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46 六大精霊筆頭

 彼女は美麗な仕草で、プリンセスのようなお辞儀をしてみせる。


「あらためまして、我が主。私の名前はルミエルネ。光を司る聖霊よ」


 彼女の正体はあの虹色の小鳥。そして――。


「ひ、光の精霊……私が主?」

「そうよ。ずっと昔からあなたに呼んでもらえるのを待っていたのに。待ちくたびれちゃったわ~」


(彼女の話が本当なら、私は六大精霊使いってことになるけれど。え、え、えぇ~)


 あまりの出来事にハンナの理解はさっぱり追いつかず、目を白黒させるばかりだ。


「あ。あの! ひとつずつ、順に説明を。お願いします」


 みんなの口からそれぞれの事情が明かされる。まずはハーディーラ。


「騙したわけじゃないぞ。俺は案外、お前を気に入っているし、願いを聞いてやるつもりだったんだ。だが……」


 彼の言葉のあとを引き取ったのはエリオットだ。


「私はクロに、ハンナの不利益になる魔法は使えないよう縛りを与えていた。私の寿命の件にかぎらず、ハンナは自己犠牲精神が強いから心配だったんだ」


(それ、エリオットさまだけには言われたくないような……)


 ハンナは思ったが、今は説明を聞きたいので口を挟むのはやめておいた。


「まぁな。俺もそれは知ってたけど。エリオットは弱りきってたし、今回は俺が勝てると踏んだんだよ」


「実際、私にはもうクロを完全に使役できるほどの力は残っていなかった。だから、クロがハンナに魔法を使おうとしている場面を見て焦った」


 なるほど、それでエリオットは半狂乱になっていたのか。


 クロはそこで、むぅと不機嫌そうに唇をとがらせた。


「ところがだ! この女がいきなり邪魔してきたんだよ」


 ハーディーラはルミエルネを指さす。彼女はうふふと楽しそうに口元をほころばせる。


「だって、コウモリさんの魔法はずいぶんと遅いんだもの。私ならまばたきひとつで終わるのに」

「うぐぐ……」


 彼女は少女の姿をしているが、実際には三百五十歳でハーディーラの倍も生きているベテラン精霊らしい。


「光の精霊は六大精霊の筆頭だ。もっとも力が強い者が君臨する」


 ハーディーラのその言葉に、えっへんと彼女は胸を張る。


「そうよ。私はかわいくて強いの! だからね……」


「対価はなしで、エリオットの寿命を元どおりにしてあげたわ。私の魔法はね、人々の愛とか幸せとか、そういうものがパワーになるの。ハンナとエリオット、ふたりの愛の力がハッピーエンドを引き寄せたのよ!」


 キラキラした笑顔でそう語るルミエルネを横目に見て、ハーディーラはケッと顔をしかめる。


「いい話っぽくまとめてるがなぁ……こいつの魔力ははっきり言ってチートだ。お前らの愛が吹けば飛ぶ程度の軽さでも、エリオットの寿命の操作くらい余裕だぞ」


「もうっ! 私は美しい結末が好きなのに。余計なネタバレはしなくていいの」


 ルミエルネの魔法がどういう原理なのかは正直わからない。けれど……大事なのはそこではない。


 対価、つまりハンナの命を差し出すことなく、エリオットは健康体に戻った。


(じゃあ、私もエリオットさまも、これからも生きられるってこと?)


 ハンナはバッと隣のエリオットに顔を向ける。彼はハンナの大好きな、幸せいっぱいの笑みを浮かべた。


「――そういうことのようなんだ。ハンナ。これからも私と、シワシワの老夫婦になるまで一緒に生きてくれるか?」


 どうしようもなく目頭が熱くなった。エリオットの笑顔をずっと見ていたいのに、視界が涙でにじんで彼の姿がぼやけていく。


「私のために寿命を削るなんて馬鹿なことを、二度としないと約束してくださるなら」

「それは、こちらの台詞だな」


 ふたりはぷっと同時に噴き出した。ハンナは愛する人を見つめ、返事をする。


「私はエリオットさまのために長生きします。だからあなたも――」

「あぁ。ハンナのために生きるよ」 


 エリオットはそっと、ハンナの手を取り、白い甲に恭しく唇を寄せた。


「心から、君を愛している」


 ハーディーラとナーヤがさりげなく背を向けてくれる。


 ルミエルネだけはキョトンとしていて、ハーディーラに無理やり顔の向きを変えさせられた。


「無駄に長生きしてるくせに、気がきかない女だな」




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