57:バレー部エースと勝負の約束をする
ご覧頂き、ありがとうございます。
最終種目の混合リレーがスタートです。
『さぁ、本日最後の競技【混合リレー】も後半戦! 各団接戦しているが白団がややリードか! 続いて赤団、殿は青団だ、この位置からでは厳しいか! いやしかし次の走者は陸上部主将の谷口! まだまだ分からないぞ、今バトンを受けて疾走! 速い速い、どんどんと距離を縮めていくぞ!』
女子放送部による実況放送がグラウンドに響き渡る。
それに煽られるように各団の応援席からは絶叫に似た声援が選手たちに投げかけられていた。
実況の通りにリレーは終盤。
多少の差は付いているとはいえど、各団とも何かあれば順番が入れ替わっても不思議ではない状況だ。
あと数名でアンカーにバトンが渡る。
赤団アンカーの英太と白団アンカーの凛子が立ち上がる。するといよいよアンカーが走るのかと言わんばかりに場内のボルテージが更に上がった。
「すごい盛り上がりね」
「そうだな。でも小清水はこんな歓声にも慣れてたりするんじゃないのか? 全国大会とか」
「中学の全国決勝でもこんなに人は集まらないわ」
「じゃあ緊張してたりするのか?」
「まさか。私はこういうの燃えるタイプなのよ」
「そうか、そりゃ良かったよ」
「……」
昼休みの出来事があった後だったのでいつものように話せるか不安だったが、どうやら調子は悪くないようだと英太は胸を撫で下ろした。
……いつも通り話せたかな。私っていつもどんな感じだっけ……?
と凛子は思っていた。
あの思い出の男の子が英太だと分かった。英太で良かったと心から思った。
しかし咲からの忠告。『振った相手を突き放す優しさ』それを受けて、自分はなんて残酷な事をしていたんだろうと思った。
英太に謝りたかった、馬鹿な自分を恨んだ。
それと同時に生まれた感情。
こんな馬鹿な自分を好きだと言ってくれた英太、こんな自分に優しくしてくれた英太、どんな時でも微笑んでくれた英太。
今まで味わった事のない感情、いや、あの頃確かに芽生えた懐かしい感情が湧き上がり、凛子の心に温かく広がっていったのを感じた。
「小清水、さっきはいきなり出ていって悪かった。片付けは咲さんがやってくれたんだって? その、あの人、変なこと言ってなかったか?」
すると今度は英太の方から凛子に話しかけた。
何か話したかったのは確かだったが、咲の話題になってしまった為に凛子は眉根を寄せる。
「……う、うん、まぁ特に変な事は言われなかったわね、うん」
「そうか、それは良かったよ」
心底ホッとしたように英太が微笑む。
「……っ」
いつもと何も変わらないはずの英太の笑顔が眩しくて、凛子は思わず目を逸らした。
いつもと同じ英太のはずなのに、その仕草ひとつひとつが新鮮で、愛おしく思えてしまう。
自分の気持ち次第でこんなに景色が変わるのかと……恋ってすごいな。とそう思った。
英太もこんな景色を見ていたのかな。
それと同時にそんな事が脳裏を過ぎる。
「……? どうした?」
「う、ううん、別に……」
いつものキレがない凛子に気がついた英太が顔を覗き込むようにして見てくる。
目が合うと自分でもわかるくらいに顔が紅潮しているのがわかった。
それを誤魔化すように少し上ずった声で言う。
あと数名で凛子と英太の走順になる。照れてる暇はない。
「ねぇ。村上がいなくても〝勝負〟は有効よね」
勝負とは夏菜子と凛子が言い始めた事であり、英太は巻き込まれたに過ぎない筈だ。
夏菜子が欠場しているいま、その約束は無効のはずである。
「村上が休んでるんだから無効だろ?」
「ふーん? 私に負けるのがイヤなんだ?」
凛子の絵に描いたような煽り文句を聞いた英太は、なんだか可笑しくなって思わず吹き出してしまった。
「……ぷっ。あははは! そんなに煽らなくても大丈夫だぞ? 勝負するか?」
「え、な、何よその反応はっ」
「じゃあ俺が勝ったら、そうだな。前に一緒に行ったファミレスのパフェ奢りだ」
「ええ? ちょっと安すぎて面白くないわね」
「んー? じゃあおかわり付きだ」
本当に甘い物が好きだなと、凛子は思わず笑った。
「ははっ、決まりね。じゃあ、私はね」
そして一呼吸置いて、笑顔で、けれどおどける雰囲気など一切纏わずに言った。
「私が勝ったら、私と付き合ってくれる?」
ご覧頂き、ありがとうございました。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けましたら【ブックマーク】広告下部にございます【★★★★★】の評価で応援して頂けると嬉しいです。
次回もお楽しみに




