47:バレー部エースに借りられる
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前回に引き続き体育祭でのお話です。
開会式が終わりプログラムが順調に消化されていく中、各団色の鉢巻きを巻いた生徒たちのボルテージは徐々に上がって行った。
トラックを囲うように設置された観客席は工事現場などに用いられる足場を流用したものだ。
赤、白、青に分けられたその観客席から絶叫にも近い歓声が送られる。
競技に勝っても負けても声援を送り、選手を讃え、労った。
非常に良い雰囲気の中、得点板に表示される数字はどの団も抜きつ抜かれつの接戦を繰り広げ、本来なら息抜きとも言える借り物競走のポイントですら競争の対象となった。
本部のテントで救護班として待機していた美人保健教員の手を引いた男子生徒が審判である実行委員の所へ小走りでかけていく。
保健室の先生はなぜ自分が連行されているのか分かっていないらしい。
そして男子生徒はお買い物のお題が書かれているであろうメモ紙を審判の男子教師に差し出した。
『おっと、保健室の先生を連れてきた青団の選手の紙には何が書かれているのか……おおっと、これは『巨乳』だ『巨乳』! これは文句無しでクリアー!!』
男子教師が両手で大きな丸を作ると空に掲げる。
それと同時に会場は沸き、来賓の方々は目を伏せ、校長は頭を抱えた。
意に反して当の本人になってしまった女性教員は自らの胸を抱えるように隠し、真っ赤になって審判の男性教師に一言二言言ってから彼のスネを蹴った。
「うわ、痛そう……てか、そんなお題があるのかよ……」
「あははっ、面白いじゃん! アタシも出りゃ良かったぜ」
英太は時代錯誤なお題が混じって居ることを知ると頭を抱えるが、隣の夏菜子はそれを面白がってニヤニヤとしている。
英太と夏菜子は客席代わりの足場に腰掛けて借り物競争を見守っている。
ちなみに六花はさっきまでは一緒だったが、今は実行委員の当番で本部に出向いて競技の準備などに取り組んでるようだ。
「面白いで済めばいいけどな。このお題は誰が考えてんだ?」
「さぁ? 実行委員の人とか?」
英太の問いに夏菜子は肩をすくめてみせた。
まさか先生ではないと思う。
けれど実行委員会の人たちだったとして、懸命に準備してきて最終日に感極まって涙するような人たちの集まりだ。
ふざけてコンプライアンスに引っかかるようなお題は出さないような気がする。
「あれ、次は小清水じゃないか?」
「本当だ。借り物競走なんて出るんだな」
見ると、スタート地点に凜子がスタンバイしているのが見える。
赤白青、各団の選手3人が審判による合図を待っている。
借り物競走はトラックを半周した後に上部が切り抜かれた箱の中に入っているお題が書かれたメモを引く。
そのメモに書かれているお題に適したものや人物などを会場内から選び、審判の教師に審査を仰ぐ。
高校の体育祭なのでそんなに無理難題は書かれていないはずではあるのだが、先の保健教師の件もある。
「……小清水、大丈夫か?」
何となく嫌な考えが脳裏に過る。
「さぁね、苦労すればいいんだよ、ははは」
アタシは楽しませてもらうからなと夏菜子は気楽にそう言うと、背もたれに身を預けてふんぞり返った……そしてそのまま椅子ごと後ろに倒れ込んでしまった。
足場の上だった為にけたたましい金属音が響き、赤団の生徒たちが一斉に夏菜子を見る。
カモシカの足の様に鍛えられた夏菜子の両脚が空に向いている姿を見て、数人は心配したように立ち上がるが、夏菜子に怪我がないのを確認すると再びトラックに視線を戻した。
「ったあぁ!!」
「何やってるんだ……大丈夫か? ったく、悪口を言ったバチだよ」
後頭部を強打した夏菜子が患部を押さえつつ立ち上がる。
そうこうしている内にピストルが鳴らされ、一斉にスタートをした。
弾かれたようにスタートしたのは凛子。
コーナーに差し掛かるが更に加速する。全身のバネを十分に使い、跳ねる様に赤団の前を走り去っていった。
「速いな、小清水」
「……まぁね。背ぇ高いし、歩幅広いからな」
感心する英太に対してそんな事を言った夏菜子であったがら彼女なりに凛子の俊足は買っている様であった。
凛子はあっという間に半周し終わり、お題が入っているボックスに長い左腕を突っ込んだ。
二、三回ゴソゴソとかき混ぜてから腕を引き抜く。
そのタイミングで赤団、青団の走者である3年の男子生徒が到着した。
2人とも運動部出身であるので、多少足に自信があったはずなのだが全く凛子に追いつけずやや自信を失っている様だ。
そんな事は気にも止めず凛子が白いメモ紙を開いて中身を確認する。
「って、えええ!? なによこのお題! ふざけてるわね、マジで!」
「……?」
凛子が何か叫んだ様であるが、英太の位置からだと距離がある為ほとんど聞こえなかった。
しかし、金色の短髪をガシガシと抱えて何かを叫んでいるその姿は明らかに悪態をついているという事は分かった。
「なんか叫んでるな」
「ほら困ってる困ってる。ふふ、いい気味だ」
「そんな事言うなよ、自分の身に返ってくるぞ……って、小清水、こっち見てないか?」
凛子の碧瞳が明らかにこちらに向いている。
というか完全に目があっている。
「……な、なんかこっち見てないか?」
「てかこっち来たぜ」
するとずんずんと英太の方に駆け寄ってきて、足場をスタスタと上がってきた。
「ど、どうした小清水っ?」
勢いがよかった為に少し驚いてしまう英太だが、凛子はその碧色の瞳で英太をまっすぐ見据える。
その真っ直ぐ真剣な表情に呆気に取られてしまった。
「アンタしか居ないわ。英太、ちょっと来て」
「お、おい……って、うわ」
凛子は何の躊躇もなく英太の左腕を取るとグラウンドに戻って行った。
おそらく借り物競走のお題が瑛太に合致したのだろうが、英太の何が適合したのかわからない。
「……碧が借りられていっちゃったよ」
取り残された夏菜子はぽつりと呟き、遠くなっていく2人の背中を見送った。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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もうお済みの方、いつも私のお話を読んで頂いてありがとうございます。
まだまだ未熟だと自覚ごありますが、それでも読んでくださる読者さまに心から感謝致します。
ありがとうございます。
次回も楽しみにしていただけますとありがたいです。
次回も凛子回。お楽しみに。
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