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39:幼馴染と体育祭の話をする

 ご覧頂き、ありがとうございます。


 その日の放課後、英太の実家でもあるアルバイト先の花月でのお話です。


「それで小清水さんと夏菜子ちゃんがケンカしたんだ?」


 凛子と夏菜子が言い合いをした日の夜。


 試験期間中は自粛していた花月のシフトに入った英太と六花。


 英太は厨房で腕を振るい、六花はパタパタと店内を走り回る。


 試験が明けて久しぶりのバイトだというのに、今日は週末の金曜日。


 バイトに入っているとよく分かるのだが、平日の夜はどちらかというと晩酌というのか。


 食事ありきで酒を飲む客が多いのに対し、週末、つまりは金曜日や土曜日はとにかくお酒を飲みに来ているという客が多いように感じた。


 故に週末の方が店内は賑わしい。


 正直、身体が鈍るほどの試験勉強をしていたわけではなかったが、数日間だけでも厨房に立たなかった訳であるから料理の腕が落ちてしまうのではないかと心配していた英太である。

 しかしどうやらそんな心配はいらないようである。


 六花が取ってきた注文を受けつつ、合間を見てアルコールなどのドリンクを作っていく。


 目の回るような忙しさ。


 咲が来るまでは二人で回さなければならないが、しかし今日は英太も六花も良く身体が動いた。

 

 これなら何とかなりそうだ。


 華の金曜日を楽しもうと街に繰り出した、仕事帰りのサラリーマンのグループや大学生と思しき団体などで賑わう店内。


 ありがたいことに満席である。


 しかしカラカラと店の入り口である引き戸が開かれ、スーツ姿の男性がひょっこり顔を覗かせた。


 英太は厨房から顔を覗かせて景気の良い挨拶を飛ばす。


「いらっしゃいませ!」


「4人なんだけど入れる?」


「あ、すみません……今いっぱいで。9時過ぎると団体様が帰られるので、それ以後なら……」


「あー、そうなんだ。また後で来るよ」


「すみません、またお願いします」


 英太が申し訳無さそうに頭を下げると、スーツ姿の男性は軽く手を挙げてから店の引き戸を閉めた。


 今日何度目かのやり取り。


 数ある居酒屋の中からわざわざ花月を選んで来てくれている客を帰らせるのは何度やっても心苦しい。


「英太クン、追加無しだよ。お皿洗うね」


「了解。悪いな、ありがとう六花」


 先ほど通したお客の初期オーダーでとりあえず区切りが着いたようで、お盆を胸に抱えた六花がパタパタと厨房に戻ってきた。


 そのままシャツの裾を(まく)ると洗い場に直行し、溜まった洗い物を手早く、しかし丁寧にこなしていく。


 英太もカウンター席のお客に焼き魚を提供すると一時的に手が空いた。


 すぐに六花の隣に立ち、洗い終わった皿の水気を布巾で取っていく。


「ありがとう、英太クン」


「本来なら俺の仕事だから。ありがとな六花」


 手を動かしながらも、そう言った六花の表情は柔らかく優しかった。


 忙しなかった所でそんな風に優しく微笑みかけられれば、英太も自然に目尻が下がる。


 あいにく花月には業務用の食洗機はないので、全て手洗いである。

 しかしこうして二人肩を並べて作業をするだけで何故か心が落ち着いた。


「そういえば混合リレーの練習はどうだった?」

 

 溜まっていた洗い物が片付き始めた頃、ふと思い出したように六花が問いかける。


 やはりA組の体育祭実行委員であるから、目玉競技である混合リレーの進展が気になるようであった。


「おう、それなんだけどな……」


 ポタポタと雫が滴る大皿を手に取り、綿100%の布巾で水気をとりながらアンカーになった事を六花に話して聞かせた。


「え、アンカーになったの? すごいよ、英太クン」


「サッカー部の三島先輩が後押ししてくれたんだ」


「三島先輩……ああ、確か中学も同じだった人だよね?」


 サッカー部のキャプテンである三島は英太と同じ中学出身の先輩。

 だからと言うわけでは無いだろうが、英太を推してくれた。


「……でな、村上と小清水がな」


 と、凛子と夏菜子との話をしようとした所で二人の名前を聞いた六花の顔が引き()った。


「え、ど、どうしたの……?」


 ついこの間まで凛子と話した事が無かった六花ではあるが、知り合う前から夏菜子との不仲は周知の事実であった。


 心配そうにする六花に英太は放課後のことを話してやると、少し考えてから六花が口を開いた。


「うーん……その勝負のことはよく分からないけど、せっかくやるなら勝ちたいよね」

 

「そうだな、それは俺も同じ意見だよ……けどまぁ、頑張るか頑張らないかは個人の気持ち次第だろうけどな」


 英太達のクラスの1年A組然り、所属する赤団然り、いろんな性格の個人の集まりである以上は体育祭にかける熱量に違いが出てくるはずである。


 一生懸命に行事に取り組むのは大いに結構であるが、あまり気乗りしない生徒に無理強いをするのは違う気がした。


「そうだよね。それを何とかするのが実行委員の仕事だから」


「頼もしいな」


「ふふっ、出来ることは少ないかも知れないけどね」


 そう言う六花は来たる体育祭に想いを馳せる。


 体育祭に向けた準備もまだまだ始まったばかり。

 自分に何が出来るか分からない。


 けれどクラスを盛り上げ、選手を盛り上げ、一生懸命に行事に取り組む事によって体育祭に対する思いは育まれる……はずである。


「俺に出来る事があればなんでも言ってくれ。力仕事でもそうじゃなくても手伝うからな」


「ふふっ、ありがとう英太クン。頼りにしてるよ」


 体育祭は6月の中旬。


 英太を見上げるようにして微笑む六花の笑顔は、とても明るく、体育祭を成功させたいという思いが滲み出しているようであった。

 


 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


 次回は鋭意執筆中で、近日のうちに公開できるかと思います。


 是非ともブクマや下部☆による評価で応援していただけると嬉しいです。


 次回は咲登場予定です。


 お楽しみに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 英太と六花の共同作業 六花に過剰な感情がなく 自然に英太に接していて それに英太が最高に男前な返しを言っている [一言] 更新ありがとうございます 物語が王道的なら英太の相手は凛子になる…
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