領地への旅立ち
【東暦 一〇〇五年 三の月 三十一の日】
シオンたちは残りの十日間も人材探しに注力した。しかし、これ以上の人材を発掘することが出来なかった。だが、却ってそれで良かったのかもしれない。
人口たったの九百人しか居ない領地だ。役人が三人も居れば十分だろう。これ以上は過多になってしまうかもしれない。所謂ミニマムでのスタートである。
ほかにもデュポワ大公が遣わしてくれる使用人が二、三人付いてくるのだ。彼ら彼女らに手伝って貰えば確実に仕事は回る。
准男爵など、所詮は貧乏貴族なのだ。余剰なお金もなければ遊ばせておく人材もないのである。
「これ以上は集まらんか」
「はいぃ。力及ばず、申し訳ないです」
「いや、別にインのせいではないさ。これ以上、ここでグダグダしていても仕方ない。さっさと領地に向かうとしよう」
ベネットの話では本日に馬車が到着する手はずになっている。シオンと垢抜けたイン、エメの三人はそれを今や遅しとデュポワの屋敷の前でそわそわしながら待っていた。
「今日発つか。寂しくなるのぉ」
「何を言う。内心ではせいせいしている癖に」
大公デュポワがシオンの隣に並んでそう述べた。シオンはそんな大公に物怖じせず軽口を叩く。グレンダたちが遠くからシオンを睨み付けていた。生きた心地がしないのはインであろう。
「バレておったか。だが、孫娘を助けて貰った恩は忘れんぞ。延々とな」
「生い先短いんだから、それくらい忘れずに覚えておいてくれよ。耄碌せずにな」
軽口を止めないシオン。ただ、シオンも馬鹿ではない。デュポワなら許してくれるという確信と、もし許されなかったとしてもグレンダたちはシオンを襲えないと踏んでの発言だ。
この場合、グレンダが避けたいのはデュポワの死である。そして隣にはシオン。彼であれば一瞬でデュポワを殺せるだろう。なので、迂闊なことが出来ないのである。
「おっと、来たようだな」
遠くから屋敷に向かってくる二頭立ての幌馬車。到着するや否や、まずはインとエメが荷の確認に奔走する。自分が頼んでいた荷があるかどうかを確認しているのだ。
「シオン閣下、お待たせいたしました。こちらがお品物になります」
ベネットが箱を開ける。そこには小さな魔石が三つ並んでいた。右から発火の魔石、収納の魔石、産水の魔石となっている。きちんと作動するか確かめるシオン。
使い方は簡単である。産水と発火は魔石を力いっぱい握り込むだけである。それだけで手から――というよりも握り込んだ魔石から――水が溢れ、魔石から小さな火が上がった。
「あちっ!」
「失礼。発火の魔石は摘まむようにお使いください。中央が発火いたしますので。さて、収納の魔石ですが、こちらは魔法陣を記載ください」
ベネットは魔法陣とシオンに告げたが、なんてことはない。魔石で地面に四角を描くだけである。時計回りに描けば収納、反時計回りに描けば取り出しである。
狙った品だけ取り出すなど器用なことは出来ない。入れるか出すか。なんとも男らしい魔石である。シオンは三つの魔石の全てを確認し、ベネットから受け取る。
「シオンさん! 荷物全てありました!」
「私の荷物も全部ある」
「よし、じゃあ出発するか。乗り込みな」
二人は小さな身体を荷馬車の空いているスペースに滑り込ませる。荷がいっぱい過ぎて荷馬車の中で横になることもできなさそうだ。ただ、自分たちの荷物に埋もれ、二人は幸せそうであった。
「シオン閣下、代金を」
「ああ、そうだったな。おい、じいさん!」
ベネットは驚愕する。大公デュポワをじいさん呼ばわり出来るのは世界広しといえどシオンだけだろう。そしてシオンはこう言うのだ。
「じいさん、ここの支払いもまとめて頼むわ」
それだけを言い残しシオンは馬車に乗り込む。そしてデュポワが金額を確認しているうちにシオンは拙い技術で馬を走らせる。そしてデュポワの声が離れていくのであった。
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