49:バレー部エースと幼馴染と昼食
ご覧頂き、ありがとうございます。
前回に引き続き体育祭でのお話です。
「あれ? 先に食べててくれても良かったんだよ?」
凛子としばらく話していると、実行委員の仕事を終わらせた六花によって鋼鉄製の扉が開け放たれた。
「沢北さん。うん、せっかくだし3人揃ってからの方が良いかなって思って。え、英太?」
「お、ああ……」
「そうなの? えへへ、ありがとう。嬉しいな」
凛子がそうフォローすると六花が笑顔を咲かせる。
英太は凛子に話を振られて曖昧な返事を返すしかなかった?
自分の不用意な言葉のせいで過去を話させなければならなくなってしまった事にまだ罪悪感を抱いているようだった。
そんな英太を見かねて、凛子は明るく微笑みかける。
「……ほら、沢北さんも来たんだし、切り替え切り替え」
「おお、そうだな」
凛子にパンパンと肩を叩かれ、英太の頭を切り替える。
そうだ、凛子の日々の楽しそうな表情を見ていればわかることだ。
毎日楽しそうに学園生活を謳歌している。
部活に授業に、この体育祭だって全身で楽しもうとしている。
それなのに俺が落ち込んで小清水に気を遣わせてどうするんだ。
そう自分に言い聞かせ、凛子の言葉を受けた英太は頭をふると六花に手を振った。
◇
「うわぁ、すごく美味しそう。いただきます」
「いっただきまーす!」
「はいはい、遠慮なく食ってくれ」
英太が腕に寄りをかけた弁当を前に、六花は静かに、凛子は快活に合掌すると竹製の割箸を割った。
今日の英太の弁当は腕に寄りをかけたという通り、非常に豪勢に見えた。
「ん! これすごく美味しいわよ」
まず凛子が手に取ったのはバスケットに彩りよく敷き詰められたサンドウィッチだった。
食パンの耳をあえて残し、ひとつひとつに食べ応えを持たせている。
それに中の具材も新鮮なものばかりだ。
採れたて卵で作った卵焼きに、新鮮な地元産のレタス。英太が独学で作った自家製生ハムのサンドしたこだわりのサンドウィッチ。
いつもよりこだわった料理を褒められれば悪い気はしない。
思わず英太の目尻も下がる。
「サンキュ。それは自信作だ」
「あの、英太クン。この唐揚げも美味しいよ。昨日仕込んでたのだよね?」
「おう、そうそう。どうだ? 味はしっかり染みてるか?」
六花は柔らかそうな鳥の唐揚げと一口食べると感動したようにそういった。
実はこの唐揚げは昨日のバイトの空き時間を使って仕込んだモノだ。
英太も仕上がりが気になるらしく、一つ取ろうとするが。
「……あ、あの、英太クン」
「……ん?」
と、タッパーの唐揚げに手を伸ばしたところで六花に呼び止められる。
手を止めて六花に視線をやると、何やら言いにくそうに自身の端で摘んだ食べかけの鳥の唐揚げと英太を交互に見ていた。
……何故か真っ赤な顔で。
「どうした、六花?」
「?」
首を傾げる英太と、そんな二人のやりとりを見てサンドウィッチをパクつく凛子。
「あ、あの……えーと……」
さらに真っ赤になった六花だったが、何かを決心したかのように、一息つくとうわずった声で言った。
「あ、あーん」
あの夜のように手皿を添えて唐揚げを英太に差し出す。
「り、六花!?」
「……え……えぇ!?」
差し出された英太はもちろんのこと、そんな二人の初めて見るやりとりに思わず凛子も驚きの声をあげた。
「ちょ、六花、小清水がいるのに……」
「あ、私、お邪魔?」
英太にちらりと視線を送られた凛子は自分を指差した。
「いやいやいや、そういうわけじゃなくてだな!」
「そ、その、い、いつものことだから!」
六花はそんな事を言うが、声が裏返っているところから見て果たして。
「い、いつも……?」
「り、六花!?」
六花らしくない積極的な態度を見せられて英太と凛子は混乱していた。
六花はふざけてこんな事をするタイプの女の子ではない。そもそもふざけなくてもこんな事をするタイプではないのだ。
六花の顔は照れで真っ赤ではあったが、眼差しは真剣そのもの。
凛子がいるからこそのこの行動。
英太には私が居るんだと、そう言わんばかりの行動だ。
お願いだから食べて。
そう言われているような気がして、英太はゆっくりと口を開いた。
「あ、あー……ん」
パクリと差し出された唐揚げを口に含んだ。
噛み締めると生姜の香りと醤油の香ばしい香りが口に広がり、料理が大成功だったと確認が出来た。
「ん、うまい」
あの時の、2人で食べた抹茶プリンの時はほとんど味は感じられなかったけれど、今は不思議と味が感じられた。
慣れたのかも知れないなと英太は思った。
「う、うん。すごく、美味しいよ」
「……」
「はっ!?」
不意に視線を感じて現実に引き戻される。
凛子が二人のやりとりを不思議そうに眺めている。
「あ、あんたたち……」
「あ、いや、あのこれはだな。幼馴染のアレと言うのか」
「幼馴染のアレってなによ、全然分からないわ」
ジト目などではないが、まさかあんた達付き合ってんの? とでも言いたげな視線が英太に突き刺さる。
そこで凛子が思い出した様に話し始める。
「……そういえばさ」
「ん?」
「昔、こんな事無かった?」
「こんな事……?」
凛子の言葉に英太と六花が顔を見合わせてお互いに首を傾げる。
以前、英太の家でバーベキューをした時に聞けなかった事。
もしかして、あの時の男の子は英太だったんじゃないのかと。
「私の勘違いなのかも知れないんだけどさ。子供の頃、ファーストバイトをどうのこうのって言った〝約束〟を誰かとしたような気がするのよね……」
「……!? こ、小清水、その約束って……」
約束。
あの時の約束の相手は六花だったって、そう言ったはずなのに。
「え、小清水さん、それって――」
英太も六花も同じように驚いた顔を浮かべる。
そして凛子はゆっくりと、しかしハッキリと言った。
「まさか、英太が相手じゃないのかな。なんてね」
ご覧頂き、ありがとうございました。
次回も引き続きよろしくお願いします。
お話はまもなくひと段落を迎える予定です。
どうぞ最後までお付き合いください。
よろしくお願いします。




