降参するシオン
「そんな! それは困ります!」
解雇を告げられたアンとサラはシオンに泣き縋る。これにはシオンも困惑していた。良いことをしたはずなのに悲しまれる。シオンは何が起きているのかすぐには理解できていなかった。
実のところ、アンもサラも無理やり働かされているわけではないのだ。アンは家族が死別し、身寄りがなく仕事もないところをデュポワに働き口を斡旋してもらっていたのだ。
また、サラの父はダバスの腰巾着だった。そのダバスが失脚した以上、彼女の家も村八分にされる恐れがある。乱暴される恐れがあるのだ。出来ることなら屋敷で働いていたいだろう。
しかし、こんな屋敷一つに対し、四人の家政婦は過剰すぎる。二人でも過剰だと思っていたのだ。それなのに三人ではなく四人になるのだから頭を抱えるのも無理はない。
蓄えはある。デュポワからありったけのお金をせびってきたのだ。ちょっとやそっとじゃ傾かないだけの額がある。しかし、だからといってそれを使って良いのかといわれたら疑問だ。
しかし、問題は雇うか雇わないかの二択である。それ以外の選択肢は今のところない。潤んだ瞳でシオンを見るアンとサラ。情には流されたくないと思いつつも、流されそうになる。
冷静になるため、一度深呼吸をする。彼女たちを雇うメリットとデメリットを計算するのだ。メリットは美人に囲まれて生活できるため、シオンの幸福度が上昇する。
そういう冗談は置いておいて、まずララは明確に雇用するメリットはある。経理財務を彼女に任せることが出来るのだ。四則演算が出来るのだから鍛えればそれなりになるだろう。
運営と税務は別けておいた方が良い。兼務していた場合、財政に対する抑止力がなくなってしまうのだ。シオンは意図せずにそれを別の理由から行おうとしていたのである。
さて、残るは三人だ。ジナとアンとサラである。シオンの目から見て彼女たちの家政婦スキルは五十歩百歩だ。誰を家政婦として雇っても変わりはない。悩みどころである。
「むーっ」
シオンが視線に気が付く。その視線の主はインであった。頬を膨らませ、シオンを睨むイン。当然、シオンは困惑した。何故、インが自分を睨んでいるのか理解できなかったからだ。
「あー、まあ、なんだ。とりあえずララ。君は採用だ。当家の財務と経理を担当してくれ。給金に関しては後で話し合おう」
「ありがとうございます。精一杯働かせてもらいます」
「残りの三人だが、君たちは何ができる?」
そう。やれることがあるなら雇う。需要と供給である。そして行えることがないなら雇い止めをする良い口実になると思っていたのだ。最初に口を開いたのはアンである。
「わ、私の家は羊の世話をしていました。なので、馬の世話ならお任せください」
馬を四頭も手に入れたは良いものの、世話の方法など全く理解していないシオン。彼よりはアンの方が世話に向いているのは確かだ。毎日の世話に健康の確認や繁殖など、やらなければならないことは沢山ある。
「わかった。じゃあアンを厩番として雇おう」
次に声を上げたのはサラである。彼女も彼女なりに屋敷に残ろうと必死だ。そして彼女は悪くない。悪いのは村長であるダバスに取り入って手を拱いている父である。
「わ、私は裁縫と織機が出来ます。解れも縫い直せますし、簡単な衣服であれば縫うことが出来ます」
これも大事な能力だ。手機が出来るのであれば羊を飼えば布を生産できる。そして羊はアンが飼えるのだ。バレラードは帝国でも最北に位置する。ウールは暖という意味でも大事だ。
「わかった。雇おう」
最後はジナである。しかし、彼女は黙ったままであった。シオンは彼女を見る。彼女と目が合う。ジナはシオンにパチリとウインクした。シオンは思う。なるほど、そういうことかと。
他の二人が違う職に就いた以上、家政婦となるのは彼女だ。それを理解していたのである。また、彼女はシオンに切り捨てられないという自信もあった。
昨夜、インとララが寝静まったころ、馬車内でシオンと外には言えないあれだけのことをしたのだ。そしてシオンは薄情ではなく義を重んじる。
「わかった。オレの負けだ。全員雇おう」
頭を掻いて承諾を告げるシオン。こうして、めでたく全員がシオン=バレラード家で働くことになった。インの顔はしかめっ面のままであった。
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