どちらに付くか
馬車を走らせ、ゆっくりと村に戻るシオン一行。既に日はどっぷりと暮れている。今日は生憎、新月だったので、迷子にならないよう、この場で一泊することにした。
ただ、シオンとしても考えがあった。村人たちに考える時間を渡すためである。アンソニーは言った。村長の指示だったと。となると村長も処断しなければならない。
これをアンソニーの妄言として村長を許すか、それとも村長ごと処断するか村は揺れているだろう。領民たちは今日は眠れないはずだ。シオンはそう見ていた。
そして事実、村の代表者は一つの家に集まって喧々諤々と今後の対応を模索していた。村長のせいで存亡の危機である。この場に村長は居ない。
アンソニーは既に村の端にさらし台に拘束されていた。殺されてはいない。勝手に処刑するのを躊躇ったと見える。
問題は村長である。アンソニーは村長の指示だと言った。村人たちもそれは事実だと暗黙的に認識していた。しかし、村長は村の権力者。おいそれと処遇を決めることは出来なかった。
つまり、新しい領主に付くか、それとも今までの村長に付くかを決めなければならないのだ。この会合に参加していた男の一人が言う。
「村長に付いたとしても領主様が村長を処断してしまったらオレたちも巻き添えを喰らっちまう! 村長じゃなく領主様に与するべきだ!」
権力の構造は明らかにシオンの方が上だ。なのでシオンに与するべきだと声高に主張していた。それに追随する若い世代。しかし、これに難色を示すのは年配衆である。
年配衆は村長に便宜を図ってもらっていた。恩義があるのだ。それを蔑ろにしてしまうことに抵抗があった。話はまとまらず、平行線を辿ろうとしていた。
「ならアンタたちは村長に与すれば良いじゃないか! オレたちは新しい領主様に味方するぞ!」
声を上げた青年がいた。ベンだ。それだけを言い残して数人を引き連れて立ち去ってしまった。これに困ったのは年配衆である。領主であるシオンに村長を処断する口実を与えてしまったのだ。
ことここに至っては村長を処断するしかない。その結論に至るまで時間はかからなかったのであった。夜が明ける前、村人たちは村長の屋敷を取り囲み村長の家を襲撃する。
もちろん村長を捕えるためだ。そしてシオンに村長を差し出すのである。しかし、悲しいことに村長の家はもぬけの殻だった。ご丁寧に家族と貴重品が無くなっている。
これに顔を青くしたのは村人たちである。村長が居なくなった。それをシオンに伝えて理解を得られるだろうか。匿った。逃がしたと思われないだろうか。慌てて周辺を探す。
そうこうしている内にシオンが馬車に乗って帰ってきてしまった。心なしか充実した顔をしている。昨夜、馬車の中でナニか良いことがあったのだろう。深くは追求すまい。
村人たちは覚悟を決めた。そして代表して一人の男――ベンである――がシオンの馬車の前に進み出た。シオンは馬車を止め、ベンを見つめる。シオンからは声をかけない。
「りょ、領主様! この度は大変に申し訳ございませんでした! 村人一同、反省しております! 主犯のアンソニーは村の端に晒しております! これで、これで何卒、ご容赦を!」
ベンは地面に頭を擦り付ける。後ろに控えていた村人たちもベンの真似をした。シオンとしてはそこまで怒っていないのだが、気になることが一つある。そう、村長だ。
「ダバスはどうした?」
その一言で村人に緊張が走る。誰も答えない。シオンはそれで察した。何か良くないことが起こっているのだと。そこで、敢えてそこまで怒っていないのに大声で怒鳴り散らかした。
「ダバスはどうしたっ!」
「朝、家を訪ねたら居なくなってました! 申し訳ございません! 申し訳ございません!」
震えながら許しを請うベン。何故にこんなに怯えているのかと言うと、シオンの恰好に原因がある。七人もの男を斬ったのだ。返り血で衣服が真っ赤に染まっていた。これで怯えない村人はいないだろう。
村長が居なくなった。おそらくは黒だったのだろう。シオンはそう考えるも村人たちが逃がした、匿っているという疑念が拭えない。なので、考えることを放棄した。
「だそうだ。イン、お前はどう考える。そしてどうする」
インに丸投げしようというのである。インは尋ねられて幌馬車の中から答える。自分の中で最大限の声を張り上げて村人にも聞こえるよう叫んだ。
「許しましょう! 今回の件、村民の総意でないことは理解しております! しかし、起こってしまった事実は消せません! 二度目は無いと思ってください!」
インは判断した。村人に恩を売っておいた方が後々の統治が楽になると考えたのだ。インにとっては屈辱的な出来事であったが、タダでは転ばない。転びたくないのだ。なんともたくましい女性である。
「だそうだ。今回の件は不問とする。村長の財産はオレが接収する。代わりの村長はお前が務めろ」
シオンはベンを次の村長に指名した。そしてベンを近くまで歩かせてこう呟く。血に塗れた領主からの言葉だ。拒否できるわけがなかった。
「村長派は誰だ。全て洗い出せ」
「わ、わかりました」
「お前には期待している。これからよろしく頼むぞ」
「は、はい」
完全に蛇に睨まれた蛙である。シオンとしては対等な良好な関係を築いていきたいのだが上下関係が成立してしまった。シオンは貴族だ。こればかりは仕方がないのであった。
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