二人の少女
【東暦 一〇〇五年 三の月 二十二の日】
それからというもの、インは赴任することになるバレラード地方の情報を集めながら、協力してくれる人が居ないか様々な方法でアプローチをかけていた。
学内に張り紙で掲示をしたり、知り合いに声をかけて回ったりと、それはもう彼女なりの、彼女が思い付く限りの地道な努力を重ねていたのであった。
対してシオンはというと、果報は寝て待てと言わんばかりに稽古をするか寝るか食べるかの三択な生活を送っていたのであった。
こう聞くとシオンがインをこき使って堕落していると思われがちだが、彼は分を弁えているのである。自分のような人間に人集めは出来ないと。
戦うことしか能のないシオンが出る幕ではないのだ。ここはインが頑張る場面なのである。シオンはそれを本能的に察知していたのであった。
そして更に幾日か過ぎた後、シオンの耳に二つの知らせが入ったのであった。一つ目はデュポワからである。シオンの屋敷の建築に着工したという知らせだ。
あくまでも着工である。完成には一月近く掛かるだろう。知らせがデュポワに届いた頃には既に二割近く完成しているはずだ。なので、こちらで十日ほど時間を潰してから出発すれば到着するころには完成しているだろうという見込みなのである。
それからもう一つはシオンとインに新たな仲間が増えたことだ。インが新たな仲間をシオンのもとに連れてきたのだ。
その名もエメ。インと同じくらい小柄な少女なのだが、彼女とは正反対の性格のようだ。まったくやる気が感じられない。
「シオンさーんっ! 新しい仲間を勧誘してきましたっ! 彼女もぼっちのようでしたーっ!」
もし、インに尻尾があったら喜びのあまり、尻尾が千切れんばかりに左右に振っていただろう。そしてシオンの目には彼女のお尻から生える尻尾が見えていた。
「よしよし。良くやった。偉いぞー。だがな、あまり大きな声でぼっちとか言うんじゃないぞー」
犬をあやすようにインを褒めるシオン。インも嬉しそうに目を細めていた。どうやらインは褒めて伸びるタイプの少女のようだ。シオンは目線をエメに向ける。
「で、彼女は?」
「はじめまして。シオン=バレラード閣下。エメと申します。彼女から好き放題やって良いと聞いたので、馳せ参じました。どうぞ、末席にお加えください」
気怠そうにボサボサ伸びた赤毛の髪を邪魔臭そうに掻き分けながらそう挨拶をする。包み隠さず本音を言うタイプの少女のようだ。シオンは思考する。インが連れて来た人材だ。何か意図があるに違いないと。
「イン、エメは何が出来るんだ?」
「はい、彼女は学び舎でずっと植物に関して勉強していたのです!」
「植物……つまり、作物とか栽培とか、あー、つまり農業の勉強をしていたということか?」
「概ねその認識で合ってますです」
「ふむ」
シオンも理解している。第一次産業が領地経営の要であると。こと古代。西暦十世紀前後は第三次産業よりも第一次産業の方が大事なのだ。自給率が百を超えていれば余剰分を売り捌いて利を貯めることが出来る。常識である。
「悪いんだが、多くの報酬を支払うことは出来ないぞ?」
「構わないです。私は自分の研究だけできればそれで満足です」
つまり、エメは知的欲求を満たすことが出来れば満足だと言っているのだ。シオンにとっても悪くない話だ。二つ返事でエメを迎え入れることにした。そういう人物は扱いやすい。
「わかった。では、これからよろしく頼むぞ」
「お任せください。つきましては欲しいものがいくつかございます」
「なんだ?」
シオンがそう尋ねると出てくるわ出てくるわ。麦や野菜の種から鍬や鋤やらの農機具から品種改良のあれこれまで出てくる始末。これ目当てだったのではないかと勘繰りたくなるほどだ。
そしてこれに乗じよと言わんばかりにインも机と椅子、書棚に箪笥など欲しいものをこれでもかと羅列し始めた。流石に全てを叶えることは出来ない。いや、出来るのだが出費は抑えたいと思うシオン。
しかし、彼女たちが欲しがるのも道理だとシオンは思っている。バレラードは帝都とは違い、小さな村なのだ。欲しいものはおそらく帝都でしか手に入らないだろう。
「わかった。じゃあ、明日買いに行くぞ。朝一にここに集合だ。来なかったらナシだからな」
「ん、わかったです」
「かしこまりましたっ!」
そう言って二人を帰す。それからデュポワに懇意にしている商会を紹介してもらおうとシオンは彼のもとを訪ねる。がしかし、残念ながらデュポワは不在のようであった。
仕方がないのでデュポワではなく家宰のゴードンに懇意にしている商会を紹介してもらった。明日はそこに向かうことにする。商会の名はトルーマン商会というらしい。
道順と担当者を教えてもらい、翌朝に備える。そして、備えすぎた結果、待ち合わせに一番最後に現れたのがシオンだった。二人はかれこれ、十数分はシオンを待っていたらしい。
「よし、じゃあ行くか」
こうしてシオンは二人を連れて商会へと向かったのであった。
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