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46:バレー部エースと陸上部エース②

 ご覧頂き、ありがとうございます。


 体育祭当日、朝の会話回です。


 学校に到着するとまず目を引いたのが校門だ。


 手作り感溢れる装飾が施され『体育祭』とデカデカと毛筆で書かれた大きな看板が立てられていた。


 各教室のベランダからは各部活の横断幕が掲げられており、グラウンドに向けて万国旗が張られている。


 行き交う生徒たちの表情も心なしか明るいように思えた。


 その生徒たちの多くはこの体育祭を楽しみにしていたようで、「今年は負けない」だの「今年も勝とうな」などという声もチラホラと聞こえてきた。


 学校を包む独特の雰囲気に良い意味で飲まれた英太は二の腕を摩った。


「おぉ、なんか体育祭って感じだな。燃えてきた」


「ふふっ、だよね。英太クンてこういうの好きだよね」


「おう大好きだ。てか割とみんながやる気なのが意外だよな。高校の体育祭ってもっとテンション低いっていうか、面倒くさそうにやる人が多いと思ってたよ」


「うんうん、私もそれは思ってた。けど実行委員の先輩達はみんな熱かったよ? 昨日は最後の委員会だったんだけど、実行委員長の先輩泣いてたもん」


「マジかよ。すごいな」


 実行委員長と言えば柔道部主将でものすごくコワモテで有名な先輩だったはずだ。

 そんな先輩がこの体育祭にそこまでの想いを込めていたなんて意外だった。


 しかし事実として青葉高校の体育祭にかける想いは確かに強かった。


 青葉市民の性分というのか。


 観光都市である青葉市で最も有名なのが春と秋に行われる〝祭り〟なのであるが、子供の頃からその祭りに参加していた生徒も多く、祭りとなるとその血が騒ぐのか体育祭においても自然に盛り上げようという空気が生まれる。


 そしてその空気は次第に学校中に広まり、熱を帯びていく。


 今の英太のように。


 良い意味で学校中に漂う空気に当てられた英太を見て、六花も目を細める。

 

 この日のために色々準備してきたのだ。

 せっかくなら赤団全員が一丸となって優勝を目指したい。


 心地よい高揚感を感じながら2人は教室へ向かった。


 ◇


「英太クン、私3年生の教室寄ってから行くね」


「分かった」


 実行委員の仕事があるのか、そういう六花と分かれて教室へ向かう。

 すると教室の前の廊下に差し掛かるとジャージ姿の凛子とさくらが廊下で話しているのが見えた。


「あ、英太っおはよ」


 こちらに気がつくと英太が手を上げるのと同時に凛子が明るい調子で声をかけてきた。


 金色の髪に白色の鉢巻きがとても似合っていた。


「おはよう小清水。と、花澤」


「ついでの挨拶をどうも」


 さくらは自虐的に肩をすくめる。

 そんな事ないぞと慌てる英太に、冗談よというとふっと笑った。


「いよいよ本番ね、絶対負けないからって村上に言っといて」


「あははっ、その話題出すと怖いから嫌だよ。結局、あの勝負の話はどうなったんだろうな。どっちがどう勝てばいのかとかあやふやじゃないのか?」


「あれでしょ、とにかく勝った方が勝ちって事でしょ」


「……なにその頭悪い感じ」


 無理がある凛子の意見にさくらはこめかみを押さえた。


「リレーなんだから個人の勝負は無理でしょ。だから本当に勝負するつもりならチームで優勝した方が勝ちって事にしないと訳わかんなくない?」


「って言ってもな、当事者が居ないんじゃ――」


「――混合リレーの勝負って事でどうだ?」


 絶妙なタイミングで夏菜子が現れて、またまた気やすい調子で英太の肩に自らの手を乗せた。


 すでにジャージを脱いで半袖の体操服とハーフパンツ姿になっている辺り、もう気持ちのスイッチは入っているようだった。


 夏菜子の登場に凛子はあからさまに嫌そうな顔をして見せた。


「……村上っ」


「いいな、小清水。リレーの勝敗で勝負だ。勝った方が負けた方の言う事をなんでも聞く! いいな」


「いいわ。私が勝ったら今後私の事を『小清水様』って呼ばせてやるわ」


「……悪趣味」


「さくらは黙ってて! いいわね?」


 さくらは凛子にビシリと指を突き立てられると、降参だと言いたげに両手を挙げて首を振った。


「上等だっ。アタシが勝ったら『親分』って呼ばせてやるよ」


「え、ちょっと意味が……って、何でもない」


 今度は英太が夏菜子に睨まれてしまい首を振った。


 気がつくと周りに人だかりが出来ていた。


 それもそうだろう。朝のHR直前の時間であるし、何より廊下のど真ん中で2人の女子生徒が言い争いをしているのだ。


 しかも凛子も夏菜子も俊足で有名な生徒である。


 そんな2人がどうやら勝負しているらしいともなれば話の種になる事請け合いだ。


「じゃあ混合リレー楽しみにしてろよ!」


「首洗って待ってなさい!」


「「フンっ!」」


 そこまで言うと凛子と夏菜子は2人揃って踵を返して反対方向へ歩き出した。

 取り残されたさくらと英太はそれぞれ苦笑してから教室へ向かった。


 周りに出来ていた人だかりは散り散りになり、凛子と夏菜子の勝負の事は学年中の噂になっていった。


 


 ご覧頂き、ありがとうございました。


 次回も引き続き体育祭当日のお話です。

 

 お楽しみに^ ^

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