35:女子大生とお茶をする
新年あけましておめでとう御座います。
本年もどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
バーベキューの次の日、英太は約束通り咲とカフェに出かけます。
「……なるほどねぇ。告った相手が実は幼馴染でしたー的なノリだった訳?」
「うーん、まぁそうっすね。簡単にいうと」
バーベキューの次の日の月曜日、この日は花月の定休日。
所属しているバンドが遠方のライブに参加するという事でバーベキューに参加できなかった咲と一緒に、外資系のコーヒーショップ〝スターピッグス〟を訪れていた。
シックな色で統一されたインテリア。
コーヒー豆の香ばしい匂いとクラシカルなジャズが漂う落ち着いた店内のには、学校帰りの学生やノートパソコンに向かうサラリーマンなどが思い思いの時間を過ごしている。
フカフカのソファーが並べられた窓際の席や対面で座れるテーブル席も空いていたが、二人が選んだのは手入れされた中庭が見渡せるガラス窓に面したカウンター席だった。
人口的に作られた小さな滝のようなものまであるその中庭のテラス席にはパラソル付きのテーブル席があり、仲良さげなカップルが数組談笑している。
背の高い1人掛けの椅子に並んで腰掛け、咲はカウンターに肘をかけて英太に向き直った。
グレーのニットワンピに黒のタイツ。レザーの厚底のショートブーツといったロックなファッションの咲。
上質なシルクのように滑らかな黒髪、目元をくっきりとさせたメイクと赤い口紅が咲の攻撃的ともいえる美貌をさらに引き立てていた。
そんな誰もが振り返るであろうモデル顔負けのスタイルの持ち主の彼女と一緒にお茶をしているのが詰襟の制服を着た学生なのだから、周りの目はやや困惑しているようである。
確かに英太の方が背は高いのだが、それでも良くて姉弟か。少なくとも恋人には決して見られてはいないだろう。
バーベキューに参加できなかった咲に昨日の出来事を一通り話し終えた英太はトールサイズのカフェオレを一口啜った。
「お前はラブコメの主人公か」
そんな英太に咲は紅いネイルがなされた指で頭をぽりぽりとかきながら項垂れた。
「いや、主人公だとしたらなんでヒロインにフラれたんすかね」
「そいつがメインヒロインじゃなかったって事だろ」
「えぇ……辛辣っすね……」
確かに辛辣な咲の言葉に英太は肩を落とすが、そんな英太を見て咲は眉根を寄せる。
漫画やラノベが好きな英太と同じ趣味を持つ咲であるから、どうしてもそっちよりの会話になりがちである。
「てか、例えその〝約束〟の相手がその凛子ちゃん……だったとして英太はどうしたいんだよ?」
〝約束〟とは言わずもがな、幼い日に交わしたはずの〝ファーストバイト〟の約束の事。
まだまだ記憶が曖昧ではあるのだが、もしかしたらあの〝約束〟をした女の子が凛子だったんじゃないかと英太は思い始めていた。
というか、そうであったらいいなと思っている。
そして人の記憶とはあやふやなもので、そうかも知れないと思い始めたらそうだとしか感じられ無くなってしまうからおかしなものである。
もちろん希望的観測が強いので、そうだとは断言出来ないのだが。
「どうしたいって……そりゃ、そうだったらいいなって感じです」
「……オッケー分かった。はっきり言うぞ少年。もし万が一その凛子ちゃんが約束の相手だったとする。で、その事実が分かったとしてどうなる? お前の告白が覆るのか?」
「う……」
そうだったらいい。そう思うのは個人の自由であるが、そうなるかどうかは当然ながら相手あってのことである。
ましてや英太は凛子に見事にフラれている。
二人が遠い日に約束を交わした間柄だったと仮定したとてその事実が覆る事はない。
唇のルージュの様な真紅のマニキュアが塗られた人差し指を英太にビシリと突きつけて咲は続けた。
「昔約束したから、はい結婚しましょうってなるのか? アタシだったらならない」
「そ、そりゃ……そうかも知れないすけど……」
「確かにロマンチックだ。英太の大切な思い出を否定するつもりはないさ。けどな、その子は高校ではバレーに専念したいって言ったんだろ? 誰とも付き合うつもりはないって」
凛子はあんなガサツな性格ではあるがバレーの事となると何らかのスイッチが入るらしく、非常に真摯に向き合っている。だからこその彼女の能力。
告白した時に凛子は間違いなくそう言っていた。
男にフラフラとする高校生活は望んでいない……ハズである。
しかし英太もなかなかの楽観主義者というのか。
彼は彼なりにポジティブに物事を捉えている様で。
「はい……けど卒業してからだったらワンチャンすよ」
と言った。
そんなポジティブな英太の思考に当てられた咲はこめかみを押さえる。
「……あのな、フラれた男が言えるセリフかよ。それにリアルに考えてみろよ、三年間も待てるか? しかも卒業したとして必ず付き合えるわけじゃないんだぞ? ……まあでも……」
……それでもアタシだったら想い続けるかも知れない。
自分だったら三年間でもなんでも待ってやる。と。
咲はそう思ったが、それは口から発せられる事はなかった。
咲の言葉の裏側には英太に自分を女として意識して欲しい、振り向いて欲しいという気持ちが確かにある。
しかしそれを抜きにしても咲には英太と凛子が上手くいくと思えなかった。
付き合えないが弁当を作って欲しいなどと言った凛子。
それがどうしても面白くない。
凛子と直接会ったことのない咲は、可愛い弟分を良いように使われた気がして堪らない。
その中に女としての嫉妬ももちろんあるだろうが、それでもだ。
「……まあでも、なんすか?」
「ふふっ、何でもないよ」
コテンと首を傾げる英太に対して咲は微笑むとガラス窓の向こうに視線を投げた。
緑色のストローに着いた自身の口紅を親指で拭い、組んでいた長い脚を組み替えると周りの席に座っていた男たちの視線が集まって来るのを感じた。
しかし咲はそんな視線を気にする素振りもなく、英太の二の腕を気安い様子でポンポンと叩いた。
「思い出に浸るのもいいけどな、あんま過去に囚われんなよ。お前の目玉は前を向くためにそこに付いてんだ。後ろばっか見てると前に進めねえぞ」
咲の吸い込まれるような瞳で覗き込まれたら、心の中まで見透かされている様な気分になった。
「ははっ、かっけーっすね」
「もちろん受け売りだよ」
そう言ってカラカラと笑う咲は英太の肩をバシバシと叩いた。
姉貴分としては弟分の恋路を応援してやりたい気持ちはある。
しかしそれ以上に咲の中の女な部分がそれを許さない。
自分だって諦めるわけにはいかない。
幼い頃の約束?
思い出の女の子?
そんなもの知った事か。
アタシだったら英太を必ず幸せに出来る。
幼馴染の六花にだって負けない。
ましてや、ぽっと出の小娘なんかに英太を盗られてたまるか。
そう咲は心に強く刻み込むと隣で微笑む英太を優しい瞳で見つめるのだった。
ご覧頂き、ありがとうございました。
正月休み中は更新が難しいですが、ちょこちょこと書き溜めしていけたらと思います。
本年も悠木と拙作、ブクマ、評価、感想、レビューをどうぞよろしくお願いします(๑>◡<๑)
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