30:バレー部エースと幼馴染③
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もう一話だけ三人のお話です^ ^
凛子と六花が服などはどこで買っているのか、などという話をしているところに最初の料理を大きめの紙皿に乗せた英太がやってきた。
「お待たせ。熱いかもしれないから気をつけて食べてくれ」
「なにこれ、すごく美味しそう。ピザ?」
出された料理を見た凛子が身を乗り出してその皿を覗き込む。
そこには手のひらほどのサイズのピザが数枚並べてあった。ピザの上に乗った具材は様々で彩りが良い。
恐らく初めて見たのであろう凛子が興味津々と言った様子なのに対して、六花はこの料理を知っているし、食べた事もある。
「そうだよ、この生地は餃子の皮を使ってるから焼きたてだとパリパリで美味しいんだよぉ」
「ははっ、なんでお前が得意げなんだよ」
六花がなぜか少し得意げに胸を張り鼻を鳴らす。が、英太がつっこむと赤い舌を出した。
「てへぺろぉ」
「それ、そろそろギリギリなヤツだぞ」
そろそろ賞味期限の切れそうなリアクションをした六花に半目になる英太は肩をすくめる。
そんな六花は自分の方が英太の事を知っているんだぞとでも言いたげであるが、凛子に六花の真意などわかるはずもない。
凛子が物珍しそうにミニピザを覗き込む。
「餃子の皮? あのスーパーとかに売ってるやつ?」
「生地から作っても良かったんだけどな。今回はそこのスーパーで買ってきた」
「餃子の皮って作れるの!?」
「そっちかよ!?」
どちらかというと餃子の皮をピザ生地に見立てた所に驚いて欲しかった英太であるが、凛子にとっては餃子の皮を手作りする英太の方が驚きだったようである。
餃子の皮はこだわらなければ、比較的簡単に作ることが出来る。
もし今日が餃子パーティーであれば腕によりをかけて皮から作るが今回は前菜も前菜。
あまり手をかけたく無かったのでお手軽でお値打ち、質も申し分ない市販のものを流用した。
「まぁそれはいいけど。冷めないうちに食べてみてくれよ」
「そうね、せっかくの出来たてだし。いただきまーす」
数種類の異なるトッピングがなされている物があるが、凛子が手に取ったのは生地の上にピザソース、輪切りにしたピーマン、荒切りにした玉ねぎ、サラミ、ナチュラルチーズが乗ったオーソドックスなトッピングのものだ。
生地の上にトッピングする前に、生地だけバーベキューコンロの網の上で軽く焦げ目が着くまで炙る。
生地は非常に焦げやすいのですぐに火からあげ、それから上にトッピングをしていく。
食材にはあらかじめ火を通しておく事がポイントだ。
タマネギなどは辛味がなくなる程度にレンジで処理しておく。
トッピングが終わったら最後にバーナーで焦げ目をつけるのとチーズを溶かしたら完成だ。
焦げたチーズの香りが凛子の鼻腔を刺激し、食欲を増幅させる。
パリっとした食感の生地。
その上に絶妙なバランスでトッピングされた食材達。
しっかりと下処理されている、個々でも美味しいであろう食材達が自己主張しすぎず互いを高め合っている。
しかしやはりこのピザの主役はチーズ。
それらの食材を包み込むように程よく焦がしたチーズの香りが鼻腔を抜けていく。
パリパリ、シャキシャキ、そしてとろーり。
それらの食感が混じり合う。
やがて凛子の細い喉がコクリと動き、食材が飲み込まれる。
感想は聞くまでもない。
彼女の顔を見れば満足してくれている事は明らかであるから。
「美味しいっ」
しかしそう言わずにはいられない。
心の底からの言葉だと言うことが良く伝わってきて、思わず英太の表情も緩む。
「うーん、英太クンの料理は世界一だよぉ」
六花も凛子と同じ物を食べていたようで、両頬に手を当てて至福の表情を浮かべている。
ぷにぷにと柔らかそうなほっぺたにピザソースが付いてしまっていたので、英太がティッシュで拭ってやる。
