42:幼馴染と帰り道②
ご覧頂き、ありがとうございます。
前回に引き続き六花とのお話です。
絶賛六花週間実施中。
近々山場を迎えます。
「……ねぇ英太クン。ちょっとコンビニに寄ってみない? もしかしたらバイクの雑誌あるかも知れないよ」
「あ、あぁ、そうだな寄ってみるか」
『いつかキャンプへ連れて行って』という言葉に対しどう返そうかと思案していたところで六花がそう提案した。
答えに困った……というわけでは無いのだが、ここはその提案に乗ることにしたらしく、二つ返事でその案が採用された。
◇
「……らっしゃーせー」
コンビニに入ると夜勤のアルバイトの何とも気怠げな挨拶が飛んできた。
時刻は午後9時半を回ったところ。
食事時はもう過ぎているはずだが、仕事帰りのサラリーマンやOL風の客が弁当や惣菜を物色している。
ここは繁華街で唯一のコンビニだ。
今日は金曜日なので、おそらく飲みの間に寄って買い物をする客も多い事だろう。
そんな事を勝手に想像し窓際の書籍コーナーに足を向ける。
「夜のコンビニって久しぶりー。……あ、コレ前貸してくれたやつだよね、新しいの出たんだ」
「そうそう。もちろん買ったぞ。そして読んだぞ」
「ふふっ、そうなんだ。面白かった?」
「そりゃもう。アイツがまさか――」
「わわっ、もう。ネタバレはダメだよっ」
「ははっ、冗談だって。明日バイトの時に貸すよ」
「やったぁ、ありがとう。楽しみにしてるね」
六花は嬉しそうに目を細める。
以前、英太から借りた漫画の新刊を見つけた六花の声が弾んだ。
ジャンルは少女マンガの部類に入る作品で、アニメ化もした人気作品だ。
英太の部屋に行った時に不意に読んでから六花もファンになっていた。
「えと……うーん。けどバイクの雑誌も無さそうだな」
「本当だね。キャンプとかの雑誌もないね」
漫画の新刊は見つけたが、目当ての雑誌の方は全滅のようだった。
単行本のコーナーは本棚いっぱいに書籍が陳列されているのだが、雑誌コーナーの方には女性誌と週刊誌、それにパチンコの雑誌くらいしか並んでおらず寂しいものだった。
有ればいいな、くらいの気持ちで寄ったのは確かなのだが、いざ無いとなると急に残念な気分になるから不思議である。
とはいえ落ち込むほどでは無いかと頭を買い物モードに切り替える事にした。
「飲み物でも買って行こうかな」
「あ、私も」
英太は冷凍コーナーからアイスコーヒー用の氷を手に取った。
会計後にレジ横のエスプレッソマシンで淹れたてのコーヒーをドリップ出来る。
Sサイズで有れば100円で本格的なコーヒーが飲めるので英太はこのコーヒーを飲む頻度が高い。
「……六花は何にするんだ?」
と隣にいたはずの六花の姿がなくなっていた。
「あれ? 六花?」
どこへ行ったのだろうと店内を見渡せばすぐに見つけることが出来た。
六花が居たのは、パックのドリンクが陳列されている棚のすぐ横にあるスイーツコーナー。
パック入りの飲み物にしようと思ったのか、そちらに足を運んだのだろう。
飲み物には目もくれず、上中下段、3段に及び並べられたスイーツを眺めている……いや、どちらかと言えば凝視していると言った方が適切だろうか。
「六花、なんか食べたいのか?」
声をかけると、はっとしたように顔を上げる。
「え、あ、あははっ。飲み物選ぶつもりだったんだけどね」
苦笑し眉端を下げると少し照れたように透明感のある頬をぽりぽりとかいた。
「どれにするんだ?」
「ううん、食べないよ? こんな夜遅くに食べたら太っちゃう……けど、美味しそうだよね」
一旦は己を律したようだが、やはり食欲という欲求は強いのか、目は未だにどのスイーツが良いのか選んでいるようである。
「そりゃまぁそうだけど、たまには良いんじゃないのか?」
「だ、ダメだよ英太クン! 私に優しくしないでっ!」
「いや大袈裟だろ」
「一時の甘えが命取りなんだよ、モンブラン」
「いや選んでるし」
「え、ダメダメそんなわけないでしょ、チーズケーキと杏仁豆腐」
「増えた」
仕事柄、ほぼ毎日六花の夕食を作っている英太は六花が日頃から食事を摂る時間を気にしているのは知っている。
体型維持ももちろんであるが、それ以上に健康管理という意味で六花は21時以降は食事を摂らないようにしているのだ。
しかし流石にこのように目の前に爛々と輝くスイーツを見せられれば、抑えていた欲求が爆発するのもわかる。
恐らく天使と悪魔と戦っているのだろう。
見ちゃダメだと言わんばかりに両手で目を塞ぐが、ベタに指の間から琥珀色の瞳を覗かせている。
そんな様子を見ていた英太は天使寄りなのか悪魔寄りなのか分からない言葉をかける。
「たまには良いんじゃないか? いつも我慢してるんだし。我慢のしすぎも身体に良くないって言うし」
「え、でも……」
「じゃあ、半分こだ」
六花は琥珀色の瞳を丸くしてコテンと首を傾げる。
言っている意味は分かるが意図が分からなかった。
「半分こ?」
「そ。俺も半分食べるからカロリーも罪悪感も半分だろ?」
「あははっ。私の罪を半分背負ってくれるの? すごく心強いよ」
「ははっ、だろ? たまにはいいじゃないか。それに今日はかなり動いたから俺も食べたいしな。てか俺が食べたい」
「ふふっ、ありがとう英太クン」
「よし、コレなんかどうだ?」
1つのスイーツを手に取ると、にっと白い歯を見せて笑った。
自分が食べたいからなんていうものの、手に取ったのはしっかりと六花の好みを考慮した抹茶風味のプリンだった。
手のひらに収まる程度のカップの中に抹茶色のプリン。その上に生クリームと葛切り餅と白玉、小豆が乗った可愛らしくも乙女の欲望を満たすには十分のトッピングがなされたもの。
「え、いいの?」
「いいも何も俺が食べたいんだ。他のが良かったか?」
「……ううん。私もそれが良い。ありがとう、英太クン」
甘味が好きな英太ではあるが、六花の好みに寄せたチョイスなのは明らかだった。
英太の気遣いと優しさに気付き、心の奥がポッと暖かくなるのを感じる。
半ば強引にすら感じるこのやりとりも六花を気遣っての事であるし、何より……。
半分づつだということは、購入してから何処かで食べるのだろうか。
肩を並べて、一つの甘味を二人で分け合って食べる。
六花にはそれが大変魅力的に思えた。
ご覧頂き、ありがとうございました。
連載再開致しまして、新しい読者様との交流を持てて嬉しく思っております。
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次回も六花とのお話です。お楽しみに!




