37:バレー部エースと中間テスト
ご覧頂き、ありがとうございます♪
前回の後書きにも記載致しました通り、中間テストでのお話です。
少し長めですが、どうぞ最後までお付き合いください。
連休明けの月曜日、青葉高校の中間試験が始まった。
英太たち一年生にとっては高校入学後はじめての試験ということになる。
まずは力試しだと教師達は口々にそんな事をいうが、とうの生徒たちはそんなに気軽に迎えられないものである。
力試しなど口ばかりで、実際に取った点数は確実に成績に関わってくるし、上位20名は成績優秀者として総合点数付きで職員室前に張り出されるのだ。
多くの生徒には無縁の話ではあるが、成績優秀者にとってはライバルからマウントを取る良い機会である。
『全然勉強してない』と言いながら目の下にクマを作るほど勉強して臨んでいる生徒も少なくはない。
試験中のカンニングなどの不正を防止する為に各自の机の中は全て空にする必要がある為、生徒達の机の中身は廊下に出している。
それぞれ乱雑に置いているわけでは無いのだが中々の量になるため通路をかなり圧迫していた。
試験初日。そんな小狭い廊下では1限目の数学のテストが終了し2限目の生物の予習を行う生徒で混雑していた。
その人混みの中に英太の姿もあった。
自身が記入した生物のノートを確認し、試験の予習をする。
英太の成績は中の上と言ったところで特に気を抜かなければ赤点になるなんて事はないはずである。
昨日まで一応試験勉強はしてきたし、高校に入って初めての試験なので範囲はさほど広くはない。
今更必死で頭に詰め込もうという気はさらさらないが、それでも多少良い点は取っておきたい。
何もしないよりはマシかと思いながら生物のノートを眺めていると聞き覚えのある声が耳に入り、ふと顔を上げる。
「ヤバい、全然ムリだったわ。絶対赤点よ……」
「……? 小清水、か?」
C組の廊下の前に凛子の姿を見つけた。
ひとクラス分距離が空いているのでそこそこ離れてはいるのだが、金髪碧眼で高身長の彼女の姿は容易に確認する事ができた。
凛子は美しい金髪を雑にくしゃくしゃとかいて頭を抱えているように見える。
どうやら所作を見るに、今しがた行われた数学のテストの調子が良くなかったのだと推察出来た。
凛子の隣にいた女子生徒、さくらが少し呆れたように。けれど少しだけ口元を緩めながら肩をすくめているのが見える。
「テスト範囲教えたじゃない。ちゃんと勉強しなかったの?」
「したわよ、したした。バッチリ教科書は読み込んだわ」
「読んだだけじゃ勉強になってないから……はぁ」
どうやら教科書を見返した程度の試験勉強しかしていなかったようである。
それで試験勉強をしたと言い張るのだから神経が図太いというのかなんというか。
やがてA組の前に差し掛かった所で二人は英太に気づき、軽く挨拶を交わした。
話を聞くと英太の推察通り、1限目に行われた数学のテストの出来が全然だったということだった。
赤点待ったなしのエースに対して、さくらが腰に手を当てて自らより10cm程も背の高い凛子に対してビシリと指を突き立てていう。
「あのね、赤点取ったら補習よ? 補習の次は追試。追試で50点以上取れなかったら再試。再試までの間は部活禁止。というか赤点の時点で部活禁止だから。部活禁止ってことは――」
「だー! わかってるわよ、インハイ予選に間に合わない! でしょ!」
淡々と、しかし確実に痛いところをグサグサと刺してくるさくらに対して我慢できなくなった凛子が悲鳴を上げると共に頭を抱える。
「小清水、赤点レベルでヤバいのか?」
英太の問かけに、凛子の代わりにさくらが応えた。
凛子と一緒にいる機会が多いさくらであるから、ここのところはこうして英太と話すことも多くなっている。
「ヤバいわね、マジで。というか理系に関しては赤点じゃなかった事の方が少ないわよ」
「そ、それは何というか……すごいな」
「……」
本当のことを言われたのか、いつもはハキハキと話す凛子が黙りこくってしまった。
「お願い、さくら。明日の数Ⅱ何とかしてくれない!?」
「いや無理でしょ。何とかするのは凛子だし」
「そうじゃなくて! 勉強教えて……」
「うーん……まあいいわよ。私ももう少し詰めたいし…………あ」
顔の前で手を合わせて拝む凛子に対してさくらは自身の頬に人差し指を当てて少し思案した後にポンと手を叩いた。
「碧くん、この凛子にテスト勉強教えてあげてくれない?」
◇
青葉高校から最寄りのファミリーレストラン。
全国展開する大手外食チェーン店で、青葉市にはこの一件しかない貴重な店舗である。
