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44:幼馴染との帰り道④

 ご覧頂き、ありがとうございます。


 前回に引き続き六花とのお話です。


 六花週間実施中。


 ファーストバイト。


 六花にそう問いかけられると英太の思考がピタリと止まった。


 そして意識は過去の思い出に(さかのぼ)る。


 ……知っている。


 結婚式などで行われるケーキなどを新郎新婦の間で食べさせ合う事だ。


 新郎からの場合は『一生食べるのを困らせない』


 新婦からの場合は『一生美味しいものを作ります』


 そういう意味が、願いが込められたパフォーマンス。


 子供の頃に親戚の結婚式に連れて行かれた時にそんな事を聞いた。


 そう、幼いながらも懸命に伝えたファーストバイトの意味。


 知っている。


 知っているけど……


 ただその物事を知っているのかと聞かれたわけではないことは、鈍感な英太でも考え至った。


 そして六花はその真意を英太にぶつける。


 ストレートに、真正面から、英太に問いかける。


「……昔さ、約束したの覚えてる?」


 幼い日の出来事がフラッシュバックする。

 


『じゃあ今のがわたしの〝ふぁーすとばいと〟だね!』



 そう言った少女が目の前にいる。

 衝撃に手が震えた。


「六花……だったのか……?」


「……うん、覚えててくれたんだね。嬉しかったよ」


 そう言うと六花はにっこりと微笑んだ。


 約束をした事自体はよく覚えている。

 なにしろ夢に見るほどだ、忘れそうになると不意に見るあの夢。


 しかしどうしても相手のことが思い出せなかった。

 同い年くらいの女の子。その程度だ。


「……すまん、相手のことが思い出せなかったんだ」


「ふふふっ、だよね。だって5歳の頃の話だよ、年中さんの6月」


「……めちゃくちゃ覚えてるな」


「うん……その、私、嬉しかったから」


 赤くなってそう呟くと視線を落として再び微笑んだ。


「英太クンと、その、結婚……しようって」


「あ、あの、その、あれはだな――」


「あははっ、そんなに焦らなくて大丈夫だよ。子供の頃の話だもん。それに今は小清水さんの事が好き、なんだよね?」


「……」


 そう、だとは思う。

 告白は失敗したけど、今でも凛子のことを思うと心が躍る。一緒の時を過ごしたい、話したい、手を繋ぎたい。


 しかしどうだ、こうして思い出の女の子が六花だったという事実を知った。


 昔から凛子はこの青葉市と深い関わりがあったのだという。


 古い写真に写った3人。


 正直、あの時の女の子は凛子なんじゃないかと思い始めていた。

 

 だがこうして目の前の六花があの時の女の子だというのだ。


 ストンと腑に落ちるのを感じる。


 幼い頃から、それこそ歩き出す前から一緒にいる六花。

 男友達と遊ぶよりも六花と遊ぶことの方が多かった。


 多分、その時もいつもと同じように遊んでいたのだろう。

 

「そうか、六花があの時の……」


「うん……そうだよ」


 何も知らない子供の無邪気な約束。

 

 それなりに成長した今、律儀に守る事はないのかも知れない。

 でも気づいてしまった。

 何でもない、ただの幼馴染は女の子だという事を。


 いや、以前から気づいていた筈だ。


 2人の身長は次第に離れて、それぞれ確実に身体の変化があった。


 何かの瞬間に触れる肌は柔らかくて、隣を歩けば女の子特有の甘い香りがしてくる。

 

 六花は女の子。


 


「私、待ってる」

 

「え?」


「私、英太クンの事待ってるから」


 鈍感な英太でも六花が何を言っているのか分かった。伝わってきた。


 真っ直ぐに好意を伝える。

 

 これまで何度も何度も何度も言おうとして飲み込んできた言葉。


 六花の琥珀色の瞳に英太が映る。

 真っ直ぐに見つめる六花から向けられる想いは確実に英太の心に突き刺さる。


 待ってると、六花は言った。


 今まで自分を抑えて抑えて吐き出した言葉。


 それでも未だ自分の心を抑えて。けれど今の六花に言える精一杯の言葉。


 凛子に想いを寄せる英太を困らせないように、相手を気遣った精一杯の言葉。


 けれど、自分の想いを伝える為の言葉。

 

 『英太クンには私がいる』と。

 

 少し考えてから英太が口を開いた。


「……わかった」


「……うん。えへへ、なんか怖い」


「そ、そうか。すまん」


「ううん、私が勝手にその……だから」 


「お、おう……」


「……」


「……」


 しばらくの沈黙。


 2人でいるとたまにこんな時があるが、いつもの無言の時間とは違う。

 完全に気まずい空気が流れている。


「あ!」


 そんな空気が堪らなかったのか、六花が急に声を上げ、英太の肩が震える。


「なんだ!?」


「明日ランチ入れるって孫六さんに言うの忘れてたよぉ」


「ははっ、そんな事か。後で言っとくよ。オープンからで良いのか?」


「うん、11時から入るね」


「分かった、助かるよ」


「それでね、昨日お母さんが親戚の叔母さんから貰ったお菓子があるんだけど、すごく美味しくて」


「ほう」


「明日持って行くから一緒に食べない? 10時頃に」


「朝からお茶会って貴族かよ。最高じゃないか。じゃあその時にさっきの漫画渡すから」


「あうん、ありがとう。楽しみだなぁ」


 さっきまでの甘い空気は消え去り、いつものように言葉を交わし、歩み出す2人。


 精一杯に伝えた気持ち。言った言葉はもう戻らない、後戻りはしない。


 ただの幼馴染なんて言わせない。


 『幼馴染』から大きく踏み出した六花の表情は弾けるように明るかった。


 

 最後まで読んで頂きありがとうございました。


 少しでも【面白い】【面白くなりそう】【とりあえず読んでみようか】と思って頂けましたら、ブックマーク登録と広告下部にございます【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にして頂けますと嬉しいです。


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 モチベーション向上になりますので、是非よろしくお願いします。


 頑張りました、六花ちゃん。


 次回から体育祭でのお話となる予定です。


 お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[一言] 六花ちゃん……!!ついに想いを!! キュンキュンしますわねぇ。
2022/08/02 22:53 退会済み
管理
[良い点] 六花の告白が「好き」でも「つきあって」でもなく 「待ってる」ってのがいじらしい 英太の負担になりたくない、でもこれ以上 引いたままではいられない アンビバレンツが伝わってくる [気になる点…
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