36:幼馴染と委員会
ご覧頂き、ありがとうございます。
ようやく連載再開です。
読者様には大変お待たせいたしました事をお詫び申し上げます。
連載が止まっていた理由につきましては活動報告に記載してございます。
続きを投稿致しますので、どうかよろしくお願いします。
英太主催のバーベキューから数日経った、五月の下旬。
山間部に位置する青葉市の短い春は終わり、日中の気温も随分と高くなった。
昼間は夏日になることもあるが、しかし未だ朝晩は冷え込む日が多く、最低気温が一桁台になる事もある。
新しい生活にも慣れ始めた頃。中間テストを間近に控えた青葉高校には試験前特有の空気が漂っている。
放課後を告げるチャイムが鳴ったというのに未だ陽は高い。
6限目に設けられたロングホームルームの時間。
各自の席についていた生徒たちだったが、その鐘の音を聴くと自身の鞄を提げてそれぞれの予定に向かって次々と立ち上がった。
「各自の種目は決まったし……。とりあえずはこれで大丈夫かな? みんな、テスト明けから練習あるし種目ごとの集合場所確認しておいてねー」
黒板の前に立つのは、栗色のミドルボブに琥珀色の瞳。紺を基調とした学校指定のセーラー服姿の六花だった。
彼女の澄んだ声が教室に響く。
その声に対して一年A組の男子生徒数人が「おう!」だの「頑張ろうな」だのとハリのある返事を返しては教室から出て行った。
英太達のクラス、1年A組の生徒たちは体育祭に関しては好意的に思っているようだった。
教壇に立ち、クラスメイト達と向き合っていた六花はクルリと踵を返して白チョークで黒板に書かれていた文字を消した。
「六花ー、体育祭委員引き受けてくれて助かったよ。あたし、やりたかったんだけど部活あるし、放課後は時間無くてさ」
ロングホームルームの進行をしていた六花の元に歩み寄って来た女子生徒。
黒髪の短髪に褐色の肌。
きりりと引き締まった肢体に白基調の夏用セーラー服を纏わせた中性的な顔立ちの彼女は陸上部の短距離走の選手でもある村上夏菜子だった。
よく絞られた身体。鍛えられた両脚、全身から滲み出る自信のようなオーラ。
その風貌から受ける印象の通りに彼女は数少ない青葉高校のスポーツ推薦入学枠を勝ち取った生徒の一人である。
変に飾ってない等身大の自分を曝け出しているといった方が良いのだろうか。
少女というより少年の容姿に近いかも知れない。
そんな気さくな性格の彼女は教卓に肘を突き、人なつこい様子で六花に向き合った。
「夏菜子ちゃん。ううん、全然大丈夫だよぉ。てか私、こういうの好きで中学の時も結構やったりしてたから任せてよ。ね、英太クン?」
そこに近づいてきたカッターシャツを腕まくりした英太が、空いていたもう一つの黒板消しで六花と並んで文字を消し始める。
見ると英太の机の上には筆記用具やらノートやらが広げられたままなので、自分の片付けは後回しで六花の作業を手伝いに来たようだった。
「え、あ、ありがとう、英太クン」
少し驚いた六花に裏のない微笑みを向けると、大したことしてないからと六花を制して何事もないかのように自然に黒板の文字を消していく。
「おう、そうだぞ。三年の時は応援団だったもんな。六花の学ラン姿はなかなかだった」
そんな英太に並んだ六花の声はやはり弾んでいた。
「あははっ、ありがとう。懐かしいねぇ。英太クンに借りた制服だったからブカブカだったけど」
その会話が聞こえていたのか、英太達と同じ中学出身の男子生徒がやや遠い目をして当時を思い出していた。
中学の体育祭。応援団に一時的に加入していた六花の姿。
栗色のミドルボブを後頭部で結い上げ、英太から借りた学ラン。身長差は約30cm程もあるので、当然ながら各所の寸法が合っていない。
容姿端麗の六花であるから可愛さ全開のあざといチア姿も良かったのだろうが、ぶかぶかの男性ものである学ランを着た美少女。裾からは手が出ていないのにも関わらず第二ボタンなどは六花の豊満なバストに押し返されて、今にも弾けそうなほど苦しそうなのだ。
そんな六花の姿は男に目覚めたばかりの男子中学生にとっては目の保養であったことだろう。
そんな当時を振り返る男子生徒には気付かずに英太達は話を続ける。
「だから委員は任せて、夏菜子ちゃん。私、運動全然だからこんな事しか出来ないけど」
黒板消しを置いた六花が手に着いたチョークの粉を払いながら夏菜子に向き合った。
