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魔法少女は暴かない  作者: 竜世界
Occasion Ⅱ『魔法少女は暴れない』
25/25

第25話 平穏無事はブイヤベース

「んー、いい香り……これは楽しみです」


 アタシが食卓に運んだブイヤベースを見て、メイド長がそう言った。


 結構な量があるからって今日は他のメイドの皆にも振る舞う事になってたんだよね……全員いるんだけど本当にこの屋敷、人間少ないなー。


 そんなメイドさん達を束ね、電動ヘリとかで運転手が必要な時は大抵担当しがちなのが目の前の大人しそうな女性。


 料理長が北方(ほっぽう)(はだ)……青味のある灰色肌なのに対し、メイド長は『南方(なんぽう)(はだ)』。


 その小麦色の肌が赤味を帯びた色合いは健康的で、人によっては赤味がかなり強かったりもするけど……メイド長は程よい加減で乗ってる感じ。


 ()の国はこの星一番の先進国って言われてるけど、文明水準自体は北方も南方も弥の国と大きな差は無い気がする。


 確かに猊帝(ゲーテ)は最先端のシステムの導入率が高くて、それらを運用する優れた管理AIの充実が目立つけど……それは技術力と言うよりインフラでの差だし。


「まなちゃんおつかれー。今日の気分に多分ピッタリな味だよ」


 アタシが作ったブイヤベースをまだ熱い内にスプーンで口まで運んだメイは何だか冷めた口調でそう言った……でもまぁ、いつも通りだね。


 メイが食事で表情を変える時は余程美味しかったか不味かった時で……アタシの手料理に関しては「いつもまた食べたい味だよ?」とケロリとした顔で言われて来たから別に悪く思ってないって事でよさそう。


 アタシもこうして食べてるから、確かに味だけ見ればよく出来た感じはする。


 でもそれは高級食材の味を損なわない程度に調理したからであって……クマ子くらいの家庭で手に入る食材で同じように料理した場合はきっと悲惨だろうなぁ。


 あ、そうだクマ子と言えば――


「今頃、海の上かぁ……」


 ふと思い出したら呟いちゃった……今日はハルカと一緒に豪華客船タイニーホワイトの試乗イベントに行ってるんだよね。


  ◆


「いやはやエネロ・ジャンヴィエールのCEOは見事なお姿でしたな」

「あの若さで世界有数のヘッジファンドの長とは……しかしヘッジファンドの性質上、我々に牙を剥く時もありましょう」

「友好的な関係を築きたいものですが、果たして」


 タイニーホワイト船内客室へと続く廊下にて群れを成し歩くスーツ姿の男性達。


 取り巻かれるように中心にいる金髪金眼の男性は沈黙を貫いていたがここへ来て口を開き……その直前まで黙っていた隣の男性もそれに続く。


「リヴァイアサン社の暫定次期当主に会えたのは収穫だったな。タカ」

「大人しく学業というか生徒会活動に励んでいるようだが……浮かれたようなヤツじゃ無いからお前んとこのチャンネル出演に誘っても断られそうだな」


「他の候補者の情報も集めてはいるが……社長の座に就くだけの力量があるのは、やはりあの御令嬢だろう」


 企業による動画配信の中には世界レベルの人気を誇るチャンネルもあるのだが、その一角となるチャンネルの内容を企画しプロデュースしているのがこの金髪金眼の男性――ニコラス・マウンテスター。


 番組ではこの風貌に加え金色の服に身を包み司会を務める為、『ミスター・ゴールドマウンテン』という愛称で親しまれている。


「しっかし、こないだの番組のアレは終わってみればいいアクシデントだっ――」


 ニコラスが更に発言し始めた矢先、前方の廊下に拳ほどの球体が複数、然したる音も立てずに転がり込んで来て……程無く噴射音と共に大量の煙幕を張り始めた。


「ぬぁ、何事だ!」


 狭い通路による視界を塗り潰した煙の色は血を彷彿とさせる毒々しい赤色。突然の事態への混乱に拍車を掛ける演出としては先程の男性達には効果があったようでパニック状態に陥る者が大多数。


「何も見えん! タカ! いるか?」

「いるぞ。吐き気やめまいの感じはしない……目眩ましか?」


 旧知の仲のニコラスとタカが比較的冷静なのに対し、他の男性達は悪戯に騒ぎ始めていた。


「ニコラス殿、今お傍に! ぐぁっ」

「ぬぉおお! 赤い、赤いぞぉ! ……あぐっ」


 情けない声の群れが上がるも次々と鎮まって行き……ニコラスとタカは赤い煙の中で何者かが自分達を襲撃している事に気付くのだが。


「く、視界が……ぐっ」


 タカの方から気絶しニコラスも襲われてから暫くが経ち……充満していた煙幕がすっかり晴れ、倒れていた男性の一人が「うぅ」と呻きつつ体を起こした頃――


 男性達の中からタカと呼ばれていた阪城(さかき)高栄(たかはる)とニコラスの二人の姿が、辺りを幾ら見渡せど確認出来なくなっていた。


 概ね似た時刻の甲板にて。


 パーソナルデバイスで2Dゲームに勤しむヒマとそれを眺めるハナ、漠然とした眼差しのようで周囲を注意深く見渡すユウの三人組がいた。


「あれ?」


 ユウこと紙通(かみどおり)湯雨(ゆう)が不意に最新ニュースでもチェックしようとパーソナルデバイスを開くや、ネット回線が繋がっていない事を示す画面が表示されていた。


「ん? ユウちゃんどしたの?」


 漏れ出たユウの言葉にハナが反応し、


「いや、ネットが……」


 とユウが返し、ネットが繋がらない事を述べて行ったのだが……既にタイニーホワイト周辺は外部からのネットワーク干渉を受けられない事態に陥っていた。

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