他人の金
「バレラード准男爵閣下」
「なんだ?」
ベネットがシオンに呼びかける。そして別の部屋にシオンを誘導した。それは四階である。そこには魔石や名剣、宝石の類が厳重に管理されていた。流石は当代随一の商会である。
「こちらにはご覧の通り、高額の品々が並べられております。これから領地を運営なさるということですので、何かと必要かと。例えば……魔石とか」
ベネットはシオンの懐を全て空にしてやろうと思っていた。いくら新興貴族とはいえ、支度金をもらっているはず。その金を根こそぎ掠め取ろうとしているのである。
「ふむ、魔石か。噂には聞いていたが初めて見た。確かに必要かもしれんな」
「でしょう。産水の魔石や光明の魔石、発火の魔石に防音の魔石、通信の魔石に更には収納の魔石まで取り揃えておりますよ」
シオンが魔石を見て回る。安いのは発火の魔石である。それでも大銀貨五枚の価格だった。シオンにとってみれば、ライターが大銀貨五枚。五万円もするのだ。阿呆らしくて仕方がない。
しかし、そこはシオン。ただでは転ばない男。一番高い産水の魔石を指差す。彼の心にも遠慮があったのか、一番小さな産水の魔石だ。
それでも一分間で一リットルの水を生成することが出来る。これは半永久的にだ。これがどれだけの価値を持っているのか、この世界ではシオンだけが理解していた。飲料を手軽に入手できるのだ。行軍の手間が大幅に改善されるのである。
いや、他の者も理解はしているが、無意識のうちに産水の魔石とはそうあるものだと思い込んでいるのである。その産水の魔石のお値段は何と大金貨五枚。親指ほどの大きさで日本円にして五百万円である。
また、収納の魔石にもシオンは興味を示していた。一番小さな魔石で価格は金貨四枚。他と比較して安く感じるが、収納量も少ない。一立方メートルも収納できないのだ。それでもありがたいのに変わりはないのだが。
だが、その効力は先に述べた通りだ。買わないという選択肢はない。シオンは産水の魔石と発火の魔石、それから収納の魔石の合計三つを購入することにする。もちろんどちらも一番小さい魔石だ。
「かしこまりました。これらも追加しておきましょう」
四階を見て回るシオン。名剣と呼ばれる類もここにあった。しかし、そのどれもシオンの持っている太刀、与三左衛門祐定を超えるものはなかった。そもそも日本刀のような武器は無い。
一通り見て回ると三階では既に欲しいものを山ほど注文したインとエメの二人が満足そうな笑みを浮かべていた。商品が到着するのを今や遅しと待ちわびているのだろう。
ベネットが少年のメモに視線を落とす。そして算盤を持ってきて計算を始めた。何度も検算をしている。金額と品物の量が多いのだろう。そしてベネットふぅと息を吐いてから告げた。
「しめて大金貨九枚と金貨五枚、大銀貨七枚に銀貨三枚でございます。端数はサービスとさせていただきましょう」
日本円にしておよそ一千万円の買い物である。そんな買い物を目の前にシオンはしれっとこう述べる。これが彼の考えていた支払い方法であった。
「そうか。じゃあ、それはすべてデュポワ大公に付けておいてくれ」
「……は?」
驚いた顔をするベネット。商売をしてきて初めてだろう。貴族に付けておいて欲しいと言われたのは。まとめて末に後払いなどは何度もあった。しかし、付けておくのは初めてである。
「えーと……」
「品物をデュポワ大公の屋敷に運んでくれ。ああ、忘れてた。荷馬車と馬車馬も必要なんだった。それも追加して屋敷まで頼む」
シオンが良い笑顔で答える。この世界に来て一番の笑顔じゃないだろうか。他人のお金でする買い物ほど楽しいものはない。シオンは後にそう語ったという。
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