勉強などは人並み以上の成績をキープしている六花ではある。しかし運動だけはどうしても苦手なようで、先月行われた体力測定会での短距離走の成績はクラスで下から数えた方が早いという成績である。
運動自体は苦手でも体育祭などの行事には積極的に参加するのが六花。
競技に参加する生徒のための舞台を全力で用意する。
一瞬に一生懸命になって頑張る選手を支えているその感じが好きなのだ。
「何言ってんのよ、ありがたいわ六花! 逆に私は運動しか出来ないから【混合リレー】は任せといて。ね、碧っ」
混合リレー。
各クラスから男女一人づつが選抜され、赤、白、青に分けられた各団の代表としてリレーを行う青葉高校名物の謂わば選手リレーの様な競技だ。
俊足自慢ばかりが選抜されるその混合リレーに1年A組の代表として英太と夏菜子が選ばれた。
夏菜子はパシッと英太の肩に日焼けした手を置き、白い歯を見せて笑った。
それに対し英太も大袈裟にサムズアップして応えた。
運動部のノリというのか、やや軽いノリではあったが中学まで野球部に所属していた英太にとってこの雰囲気は嫌なものではなく、むしろ最近はなりを潜めていた競争心に居心地の良いものを感じていた。
「でもバイト入りにくくなっちゃうかも知れないよ?」
「そっちは気にしなくても大丈夫だ。歓迎会の時期じゃないし。いつもガッツリ入ってもらってるんだ。こんな時くらい休んでもバチは当たらないだろ」
「うん、ありがとう。けど、なるべくバイトは入るからね? 委員会も毎日じゃないだろうし、そもそもそんなに夜遅くまでかからないだろうし」
任せとけと白い歯を見せた英太だったが、六花にそう言われては頷く他ない。
六花としてはバイトに入る時間が減るのは困る。
いや、委員を引き受けた以上は仕方のない事なのではあるが、六花のシフトが減ると言うことは咲のシフトが増えるということでもある。
つい先日に比較的大きな対バンが終わってバンド練習の頻度が減ると言っていたし、英太の父であり店長でもある孫六にシフトを増やして欲しいと話しているのを聞いたばかり。
大学生なのにも関わらず、バンドに車、終いにはバイクと趣味が多様な咲にとってバイトでガンガン稼がなければならないというのは、まぁ分かるが。
そもそも根底にあるのは、英太といる時間を確保したいという事なのは目に見えている。
……とまあ、六花も全くもって同じ目的なので何も言えないのではあるが。
そもそもバーベキューの時に発覚した出来事。
英太、凛子、六花の3人が幼馴染だったという事実。
幼馴染だった。
言ってしまえばたったそれだけの事。
都市部とは違い、比較的田舎に分類される青葉市では保育園から高校まで一緒だという人物など決して珍しくはない。
現にこの青葉高校にも数名そのような生徒がいるのだ。
しかし英太にとって凛子という存在は特別なのである。
他の生徒が幼馴染だったと発覚しても「そうなんだ」で済んでいた事も、凛子相手ではそうは行かない。
身勝手に運命的なモノを感じ取り、時の流れを超えた偶然に想いを馳せる。
そうなってしまえば、ひたすらに想いは大きくなるばかり。
ただでさえ英太の気持ちが凛子に向かっている今の状況で英太との時間をセーブしている場合ではないのだ。
六花は英太に笑顔を向けながら自身に言い聞かせる。
……大丈夫。私には英太クンとの約束、ファーストバイトの約束があるんだから。と。
しかし六花はまだ知らない。
その記憶を持っているのは自分だけではないという事を。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本日から連載を再開致します。
作者の都合にはなってしまい心苦しいのですが、確実に連載させて頂くために毎日投稿は難しいと思います。
しかし、確実に前進していきますので変わらぬご愛顧のほどよろしくお願いします。
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モチベーションが上がりますので、是非ともお力添えくださいませm(_ _)m
次回は中間テスト期間中でのお話になる予定で、執筆中です。
お楽しみに( ´ ▽ ` )
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