集まりました」


 イムスが仰々しくシオンを呼ぶ。シオンもわざとらしく「うむ」と言いながら重々しく頷いた。村人は全部で二百人くらいのようだ。バレラードよりも本当に小さな村である。


 危ないと感じた村人は既に東へ逃げ延びたのも人数が減っている要因の一つだろう。なので、残っているのは逃げなかった年寄りが主だっていた。


「私たちは帝国の兵士だ。帝国からは王朝の民を皆殺しにするよう伝えられている」


 シオンがそう述べると村人たちがごくりと喉を鳴らした。殺される。そう思っているだろう。しかし、シオンはそうしない。あくまでも恩着せがましくこう述べた。


「だが、私は無垢な民である貴方たちを殺すことはできない。見逃すので此処から立ち去れ。東に進めばドードリ砦が見えてくる。そこに向かうのだ。さあ、行け!」


 村人たちが着の身着のまま逃げ出した。一人が逃げ出すと全員が逃げ出す。殺されると思ったのだろう。しかし、シオンは追い払うに留めた。それを見えなくなるまで眺めてから、全員で村を漁る。


「盗むんじゃないぞ。奪ったものは全部集めろ。それを均等に三十に分けるからな」


 村には少量の食糧が保管されていた。その他にも王朝で使われている貨幣や鉄器具、衣類なんか根こそぎ奪い、シオンが乗ってきた馬を荷馬にして括り付けて輸送した。量としては馬と兵で運べる量しか手に入らなかった。


 村人は巧妙に隠していたのだが、それを根こそぎ暴いていったのがココである。元盗賊としての鼻が利くのだろう。そんなココをシオンは頼りにしていた。


 しかし、これでも当分は食糧に困ることはなさそうである。それと同時に兵たちの士気が上がった。食べ物だけじゃなく、臨時収入まで手に入ったのだ。シオンは彼らに兵士になって良かったと思わせたいのだ。


 シオンも良い実入りとなったと喜んでいた。そしてふと思う。戦争が起こるだけで稼げるのではないかと。彼らを鍛え、傭兵団化すれば貴族に恩を売れるだけじゃなく、こういった副収入にありつけると。


 しかし、シオンは頭を振ってこの思考を除外する。喜んで戦争をする人間は悪だ。悪になる必要は無いのだと。


 だが、考えをブラッシュアップする必要はあるが、インに相談してみても良いと思っていた。天幕に籠もり、シオンは考えをまとめる。


 そしてまた何日か過ぎた。戦はまだ発生しない。ずっと睨み合ったままだ。流石のシオンも不思議に思い始めていた。何故戦が始まらないのかと。


 答えは簡単である。王朝が持久戦を選んだからだ。帝国としては出兵している以上、何らかの戦果を上げたい。出征費も馬鹿にならないのだ。


 味方は三万五千に対し、相手は二万。兵数では勝っているが敵方は砦に籠もっている。攻め掛かって勝てるかどうか。勝率は良くて三割だとシオンは思っていた。


 そんなシオンのもとに来訪者が現れる。クリュエだ。戦に発展しないクリュエはこれ幸いとロビー活動に勤しんでいたのである。次期当主となるために。


「バレラード卿、ご機嫌如何かな?」

「可もなく不可もなく、と言ったところでしょうか。お坊ちゃまはご機嫌が良いようですね。煽てられでもしましたか?」


 シオンは不貞腐れながら、さらりと辛らつな言葉をかける。しかし、クリュエはそれを意に介していなかった。それほど諸侯に褒められたのが嬉しかったのだろう。シオンはオレならば今殺すと思っていた。


「しかし、いつまで此処で燻っているおつもりなのでしょう。お坊ちゃま、何か伺ってはおりませんか?」

「攻めあぐねているのは事実のようだ。軍議は紛糾しているみたいだぞ」


 領地を荒らせば後の統治が難しくなる。それは避けたいようだ。かと言って戦に勝つ見込みもない。それならばどうするか。シオンが一計を案じる。


「良い案が思い浮かびました。坊ちゃま。この陣に居るお偉方を教えていただけますか?」


 クリュエが名前を羅列していく。その中にはシュティ大公の名代として家臣のグレンダが参戦していた。彼女としては本望ではなかったのだが、当主と孫娘のロメリアから請われては断れない。


 シオンはこれ幸いと諸将の軍議に参加させてもらうことにした。次の開催は明日の夕方だと言う。そしてシオンは独り言ちた。


「頭を使うのは得意じゃないんだがなぁ」


 生き残るため、そして無事に帰るためにシオンは足りない頭をせっせと絞り、どうやって諸侯を説得するかを考えるのであった。

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