32:バレー部エースと幼馴染と妹と後輩
ご覧頂き、ありがとうございます♪
一話が長くなってしまいましたので、前回からの続きになります。
「……約束? 一体どんな――「うわぁ、いい匂い!」……?」
凛子が英太にそう問いかけ用とした時、バルコニーの外階段から元気の良い声が飛び込んで来た。
三人の視線がそちらに向く。
「ただいまぁ! 六花ちゃん、ヤッホー」
「……っ。おかえり、のりちゃん」
階段から上がって来たのは、部活を終えて帰宅したジャージ姿の妹、典子。
六花におーいと手を振る。
それに応える六花は溢れそうな涙を袖で拭って笑顔を作った。
英太と六花が幼馴染なら当然妹の典子とも幼馴染という事になる。
学生的には先輩後輩の間柄にはなるのだが、2人の間にはそんな垣根は無い。
「ただいまぁ……って、あれ、お客さん、外国の人? へ、へロー?」
ポニーテールに結えた黒髪を揺らし、バレー部のスポーツバッグを肩からかけた典子は凛子の姿に気がつくとペコリと会釈した。
凛子のルックスから外国人だと勘違いしたらしく絶望的な発音の英語での挨拶となった。
「ども、お邪魔してます」
凛子も立ち上がり軽く会釈する。
2人の身長差は50cm。
凛子は見下ろし、典子は見上げる。
大人と子供が会話しているような構図になってしまっていた。
「オウ、上手なニホンゴですネー」
「日本語通じるから。日本人だから。妙なイントネーションはやめろ」
英太はこめかみを抑えて顔をしかめる。
何故に外国人と話す時に日本人の日本語は変なイントネーションになってしまうのか。
スシィ、テンプーラ、ニンジャ、サムラーイ。
そんな謎の現象が起こっている典子だったが、英太のツッコミで我にかえったようだ。
「え、日本の方なんですね。美人だし背ぇ高いですねー。ほぉー」
横に並んでつま先立ちになり、凛子と自分の身長を比べる典子。
人懐っこい性格の典子であるから初対面相手、しかも年上であろうがお構いなしの距離感である。
凛子もどちらかといえばそんな性格ではあるので気にはしていない様子である。
しかしそれは兄の英太としては複雑な心境でもある。
「初対面の相手に何してんだ……」
半目になる英太であるが凛子は全く気にしていない様子でヒラヒラと手を振る。
「あはは、いいわよ。可愛いじゃない」
「えへへぇ」
凛子がポンポンと黒髪を撫でてやると、典子は嬉しそうに目を細める。
「……もう懐いたのか。チョロいな」
「美人さん限定チョロインなんで。ふひひ」
「開き直りやがった……」
うなだれる兄に対して妹はといえば、凛子の細いウエストに抱きついてニヤリと笑った。
……く、悔しくなんかっ!
英太は若干羨ましさを感じて歯噛みした。
コミュ力最強かよとも思ったが、それ以前に無礼者に分類されないかと心配にすらなってしまう英太である。
凛子はといえば、そんな典子に小動物的な魅力を感じたのか嫌がるそぶりもなく、むしろ愛でるべき存在だと認識したようである。
よしよしと頭を撫でてやり、目を細める。
彼女自身も典子の髪の感触を楽しんでさえいるようだ。
「秒で仲良くなったぞ……すげぇ……。あ、そうだ。すずめちゃんはどうだった?」
ともあれ、仲良くなってくれる事自体は喜ぶべき事なのでよしとする。
そういえばと、けさ誘ってみると言っていた典子の友人のすずめの事である。
可能なら連れてくると典子は言っていたのだが、その話はどうなったのだろう。
「あれ、連れてきたんだけど……って、なんで隠れてんの、すずめ?」
「あうっ!?」
典子が目線で指す方向、みんなが上がってきた外階段の方を見るとこちらを覗き込んでいる目があった。
やや端の下がった優しげなタレ目は典子の親友、矢井田すずめのモノに違いない。
現に全員の視線を一手に受けた彼女が発した奇声は間違いなくすずめのものである。
バレてしまっては仕方がないと言うわけではないだろうが、見つかってしまっては出てくる他ない。
