26:幼馴染と設営
ご覧頂き、ありがとうございます♪
お買い物を済ませた二人。
協力して設営に入ります。
英太と二人きりになれた六花はご機嫌の様子です。が。
スーパーで飲み物と細々した食材を購入し帰宅した英太と六花はバーベキューの設営を開始していた。
玄関には回らず外階段を上がって、直接二階のバルコニーへ向かう。
そこには予め用意していたキャンプの際に使うような折り畳みのテーブルや椅子が数脚と、折り畳みのタープ。それとアウトドア用品が詰め込まれた道具箱。
五月の温かい日差しだとはいえ一応日陰は欲しいので、折り畳みの大型タープを二人がかりで広げる。
「あれ、これどうやるんだっけ?」
近年のタープは各関節を伸ばせば完成してしまうほど簡単なものが多い。
しかしタープの設営は初めてだった六花は戸惑ってしまっていた。
「どれ……これは、こう」
「あそっかぁ。ありがとう」
関節の固定の仕方が分からなかった六花が手間取っている所に英太が手を貸す。
もちろんコツもあるのだろうが、非力な六花ではなかなかに上手くいかない。
しかし英太が手を貸すと何事もなく器具が作動させる事が出来た。
持ち主なのだし、慣れているので大した事は無いのだけれど、それでも六花からしてみれば自分が出来なかった事を難なくやってのける英太にはやはり感心してしまっていた。
「ふふっ、やっぱり男の子だね、頼りになるぅー」
「ははっ、任せとけっ……って、大した事ないから」
感心したように言う六花に英太はわざとらしくドヤ顔をして力こぶを作ってみせる。
「あ、そうだ。これ着けといた方が良いぞ」
英太は思い出したように道具箱から新品の軍手を取り出して六花に差し出した。
炭や薪などを扱う時にあると便利なのでまとめ買いしたものだ。
突然差し出された軍手を両手で受け取ると、大きな目で英太を見ながらコテンと首を傾げた。
「ん、軍手? どうして?」
「怪我したら大変だろ。六花の手ぇ柔らかそうだから。ちょっとした事で擦りむきそう」
「でも、それだったら英太クンの手も大事だよ。花月の副料理長なんだし」
「あはは、なんだよその肩書き。俺はバイト。六花と同じだよ。ほら、俺の手の皮は厚いんだ。いいから六花はしとけ。女の子なんだから怪我したら大変だ」
「あ、う、うん。ありがと……」
六花はドジな方では無いし、気をつければ怪我をする事は無いとは思う。
けど英太の心遣いが何より嬉しかった。
しっかりと女として捉えて貰えていることが。
けど、
「……でかいな」
「あはは、そう、だね。ふふっ」
英太が差し出した軍手を装着した六花であったが、六花の手のひらに対して大き過ぎたのか、指の部分がかなり余ってしまった。
軍手自体は標準な大人サイズであるから、如何に六花の手が小さいかがわかる。
けれど六花は嬉しそうに微笑んで、英太に両手を突き出しぶかぶかの手袋を見せつけた。
◇
バーベキューコンロの炭に着火し、炎が安定するまでうちわで扇ぐ。
電動で風を起こせるブロワーが有れば楽なのだが、前回のバーベキューの際に何処か別のところにしまったらしく、今回はうちわで風を送り込む力作業だ。
力任せに扇いでいるとやがて炎は安定して、パチパチと小気味の良い音が聞こえてきた。
火の粉が舞い、炎が上がるのだから熱も出る。
さほど気温が高いわけでは無いのだが、やはり火の近くにいると汗が滴る。
英太が火起こしに精を出している間に六花はせっせとテーブルやイスを設置していく。
英太の家でやるバーベキューも何回目だろうか。
タープ設営とは違い、こっちはお手のもの。
勝手知ったる物で、慣れた様子で進めていく。
手袋のおかげもあってか怪我もしていないようである。
