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バレラードの地にて

【東暦 一〇〇五年 四の月 十一の日】


 バレラードの地に足を踏み入れる。確かに噂に聞いていた通りの荒地だとシオンは思っていた。土が乾燥しており、作物が育ちそうもない。ただ、それを考えるのはエメの役割だと思い、シオンは思考を放棄した。


 バレラード村に入るシオン一行。二百前後の家が建っており、九百人程の村人が住んでいる小さな村だ。九百人といえば、下手をしたら高校の在学人数よりも少ないかもしれない。


 デュポワが建ててくれた屋敷に足を運ぶ。玄関ホールに客室、応接室に執務室。それからキッチンに土間。そして空き部屋が三つの豪勢な屋敷である。


 この屋敷が建てられている最中の村人の気持ちは酷く暗かっただろう。どんな成金が代官として赴任してくるか気が気でなかったと思う。シオンたちも屋敷を見上げて唖然としていた。


「こ、このお屋敷がシオンさんの住むお屋敷ですか?」

「そう、みたいだな」


 インの言葉に同意するシオン。彼ら一般人からしてみれば充分な豪邸なのである。ただ、貴族となるのだ。最低限の迎賓施設が必要なのも事実である。


「ふぅ。じゃ、これで依頼は完了ってことで良いかい?」

「ああ、ご苦労だったな。後は幌の弁償だけ頼むよ」


 コラリーに紙を突き付けられるシオン。完了のサインを求められたのだ。それに対し、サインと補填の旨を記載するシオン。コラリーの顔が僅かに歪む。


「がめつい貴族様だねぇ」

「まだ傭兵の気質が抜けないもんでね」


 コラリーはシオンの手から紙を奪い取る。そしてさっさと立ち去って行ってしまった。残されたのはシオンとインとエメ。それにココと馬が二頭である。


「イン。オレはまず何をするべきなんだ?」

「まずは村長に挨拶しに行くべきかと。呼び付けても良いのですが、良好な関係を望むのならば赴いた方が良いと思いますです!」

「わかった」


 張り切るイン。ここからは自分の出番だと思っているのだろう。シオンはインの言う通り、荷物の搬入が終わったら村長のもとに挨拶に伺うことにした。


 しかし、シオンよりも早く村長がこちらを訪ねてやってきた。村長だけじゃない。村のお偉方、数人を引き連れてである。


 中心にいるのが村長のダバスである。五十を過ぎ、六十に入ろうかという年齢の割には身体つきは良い。日頃の農作業の賜物だろう。ただし、髭はふくよかなのだが頭は禿げ上がっている。


「あの……新しい領主様でしょうか」

「ああ、そうだ。オレが領主のシオン=バレラード准男爵だ」


 そう言うと村長たちはその場にひれ伏した。思わず動揺するイン。シオンは至って冷静だった。これが心からの臣従なのか、見せかけの臣従なのか見極めているのだ。


「悪かったな。荷解きが終わったらオレから伺うつもりだったんだが、足労をかけてしまったな」

「いえいえ! お貴族様から赴いていただく訳には。申し遅れました。私が村長のダバスでございます」

「突然の出来事で驚いただろう。皆には心配するなと伝えておいて欲しい。ただ、これからは税を国ではなくオレに納めてくれ。今まではいくら納めていたのか、詳しい情報をこの子に頼む」


 そう言ってシオンはインの背中を押す。自信満々の表情を浮かべるイン。


 なぜ自信満々の表情を浮かべるのか。それはシオン達はバレラードの人々がどれだけの税を納めていたのか知っているからである。国からその資料は一通り貰っているのだ。


 では何故聞いたのか。それは嘘偽りなく村人たちが申し出るかを試しているのだ。この村は作物と特産品の六割を税として持っていかれると城には記載されていた。


 そう聞けば重税に聞こえるだろう。しかし、代わりに賦役などを課されずに済むのだ。これが何を意味しているのか。


 隠田が蔓延っている。インはそう推測していた。じゃなければ六割も持って行かれて平然としていられるわけがない。実のところ、他の村よりも裕福に暮らしているのだ。


 その証拠が子の数である。裕福でなければ子は養えない。この村に住む家族の平均的な子の数は六人。中央値である五人を超えているのである。


 医学が発達していないので死産も多いだろう。なので、本来ならばもっと増えていてもおかしくはないのだ。彼らはそれだけの生活が送れているのである。


 なお、税は全て農産物で納められていた。何故農産物なのか。それはこの村に商店が無いからである。お金を使う場所が無いのだ。


 必要な物資は行商人が来た際に農作物や手工業品を売却、もしくは交換して手に入れているのだ。それほどまでにこの地は発達していないのである。


「歓迎の宴をご用意いたしますので――」

「いや、それは無用だ。それよりも……そうだな。村人を全員集めてくれ。それだけで良い」


 シオンは敵意がないこと。村人たちと上手くやっていきたいことを伝えるつもりである。彼は裕福に暮らしたいという願望はないのだ。あるとするならば、元の世界に戻りたいという思いだろうか。


「か、かしこまりました」


 村長のダバスはそう手短に返答すると立ち去って行ったのであった。

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