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戦の香り

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【東暦 一〇〇五年 七の月 三十の日】


 それから兵士たちの訓練にも熱を帯びていた。やはり賊の命を奪ったのが大きな要因だろう。顔つきが明らかに違う。


 街道の整備も進み、徐々にだがバレラードの地に活気が色づき始めていた。それは村長の世代交代も大きな要因だったに違いない。そんなことを思いながら羊を撫でる。


「シオンさまー! これを!」


 シオンが羊と戯れていたところ、インがシオン目掛けて駆け寄ってきたのである。その手に握られていたのは一通の手紙。蝋印はシュティ大公家の印が押されていた。


 シオンはそれを手に取り、蝋を割って中に目を通す。そして天を仰ぐ。とうとうこの時が来たかとシオンは思っていた。インが中身を読みたそうにしているので、手紙を手渡した。


「戦……ですか」

「だな。はー」


 手紙にはシュティ大公家から戦の用意を整えておくようにとの忠告の文言が並んでいた。どうやら帝国の南東で小競り合いが発生しており、それが大戦に発展しそうなのだ。


 その理由は至極簡単。帝国と隣接している王朝が領地を広げんと攻め込もうと試行錯誤しているのだ。帝国としても大人しくやられているだけでは気が済まない。


 向こうがその気なら、逆に王朝に攻め込んで王朝から金銀財宝などを根こそぎ奪って来ようとしているのである。やはり戦争はお金になる。もちろん、勝てればの話だが。


 勝てなくても戦争をするだけで大金が動くのだ。商人が貴族を唆し、貴族が平民を追い詰める。どの世界でもこの構図は変わらない。


 理由はともあれ、帝国のこの考えにシオンは賛成だった。戦うならば敵地で戦うべき、がシオンの考えである。戦場は悲惨だ。防衛だろうが攻勢だろうが敵地で行った方が良い。


 しかし、そうは言ってもシオンが動かせるのはたったの三十名だけ。小隊ほどの人数しか用意できていないのである。更に言うならば昨日今日集めたばかりの新兵だ。


 だが、功を上げて褒美をもらう良い機会である。シオンは急ぎ、その三十名の兵を集めた。


 それからインに命じる。旗を作れと。シオンが此処に居るということを証明するための旗を用意させようというのだ。しかし、インが逆にシオンに尋ねる。


「あのー、どんな旗にするんですか?」

「あー」


 そうなのだ。新しく家を興したとなれば元となる旗はない。そして龍や鷹、蛇や獅子など有名どころの動物は使われてしまっている。


 剣や弓もだ。同じモチーフを使用してしまうと判別が難しくなるので推奨されていない。


 もちろん分家などであれば話は別だ。しかし、シオンは一から家を興した。シュティ大公家に大恩はあるが、紋章はまた別の話である。


 集まった兵士たちもシオンとインがやいのやいの言い合っているのを興味深く見守っていた。


「あー、もうわかった。じゃあ旗は真っ黒に染め上げろ」

「それからどうするんです?」

「それだけだ」

「え?」

「だから、それだけだ」


 シオンは真っ黒な旗を自身の紋章にしようとしていた。昼間の戦場であれば目立つ上に制作も手軽である。兵士たちの軽鎧にも簡単に記すことが出来るのだ。


「とにかく、旗の話はこれで終わりだ。オレの旗は黒。以上、終わり!」


 そう言ってシオンは話を打ち切り、兵士たちの訓練とこれから迫るであろう戦へと頭を切り替えるのであった。


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