炭の具合が安定したのか、額の汗を拭い時計を見るとちょうど凛子を迎えに行く時間が迫って来ていたことに気づく。
「あ、そろそろ時間だな。六花、俺、小清水迎えに行ってくるわ」
「あ、はぁーい…………………………え」
反射的に愛想の良い返事をした六花であったが……英太の言葉の意味を理解したのか、ぴたりと笑顔のまま固まった。
心なしか口端がひくついているように見えるのは気のせいでは無いはずだ。
「……え、いま、なんて……?」
「いや、小清水迎えに行かなきゃ」
半分聞き間違いであれと思っていたが、やはり聞き間違いなんかではなかった。
「な、なんで小清水さんっ!? 来るの、ここに?」
意外すぎる人物の名前が出たことに驚き、そして戸惑うのも仕方ない。
恋敵である咲が不在で安心しきっていたのに、その上を行く強敵がくると言うのだ。
「言ってなかっ――「聞いてないっ!」……たか、すまん」
えらい勢いで言葉をかぶせられた英太は一瞬たじろぎ頭をかいた。
六花に伝え忘れていたのなら申し訳ないが、こんな勢いで怒られるとは思っていなかったので若干その勢いに押されてしまう。
「けど良いだろ、バーベキューは人数が多い方が楽しいしさ」
キラキラ
「うっ!? ま、眩しいっ!?」
「な、良いだろう?」
キラキラ
「え、笑顔が眩しい!?」
英太のキラキラとした笑顔を見せられたら今更「嫌だ」などと言えるわけもない。
「もう、わかったよぉ。次からはちゃんと言ってよね?」
「おう、気をつける」
一応は飲み込んだようだったが、六花はほっぺたをフグのように膨らまし、口を尖らせて拗ねてしまった。
「…………つーん」
「怒って『つーん』っていう人間を初めて見た」
とは言え六花も鬼では無い。
今聞いたのは確かだが、もともと約束をしていたのは理解したし、何より英太が言い出したバーベキューである。
しかも場所や道具を提供してもらっているのだから今更文句は言えない。
何より凛子もきっと楽しみにしているはずである。
それを思うと自分の感情一つで雰囲気を壊してしまうのは違う気がした。
半ば諦めたようにそう言った六花に、英太は頭をかきながら向き直る。
「悪い。まぁ小清水も青葉に来たばかりなんだしさ。友達になる良い機会だと思ってくれないか?」
英太としては一人暮らしの凛子に賑やかな休日を過ごしてもらいたいという思いがあり、彼女を誘ったのだ。
まぁ、もちろん凛子と休日に一緒にいたいというのが根底にあるのだが。
それでもせっかくの休日を楽しく過ごしてもらいたいというのは嘘では無い。
そんな英太のお人好しな部分が垣間見えたからこそ六花は縦に首を振るしかない。
そういう所も彼の良さ。
六花はよく知っている。
それに確かに凛子がどんな人物なのかは気になるようで、六花はそれを了承した。
「そうだね、仲良くなれるにこしたことないし」
「ありがとな。じゃあ行ってくる。喉が渇いたら何か飲んどいてくれてもいいからな」
「うん、ありがとう。気を付けてね」
英太は軽く手を上げるとバルコニーの階段を降りていった。
心なしか足取りが軽く見えるのは気のせいでは無いだろう。
「……はぁ」
一人残された六花は落胆したわけでは無いだろうが、しかし深いため息をつき、ペットボトルの紅茶を一口飲んだ。
「……ピンチはチャンスだよ、六花。プラスに捉えなきゃ」
折り畳みの椅子にポスっと腰掛けた六花は、持ち前のポジティブシンキングで頭を切り替える。
そして、むんっと両手の拳を握り気合いを入れるのであった。
ご覧頂き、ありがとうございました。
次回、凛子と六花のファーストコンタクトです。
ピンチをチャンスに変えるのだ、六花!!
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