ほんの1年ほど前に建てられた真新しい店内は暖色系のインテリアで統一されており、食事を美味しく見せるための工夫なのか明るい照明が眩しいほどであった。
しかし時刻はランチの掻き入れ時である正午に差し掛かろうというのに店内には空席が目立つ。
休日になると待ちも出来るほど盛況なこのファミレスも平日ともなればご覧の通りである。
そんな比較的空いた店内の4人掛けテーブルを陣取って試験勉強に勤しむのは英太と凛子であった。
英太と凛子との関係が少し進展すればなどと面白おかしく考えているさくらの思いつきと言うのか戯れというのか。
結局その場の流れで急に凛子に勉強を教えることになった英太だったが、もちろん断る理由もない。
寧ろ、棚ぼた的に降ってきた凛子との放課後デートに英太は浮き足立ってすらいる。
数学自体はさほど得意ではなかったので教えられるのか不安ではあったのだが、こうノートを開いていざ勉強を始めてみれば成る程、凛子の学力に対してならば英太でも十分力になれそうだった。
「……で、ここにさっきの式を当てはめて……」
「うんうん……ここをこうして……ってあれ、もしかして解けた?」
「おう、解けた解けた。ははっ、やるじゃないか」
教科書とノートを広げて唸りながら首を傾げて頭をひねるばかりだった凛子であったが、どうやら飲み込み自体は悪く無いようで英太が式ひとつひとつを丁寧に教えてやると存外にスラスラと問題を解けるようになっていた。
「あははっ、やった。やれば出来るじゃない私。……って、英太の教え方が上手いのかも」
「はははっ、そうだったらいいけどな。俺もそんなに数学は得意じゃないんだよ」
「そう? その割に分かりやすかったわよ。ありがとね」
正面に座る凛子に笑顔を向けられれば当然悪い気はしない。
教えたら教えただけ飲み込んでいくのも快感だし、何より数式を前にコロコロと表情を変える凛子は見ていて楽しい。
目標としていた箇所まで問題を解けたのでペンを置いて小休憩を取る。
それぞれの飲み物は英太がブラックのアイスコーヒーを、凛子はメロンソーダ。
グラスに注がれたエメラルドグリーンと凛子のサファイア色の瞳とのコントラストがなんとも美しい。
「ね、英太は甘いもの好き?」
凛子は唐突にそう言うと、英太が答えるより先に声を弾ませて「私大好きなのよ」と言ってメニュー表を手に取った。
そしてデザートメニューのページをめざとく見つけると、その美しいサファイア色の瞳をキラキラと……いや、爛々と輝かせて物色し始めた。
子供のような表情を浮かべる凛子の姿に目を細めながら英太はアイスコーヒーをひと啜りした後に答える。
「好きだぞ、食べるのも作るのもな」
「あそっか。この間のゆずシャーベットも手作りだったわよね。めちゃくちゃ美味しかったわ。シャーベットなんて良く作れるわよね」
「居酒屋でカクテルに使うシロップを使うんだよ。アイスだと手間はかかるけどシャーベットならそんなに難しくはないんだ」
もちろん専門店のような売り物とは比べものにはならないが、家庭で楽しむ程度のシャーベットであればさほど手間もかからない。
それでもあんなに喜んでくれるなら、やった甲斐があるというものだ。
「よし決めた。私チョコレートパフェ。英太は何にする?」
「え、俺か? 俺はいいよ」
「えー、私だけ食べるなんてつまらないじゃない。奢るから。ホレ」
凛子はそういうとニコニコしながらメニュー表を英太に差し出した。
英太はそれをやや困惑気味に受け取ると眉根を寄せる。
「え、良いのか? どうしたんだよ急に」
「急もなにもいつもお弁当作ってもらってるお礼よ。それにこうして勉強まで教えてもらっちゃってるんだし」
「そうか? じゃあお言葉に甘えようかな」
「ふふふ、なんでもござれよ。ちなみに私のおすすめはストロベリーチーズケーキパフェよ」
「なかなか美味そうだな……って待て、それって小清水が食べたいやつの第二候補じゃないのか?」
「ふふっ、バレた?」
「見るからに好きそうだからな。いや、でも確かに美味そうだからこれにするか」
「にしし、私のもひと口あげるから♪」
両手で頬杖をつき、悪戯っぽくししと白い歯を見せて笑う凛子はとても楽しそうで嬉しそうで。
英太はそんな彼女の可愛らしい笑顔をしっかりと脳裏に焼き付けるのだった。
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次回は中間テスト後のお話しになる予定です。
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