34:バレー部エースと幼馴染と英太の話
ご覧頂き、ありがとうございます♪
今回でバーベキュー回はおしまいです。
少し長めですが、どうぞお付き合いください。
「あー、すごいお肉だったっ!」
先程平らげたスペアリブがお気に召したのか、典子が満足したように腹をさすった。
小さな唇の周りは肉の脂が付着して、テラテラとツヤを帯びている。
「いや典子、あれは実は安物でな。下処理がかなりのカギをだな……」
花月の取引先である肉屋の卸し業者に依頼して比較的安価な物を仕入れた。
それに昨日のうちから仕込みをしていた訳だから、そこを評価して欲しかった英太が口を挟む。
もちろん典子も普段の兄の言動から、それくらいは察している。
しかしながら英太のうんちくが始まりそうだったのでやや雑に切り上げることにしたようだ。
「あーはいはい、わかった。さす兄!」
「……雑だなおい」
「あはは、いいじゃない。美味しかったのは事実だし、英太の味付けが良かったって事はみんなわかってるから」
兄妹のやりとりを見ていた凛子がそう口を挟めば、英太としては何も言う事はない。
一番言って欲しい人物に期待した言葉をもらったのだ。
前日の晩から仕込みをしていた甲斐があると言う物である。
「そ、そうか? なら良いかな、ははっ」
英太はその一言で満足してしまった。
自分でもチョロいなと思えてしまうが、満足してしまったのだから仕方ない。
「あの、センパイ、お、美味しかった、です」
おずおずと頭を低くしたすずめもそう言ってくれている。
ここに登場してきた時の彼女よりも確実に肩の力は抜けて、普段通りの会話ができるくらいには復活したようである。
すずめの緊張をほぐしてくれた原因であろう凛子に心の中で感謝しつつ、「そうか、良かったよ」と言ってすずめに微笑みかけるとまた恥ずかしそうに頬を赤らめ、小さくなってしまった。
その後、すずめは典子の部屋に行くことになったらしい。
何でも好きなアーティストのライブ映像を見るのだとか何とか。
食べるだけ食べた後に申し訳ないと言いたげなすずめであったが、典子に腕を引っ張られればついて行くほかない。
それに英太達もそれは全然気にしていない様子である。
またあとでくるからと言った中学生ズを見送ると、どことなくゆったりとした時間が流れたような気がした。
「この後デザートあるからな」
「マジ? いたせり尽くせりね。後から法外な請求書送り付けないでよ?」
「あははっ、大丈夫だ。ギリギリ払える所を突くつもりだからな」
「ふふっ、こわいこわい」
英太の冗談に凛子は肩をすくめる。
もともと割り勘でという約束だったし、既に会費は回収している。
11時頃から始めたが、今や3時を回っている。
一品一品、コース料理のようにゆっくりと提供されたアウトドア料理を食べてかなりお腹も膨れてきた。
後は英太が仕込んでおいた柚子のシャーベットがあるだけで今日のコースはお仕舞いである。
早々にデザートを出しても良いのだが、それを出してしまうとこの楽しい会も終わってしまう気がする。
立ちっぱなしだった英太もようやく腰を下ろして少し冷めかけた焼きそばに箸をつける。
「ふふっ、英太クンお疲れ様」
「おお、サービスいいな。ありがとう」
そんな英太の背後に立った六花が戯けて肩を揉んでやる。
遊びのようなノリであるが、六花の細い指でしっかりと心地よいところを刺激してくれていた。
「お客さん、こってますねー」
「いやー、バイトがしんどくてねー」
「ふふっ、本当仲良いわね。……幼馴染かぁ、羨ましいわ」
側から見たら明らかに友達以上の関係に思える二人の様子を見ていた凛子がそんな事を言った。
「小清水も幼馴染いるんだろ? あの、花澤さんて子」
「花澤さん……えと、確かC組の背が高いカッコいい系の人だったよね?」
さくらも高身長でクール系美少女である。
凛子につづいてさくらもまた学年中の有名人だ。
「あはは、そうかも。うん、知らない人からしたらそう見えるかもね。さくらとは小学生からの付き合いよ。バレーでも学校でもずっと一緒。家も近かったからね」
「それで高校でも一緒なんだから正真正銘の幼馴染じゃないか」
「まぁね。けど、さくらの場合は幼馴染というか相棒ね。……ね、英太はずっとこの街に住んでるの?」
英太は凛子のその問いにうなづいた。
英太は生まれも育ちもこの青葉市。
なんなら両親も両親の両親もこの町出身だ。
「……そう、なんだ」
一通りそう話してやると、凛子は少し難しい顔をして黙り込んだ。
金色の髪がハラリと垂れるとそれを再び耳にかける。ひとつひとの所作が色っぽいなと英太は思った。
「けど、それがどうしたんだ?」
「うん、私ね、お母さんがこの町出身だって言ったじゃない。だから、何回かこの町に遊びに来たことがあるのよ。その時にね……」
