43:幼馴染との帰り道③
ご覧頂き、ありがとうございます。
前回に引き続き六花との帰り道でのお話です。
六花週間実施中。
会計を終えてコンビニを出る。
田舎の繁華街とはいえ、それなりに明るい道を六花と並んで歩く。
一次会が終わったのだろうか、上機嫌な様子の男女のグループ数組とすれ違った。
居酒屋とこぢんまりとした楽器店の間の小道を抜けると、ぱっと視界が開ける。
ほんの5メートル程の川を囲うように整備された河川敷。
観光都市でもある青葉市の数ある観光スポットの一つの青葉川。
昼間はこの河川に面した路上で朝市が開かれており、それなりの賑わいを見せている。
しかし日も傾く頃には人影は少なくなり、夜ともなれば訪れる人は少ない。
「ここにするか」
観光地として整備された河川敷。
手頃な長ベンチを見つけて腰を下ろす。
六花も「うん」と短くいうと英太の隣に腰掛けた。
ガサガサとレジ袋からミニペットボトルを取り出し六花に差し出す。
それからお目当ての抹茶プリン。
封を切らずに六花に手渡すと、それを丁寧に両手で受け取り嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。ふふ、なんだか悪い事してるみたいだね」
「おう、その通りだぞ六花。俺たちは今からめちゃくちゃ罪深い事をするんだ」
わざと歪んだ笑みを作ってやると、六花が思わず吹き出す。
「あははっ、それは大変だねっ」
「けど安心しろ。その罪は俺も半分背負う……ほれ、スプーン」
「ありがと。いいの、私から食べちゃって」
「もちろん。せっかく食べるんだから思い切り味わってやってくれよ、抹茶プリンの為に」
「あははっ、そうだね。それに英太クンもありがとう」
このベンチに座ってから何度ありがとうと言ったのだろうか。
いつも六花はこうだった。
他人の厚意ひとつひとつに感謝し、しっかりと口にする。
心が篭ったその言葉はしっかりと相手の心に染み込んで行く。
透明なプラスチック製の蓋を留めているラベルシールを破り開封する。
ふわりと抹茶特有の香りが広がる。
落ち着くというのか、食欲と共に幸福感すら感じる香り。
「じゃあ、いただきまーす」
プラスチック製の小さなスプーンで抹茶の粉が振ってある生クリームと、緑色のプリンを掬い上げひと口頬張る。
よほど幸せだったのか、六花の表情がみるみる明るくなっていく。
どうやらお気に召したようで、ひと口ひと口大切に少しずつ口に運ぶ。
そんな六花を見ているだけで幸せな気持ちになり、自然に目尻が下がる。
「……えと、英太クンも食べる?」
何口か堪能した六花が細い首を傾げて聞いてきた。
このまま幸せな六花の顔を見続けるのも悪くないと思ったが、半分こするという約束だったので頷く。
「そうだな、俺も貰おうかな」
プリンの器ごと受け取ろうと手を伸ばそうとした英太の目の前にスッと差し出されたスプーン。
「……?」
ふと見ると、六花がスプーンで掬ったプリンに手皿を添えて差し出している。
「じゃ、じゃあ……はい、あーん……」
ん、何だ……?
一瞬何が起こっているのかわからず思考が低速になる。
プリンを、食べさせようとしてる……。
……俺に?
六花が?
あーん、って?
視覚から得た情報をようやく理解した脳が活動し始める。
目の前の状況が把握出来ると今度は爆発的に思考が加速する。
「り、六花っ!?」
「あ、あのあのあのあの、その、そのね、えっと……ちょっとやってみたくて……えへへ」
そうはにかんでみるが、六花自身も慣れないことをしているせいか透明感のある白い肌を耳まで赤くしている。
スプーンを持つ手も震え、琥珀色の澄んだ瞳はウルウルと涙ぐんでしまっている。
しかしおずおずと英太の表情をチラチラと伺う六花の視線を受けると、保護欲を掻き立てられるというのか。
幼くも確実にオンナの雰囲気を纏った幼馴染。
息を呑む英太。
そんな事を感じる自分が不思議だった。
普段の六花なら考えられない大胆な行動であるが、六花にとっても渾身の行動だ。
……しかし照れる。それも、ものすごーく。
自分で自分の顔が紅潮しているのが分かる。
何故こんな行動を取ってしまったのだろうか。
今までもこんな行動は一度も取ったことがない。取れるはずがない。
手が震える。
「……その、じ、自分でやっておいてなんだけど、すごく恥ずかしいよ……は、早く食べて欲しい、かも……」
「お、おう、そ、そうだな」
などと英太も馬鹿正直に六花に促されて差し出されたプリンをひと口食べる。
もちろん六花と目を合わせられるはずもない。
どこを見たらいいか分からず、とにかくスプーンの上のプリンを見つめて一思いにパクついた。
うん、なんとなく甘い。
その程度の感想しか思いつかない程に英太の思考能力は低下している。
「……お、おいし?」
「お、おう、美味いぞ。……多分な」
「ふふっ、多分って?」
「味なんか分かるかっ」
英太の中にある『してやられた感』のせいで語彙が少しだけ乱れてしまった。
六花は遠慮がちに、けれど物怖じしずに訪ねる。
「じゃあ、その。もう一回、食べる?」
「……」
本当に今日の六花はどうしたのか。
「お、おう……」
「は、はい、あーん……」
「あ、あー……ん」
一度やった後なので少し余裕が出来たのか、今度は割とすんなりやる事が出来た。
それでもお互い死ぬ程恥ずかしいのではあるが。
なんで俺、こんな事してんだ?
死ぬほど恥ずかしいんだけど。
……でも、なんか良いな。
心がむず痒いようなソワソワとした感覚が英太の中に広がる。
居ても立っても居られなくなる感覚。
「…………」
「…………」
しばらくの無言。
その後どちらともなく吹き出してしまった。
「……ぷっ、はははっ、何だよこれ」
「あはははっ、何だろう。すごくドキドキしちゃった」
「だな。プリンの味、分からなかったぞ」
「じゃあイタズラは成功って事でいいでしょうか?」
「いいんじゃないか? いや、やられたよ」
2人とも真っ赤な顔で笑い合う。
六花などは涙ぐんで目尻を押さえている次第だ。
夜空には欠けた月と、その月明かりに負けないほどに輝く星々。
ふわりと優しい風が吹き、葉を茂らせた枝垂れ桜をゆする。
六花の栗色の髪の毛が揺れ、女の子の甘いにおいが香ってきた。
清流に映った月明かりをまつ毛に着いた涙で受け止めるとキラキラと儚げに輝きを放っている。
夜風に乱れた髪を耳にかけると彼女は「いい風だね」と言った。
ドクン……。
自分の心臓が跳ねたのを感じた。
……なんだこの感覚。
不意に訪れたその感覚に一瞬戸惑う。
「ね、英太クン」
「……ん?」
「ファーストバイトって、知ってる?」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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次も六花回。
六花週間実施中。お楽しみに。
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