「えっ? な、何?」
「ソースが着いてたぞ。ほれ」
ソースが着いていたことに気づいていなかった六花は、どうして頬に触れられたのか分かっていない様子で首を傾げる。
しかし英太がソースが着いたティッシュを見せてやると、やや赤面して恥ずかしそうにはにかんだ。
「あれ、着いてた? えへへ、ありがとぉ」
「ははっ、子どもか?」
「法律的にはまだ子どもだよ」
「返答が固い……」
と言いつつ笑い合う六花と英太。
そんな2人の様子を二個目のミニピザをかじりながら眺めていた凛子が何の気なしに呟く。
「二人、付き合ってんの?」
「はっ?」
「えっ?」
思わず凛子を見る英太と六花。
完全にシンクロしたその動き。急に四つの目玉で見つめられた凛子は少し驚いた。
「えっ、違うの? ああ、違うわよね、ごめん」
考えてみればつい先日、英太に告白されたばかり。
それなのに付き合ってるの、なんて流石に無神経な質問だったかと後悔した。
しかし一度口から出た言葉は取り消せない。
どうみても仲の良い二人を見ていたらふとそんな疑問が浮かんだが、告白から数日しか経っていないのにそんな事があるだろうか。
英太はそんなチャラチャラした奴じゃない。
分かっているのに、いつものくせで考える前に口を割って出てしまった。
英太の気持ちを考えずの発言だったと後悔していると六花が手をヒラヒラとさせた。
「あははっ、気にしないで小清水さん。よく言われるんだぁー。ね、英太クン?」
「そうだな。俺と六花はただの幼馴染なのにどうもそう見えるらしいんだよ」
「そ、そうだよ。私たちは、ただの幼馴染、だから」
……今はまだ。
その言葉は六花の口から発せられる事は無い。今はまだその時ではない。
「そうなんだ、ごめんね。なんかお似合いに見えたから」
「気にするなって。昔から一緒にいるからな、気が合うのは確かだよ。六花はこういう性格だろ? いつも俺に合わせてくれてるんだ」
「え、そ、そんなことないよっ。英太クンが私を引っ張ってくれてるから。私は英太クンにちょこちょこと着いていっているだけで……」
「バイトの時も俺の動きに併せて動いてくれるだろ? ホント助かってる」
「あう……あ、そ、そんな……あう……」
少しずつ頬を紅潮させていく六花だが、英太はそれに気づいていない様子だ。
「もしそれが無意識の行動だとしたら、それは才能と言って良いかもしれないな。人をよく見て、その人の気持ちになれるっていうのは優しい人間にしか出来ない事だ……って六花っ?」
「あ、あうあう……」
気がつけば六花は首から上全部が真っ赤になっており、頭頂部から白い煙が上がっているように見えなくもない。
頭から水をかけてやればもしかしたら、じゅーとすごい音を立てて水が蒸発しそうなほどである。
「り、六花!? 顔真っ赤だぞ、熱でもあるんじゃないのか!?」
ぴと。
「ひゃ、ひゃう!?」
英太が手のひらを六花の額に当てる。
もしや急に熱が出て、体調不良に陥ったのではと危惧したからの行動であるがもちろん逆効果である。
英太の手のひらが触れた瞬間はそれ程でも無かったような熱も、次の瞬間には沸騰したヤカンのように熱を上げてしまった。
六花のベタにグルグルと目を回し、折り畳み椅子にへたり込んでしまった。
「あっつ!? ちょっと待ってろ、いま氷水をっ!」
あまりの熱さに手を離した英太が慌てて駆け出す。
「え、え、ちょ、何事っ!?」
いきなりこの状態になった凛子は理解できずに三個目のミニピザを手に持ったままどうすればいいかわからなかったが、火おこし用のうちわを手に取り、クーラーボックスからキンキンに冷えたお茶を取り出して六花の額に当てて扇いでやるのだった。
ご覧頂き、ありがとうございました。
次回は妹ちゃん登場致します、ご期待ください(о´∀`о)
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