顔を伏せたまま凛子は小さく呟いた。
「もしかして、英太があの時の……」
「「……え?」」
英太と六花が同時に聞き返した。
凛子の声はすごく小さくて聞き取れなかったからだ。
「……って、そんなわけないかぁ。ごめん、なんでもないわ」
なんて言ったのか聞こえなかった。
割となんでもハキハキと喋る凛子にしては珍しい事だ。
もう一度聞き直そうとした時にカラカラとリビングへ続くガラス戸が開かれ、母親の望美がリビングから顔を出した。
そういえば花月のランチが終わる時間だ。
望美の姿を見た凛子と六花が会釈をした。
「お、やってるわねー。……あら、両手に華ね、英太」
二人ににこやかに手を振り返すとそんな事を言う。
「か、母さんっ!?」
「ふふっ、冗談よ。昔から英太は女の子と遊ぶことが多くてね。こういう事は良くあったのよ」
「ほ、ホント? 沢北さん」
凛子に話を振られた六花は少し言いにくそうに目線を泳がせた。
「う、うん……確かに保育園の頃から英太クンは女の子と遊ぶことが多かったよ。私はその度に気が気じゃなくてその子と英太クンの間に割り込んで……って、そうじゃなくてっ!?」
「な、何の話だよ……」
「ふふっ……ええと、貴女どこかでお会いしたかしら……?」
二人の会話を微笑ましい表情で聞いていた望美が凛子に向き直る。
凛子は立ち上がり、丁寧に自己紹介をする。
「小清水凛子です。英太……くんとは同じ学校で――」
「……凛子ちゃん?」
「え、は、はい。そうですけど……?」
と、そこで望美から予想外の反応が返ってくることになる。
「あら懐かしいわね。保育園の時以来かしら?」
「保育園……?」
予想しなかったその反応に凛子を含め、英太と六花も首を捻った。
しかし望美は懐かしい写真を見つけた時のように声を弾ませる。
「忘れちゃったかしら? まぁ無理もないわよね、子供の頃の記憶って大人と違ってすぐに忘れてしまうものね」
「ちょ……ちょっと母さん、話が見えて来ないんだけど。母さんは小清水と知り合いなのか?」
「あら、英太、覚えてないの? 六花ちゃんも?」
「えっ!? わ、私ですか?」
自分に話が及ぶとは思っていなかった六花が目を丸くする。
そして望美は予想だにしない言葉を発するのだった。
「あなた達、三人でよく遊んでたじゃない」
……え、今なんて?
三人で遊んでた?
「は、はぁ!? 一体どういう事だよ、母さん!?」
「私達が小さい時に会っていたって事ですか!?」
「ふふっ、そっか覚えてないんだね。凛子ちゃんのお母さんと私は学生時代からの友達。青葉に帰省した時には必ず遊びに来てたの。……それを知らずに呼んだの? それはそれですごい奇跡ね」
「……俺と小清水は昔、会ってた?」
しかも同じ高校に入学して、今日この日に一緒にここにいる。
それも英太は凛子に告白までした。
何年かぶりに再会して、成長した凛子に知らないうちに惹かれていただなんて……。
そんな事あるのか?
と、やはり英太には信じられなかった。
それは凛子と六花も同じことでただただ顔を合わせて首を捻るばかりであった。
「信じられない? ちょっと待ってなさい」
望美はリビングに引っ込むと、しばらくもしないうちに戻ってきた。
分厚いアルバムを抱えて。
えーと……。などと言いながらペラペラとページをめくっていく。
それは英太自身も何度も見た事があるアルバムで幼い英太や典子や両親はもちろん、六花や六花の家族もたまに写っている写真がまとめられている。
「……あ、ほらコレよ」
望美が指す写真。
クローバーの絨毯が敷かれたような緑いっぱいの公園。
白詰草の花冠を頭に乗せて楽しげに笑う3人の子供が写っていた。
真ん中の男の子は英太。
向かって右の栗色の髪の女の子は六花。
そしてもう一人……。
「……これ、私だわ……」
金色の髪、サファイアの瞳。
白雪のように透き通った白い肌。
幼いながら天使のような美しさをした少女。
それは間違いなく凛子であった。
よく観てみると確かに面影がある。
それに本人がそうだと言うのだから間違いないだろう。
「……ま、マジかよ」
「私達、3人が……」
「知り合いだったって事……?」
事実を知った三人。
この日を境に靄がかかった記憶が少しずつ晴れていく事になる。
ご覧頂き、ありがとうございました。
今回でバーベキュー編はおしまいです。
振り返ってみると、もう少し短くできたんじゃないかとか反省しています。
まだまだ修行が足りませんね_(:3 」∠)_
頑張ります。
次回、バーベキューに参加できなかった咲が登場予定です。
お楽しみに!
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