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新たな仲間

【東暦 一〇〇五年 三の月 十九の日】


 なぜか帝国の貴族に列せられてしまったシオン。今現在、急務となっているのが家臣探しである。シオンは戦えるがそれだけなのだ。領地の経営はもちろんのこと、会社の経営の経験など皆無である。


 彼が経験したことがあるのはせいぜい中学校の時の修学旅行の班長程度。全てにおいて支えてくれる家臣が必要なのである。それを探すため、足繫くヒルデリンスの学び舎に通っていた。


 しかし、ピンとくる人材は見つからない。そう簡単に見つかるはずもない。そう理解していた。理解はしていたが焦る。ただ時間だけが過ぎていく。


「おかしい」


 シオンは首をかしげていた。彼はもっと応募が殺到しても良いと思っているのだ。新設されたばかりの家だから待遇は求められないが、それでも家を動かすことのできる権力が与えられる。


 鶏口となるも牛後となるなかれである。だが、応募が来ないのにはそれなりに理由があった。まず、ヒルデリンスの学び舎に通っている者は漏れることなく自尊心が高い。


 自分ならばもっと名家、高家に勤められると考えているのである。それにシオンも悪い。自分がどのような条件の人物を求めているのか明示していないのだ。


 これでは見つかるわけがない。ただ、ゴリラのようにウホウホと学び舎をめぐっているだけなのだ。シオンもこのままではいけないと危機感を募らせていた。


 そこで、シオンは行動を起こした。高弟が教鞭を執っているある一室に入る。その一室にいる全員の視線がシオンを捉えた。シオンはその視線を受けながらも、咳ばらいを一つしてこう述べた。


「あー、シオン=バレラード准男爵だ。新しく准男爵家を創設することになった。それに伴い、協力してくれる仲間を求めている。オレは運営や経営に興味ない。全てを任せよう。やりがいはあるぞ。支払える報酬は多くないが、実力が合うのならば、その報酬も領地の発展とともに増やせるはずだ。もし、興味があるのならばシュティ大公家を訪ねてくれ。あの、シュティ大公家だ。以上」


 このようなことを現代日本でやれば、やりがいの搾取だと叩かれるだろう。ただ、双方が合意しているのならば問題ないとシオンは考えていた。


 そもそもこの国では給与に対し法がないので双方が合意していれば良いのだ。


 好きに領地運営できるのだ。給与が低くても魅力に感じる人間はいるだろう。そう考えたのである。後は屋敷に戻って寝ながら果報を待つのみだ。


 しかし、まったくもって音沙汰がない。待てど暮らせど誰も訪ねて来ないのだ。痺れを切らしたシオンは再び学び舎へと足を運ぶ。その時だった。


「あ、あの! シオン閣下でしょうか!」

「ん? ああ、そうだが」


 そこにいたのは小柄な少女であった。金色の髪をお団子状に纏めた、なんとも田舎臭い少女である。お世辞にも有能そうには見えなかった。


「あわわ、私はヒルデリンス先生の門弟でありますインと申します! あの、是非とも私めを麾下にお加えくださいぃっ!」


 勢い良く頭を下げるイン。普段のシオンであれば二つ返事で断っていたのだが、今回は初めての応募者だ。ただ、一抹の不安を覚えるため、場所を変えて詳しく話を聞くことにした。


「あー、インと言ったか。年齢は? 学び舎には何年居るんだ?」

「ね、年齢は十八です! 学び舎では三年間みっちりと勉強してきましたっ!」


 頬を紅潮させ回答するイン。それほどまでに緊張しているのだ。緊張しないわけがないだろう。目の前に貴族。そして話を聞いている場所は大公の屋敷だ。


 平民の叩き上げであるインには場違いな場所なのだ。この環境も緊張に拍車をかけている。それとは対照的に自宅のようにリラックスしているシオン。お前はもっと恐縮しろと思う。


「十八!? てっきり十五歳くらいかと思ったよ」

「よ、良く言われますぅ。シオン閣下と同い年くらいです!」

「いや、オレはもうすぐ二十だが……」

「はうっ!? あわわ、し、失礼しましたぁーっ!」


 椅子から飛び降り、地面に正座して土下座をするイン。喜怒哀楽の激しい娘だとシオンは思っていた。ただ、その方が付き合いやすい。何を考えているのかわからない奴よりは断然良いとも思っていた。


「そうすぐかしこまるな。話しにくくて敵わん。次、そうやってかしこまったら物理的に首と胴を切り離すぞ」

「ひゃ、ひゃいぃっ……」


 インは目に涙を浮かべてしまった。少し脅し過ぎにも思うが、紫苑は意に介していない。ただ、彼も気まずいと思っているのか、直ぐに次の話題を振った。


「で、どうしてオレに声をかけてきたんだ?」

「そ、それはシオンか……さんが領地の経営を好きになさって良いと仰ったので。それは本当でしょうか?」

「そうだな。意見は言うが口出しはしないぞ。インの意見を最大限に尊重するつもりだ。しかし、この狭い領地でどうしようと思っているんだ?」


 シオンがそう尋ねるとインは答えにくそうにもじもじし始めた。ただ、もじもじしていると首と胴が離れてしまうことを思い出したインはシオンにこう尋ねた。


「あの、その、シオンさんにお尋ねします!」

「なんだ?」

「国家の利益と私たちの利益、どちらを優先す――」

「オレたちの利益だ。国家の利益なんて微塵も考える必要はない」


 シオンはインの質問を遮って答えた。どうやらシオンは報酬を十分に支払ってくれなかったことを未だ根に持っているようである。


「そ、それならば良い考えがありますです。三国の境となっておりますので、この地を忌避する者は多くおります。ならば逆手にとってやれば良いのです!」

「ほう。逆手にとるとは?」

「商いの要衝へと発展させましょう。帝国、王国、商業連合の特産、名産がすべて手に入る土地を目指すのです!」


 シオンは直感で悪くない案だと思った。人は増やせないが、物であれば金を積めば増やすことが出来るのだ。また、商会の誘致はデュポワの力を借りれば造作もないはず、そう考えたのだ。


 しかしだ。そう上手くいくとも思わなかった。地図を見る限り、物流が良くないのである。帝国の最北端、山を一つ越えていかなければならないのだ。


 川もないため、河川舟運も使えない。そうなると荷馬車で荷駄を運ばなければならないのだ。インはそれをどう考えているのだろうか。シオンはインにそう尋ねると、意外な声が返ってきた。


「それで良いのです! 必要なのは決定権のある人間と見本だけなのです! 見本であれば収納の魔石で運んでこれるのです」


 発想は悪くないと思う。しかし、踏み切れないシオンが居た。いや、だが全てを任せると宣言したのだ。ここは彼女に任せることにしよう。それに、他に手は無い。


「わかった。お前を召し抱えることにする。これからオレのために頑張ってくれ。他に協力してくれそうな人材は学び舎に居ないか?」

「あ、ありがとうございます! 身命を賭して頑張りますです! 他の人材ですか……。ちょっと探してみますです!」

「よろしく頼む」


 シオンはインを召し抱えることを決めた。彼女の献身さを買ったのだ。必死に考えるその姿勢はきっと役立ってくれることだろうと、そう信じて。

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