極度の照れ屋さんのすずめにとってはこの状況から現れる方がハードルが高いはずである。
「なんで隠れてんの?」
「だ、だって……ノリちゃん先に行っちゃうんだもん……」
バルコニーへと続く階段に身を隠していた彼女も、みんなに見つかってしまえば仕方なしと言った様子で恥ずかしそうに階段を登ってきた。
典子と普通にお邪魔しようと思っていた彼女であったのだが、肉の匂いに釣られていきなり階段を駆け登り始めた典子に取り残された形になってしまったのだ。
「こ、こんにちは……お、お久しぶり、です、〝センパイ〟と沢北先輩……」
年上だらけの場所に連れてこられて恐縮しまくっている彼女は、矢井田すずめ。
典子や咲にも引けを取らないツヤのある長髪を後頭部で2つ縛りにした中学三年生の少女。
やや端の下がった優しげなタレ目はうるうるとしており、どうやら目線をどこに落ち着けて良いのか探っている最中のようである。
きめの細かい頬を赤く高揚させたその姿はどこか小動物じみていて、保護欲を沸き立てられる。
活発な性格の典子に対してすずめは内気な性格であるが、それがかえって守ってあげたくなるようなそんな気分にさせられる女の子である。
そして彼女が言う〝センパイ〟とは英太のことである。
「すずめちゃん、久しぶりだねぇ」
幼馴染の典子の親友であるから六花もすずめとは顔見知り以上の間柄である。
にこやかにそう言うと、すずめはもう一度ペコリと会釈をした。
「いらっしゃい。卒業以来だね、すずめちゃん」
「……あぅ」
しかしそう英太が話しかけるとすずめは更に赤くなり、ただでさえ小さい身体を更に小さくさせてしまう。
恥ずかしさからか、その表情は前髪で隠してしまって伺う事は出来ない。
「ははっ、そんなに緊張しなくても……」
にこやかにそう言いつつ一歩近づくと。
ずざっ。とすずめも一歩下がる。
「……え」
「……あぅ」
その様子を見た凛子が肩をすくめる。
「……あんた、この子に何したのよ?」
「何もしてねぇ……」
確かに今日はいつもより人見知りがすごいな、と英太は思った。
それはおそらく、英太達が中学を卒業した以来約2ヶ月ぶりの再開だからという事もあるに違いない。
しばらくこの場で過ごして慣れてしまえば今よりは話せるようになるはずである。
「英太、彼女は妹さんのお友達?」
「ああ、そうだ。矢井田すずめちゃん。典子の友達で俺と六花の後輩だよ」
「あぅ、や、やややや……(矢井田すずめです。よろしくお願いしま)……す」
かき消えそうな細い声でなんとか自己紹介をするが、ほとんど「す」としか聞こえなかった。
けどまぁ英太から名前は聞いているから、そこはツッコまなくても良いだろう。
「あははっ、赤くなっちゃって可愛いじゃない。ねぇ、英太」
「ははっ、そうだな」
凛子が英太に振ると英太も優しげにすずめをみつめて頷き、六花もまた同じく。
先輩達のそんなリアクションを受けるすずめは言わずもがな赤面して、さらに縮こまってしまうのだった。
「……はぅ」
「私は小清水凛子。よろしくね」
今度は私の番だという仕草で自己紹介した凛子であったが、その名前を聞いた中学生二人が顔を見合わせる。
「……こ、小清水、凛子……さん?」
二人とももれなく目を丸くしている。
そんな二人のリアクションを見た凛子が何事かと身構えた。
「そ、そうだけど……?」
凛子がそう肯定すると典子とすずめの目が輝いた。
そして典子がやや興奮したように言った。
「もしかして、〝東洋の魔女〟さん……?」
東洋の魔女……?
聞き慣れない単語に英太と六花は首を傾げた。
ご覧頂き、ありがとうございました。
いつも当作品をご愛読いただきまして、誠にありがとうございますm(_ _)m
週末は先週に引き続き、書き溜めをしたいので連載をお休みさせていただきます。
寒い日が続いていますが、皆さまどうかご自愛ください。
皆さま、良いクリスマスをお過ごし下さいませ(*´-`)
【いいね】ポチッ




