52:バレー部エースと英太と女子大生
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その頃の咲は。
どうか最後までお読み下さい。
「うわ、なっつかしー」
駐輪場にバイクを駐車した咲は懐かしそうにキョロキョロと校舎を見回して声を漏らした。
彼女が母校である青葉高校に来るのは卒業してから丸々2年ぶりである。
2年前には自分もセーラー服を着てこの学校に通っていたのだから、それを思うと不思議な感覚がしてくる。
英太が出場する混合リレーは午後のプログラムの最終競技なので、正午を少し回った今の時間からだとかなり待つことになりそうだ。
当時習っていた先生も数名はいるだろうし、思い出話でもして待っていよう。
そんな事を思いながら手から下げたビニール袋をみやる。
英太と六花にと買ってきたスポーツドリンクと、クエン酸入りのゼリー飲料が入っている。
つい先ほど英太からは屋上にいる旨のLAINが入ってきていたので、そちらに向かう。
とはいえ咲はOGであるが今は部外者だ。
来賓者用の手続きをしなければならない為、職員室に向かう。
正面玄関から校内に入り、来賓者用の名簿に氏名を記入していると数学教師の山里がやってきた。
咲も彼に数学を教わっていたため、少し会話をして入校証を首から下げて屋上へ向かった。
「……懐かしいな」
当時と何もたがわない校内を見回して咲は1人呟いた。
たったの2年間であるが、その2年間で咲は成人した。
バイクや車に乗れたり、酒も飲める歳になった。
そのどれもが高校に通っていた頃の自分には出来なかった事だ。
そう思うと18歳と20歳の違いは非常に大きなものに感じた。
ましてや15歳と20歳とでは違い過ぎる。
「まさか自分がな……」
そう。思うのはこの学校に通う英太の事。まさか自分が英太の事を好きになるだなんて思わなかった。
咲が英太に出会ったのは今から2年ほど前で、咲が大学に通い始めた頃。
大学に進学し、もともと仲の良かった友達とスリーピースバンドを組む事になった。
楽器屋で一目惚れしたギターを衝動買いしてしまい、そのローンを返す為に飛び込んだバイト先にいたのが当時中学2年生だった英太だ。
歳も離れているし、何より中学生だった英太は最初は咲の恋愛対象ではなかった。
しかし同じ趣味、漫画やライトノベルなどの話で盛り上がるようになり、その中で英太の優しさに触れ、気がついたら年の差なんて気にならない程好きになってしまっていた。
もちろん幼馴染の六花が英太の事が好きなのは数秒で気がついた。
年上の咲からしたら健気で可愛い妹分ではあるのだが、英太のことがあるから、いや、英太の事となるとやたらと咲に突っかかってくる。
可愛いがムカつく妹。
咲からしたら六花はそんな存在である。
そんな二人が頑張っているらしい体育祭だ。見にこない選択肢は咲の中には無かった。
西側の階段を最上まで登り切ると屋上に行く事が出来る。
4階まで上がる。こんなにキツかったか? と自分の体力が衰えている事に少しの焦燥感を抱きながら階段を登って行くとようやく鋼鉄製のドアが目に入った。
「やっと屋上か」
新しくも無い古くもないそのドアの向こうに英太と六花がいる筈。そう思って残りの階段を上がる。
するとそのドアが勢いよく開かれると、突然の事に咲の肩が一瞬跳ねる。
「っ!? って……六花っ?」
驚いて視線を上げると、ドアを開いたのは体操服姿の六花だった。
咲の姿を見て一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに目を逸らして咲の横を通り抜けて階段を駆け降りて行った。
「……」
なんなんだアイツ?
アタシのこと無視して行きやがった。まったく……。
それより、泣いてたなアイツ。
咲は一瞬六花の後を追おうか考えたが、すぐ切り替えて残りの階段を駆け登り空きっぱなしのドアから屋上に出た。
「さ、咲さん……六花が……」
屋上に出ると英太と、初めて見る少女が立っていた。
金色の髪にサファイア色の瞳。長身の咲よりも少し背が高い。平凡な学園に不釣り合いなほどの美人。話に聞く凛子とはコイツの事かとすぐに分かった。そしてこの状況も。
もちろんこうなった詳細までは分からなかったが、この二人の表情を見たら六花が走り去った理由はポジティブなものではない事は明らかだ。
そして、咲に不安そうな表情を向けてくる英太に無性に腹が立った。
「何してんだよ、追えよ!」
「あ、え、で、でも……」
「いいから行けっ!!」
咲が大きな声でそう叫ぶと、睨まれた英太は我に返り、ようやく六花の後を追って階段を駆け降りていった。
英太が去った屋上には咲と、ただ立ち尽くす凛子が残された。
咲の美しくも攻撃的な瞳に凛子が映る。
滑らかな黒髪が六月の風に靡いてさらりと舞った。
「……アンタが凛子、ちゃんか?」
咲は自分でも驚くほど低い声で凛子にそう言った。
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