24:幼馴染が見た夢
ご覧頂き、ありがとうございます♪
今回は少し短め。
主役は六花です。
「……うーんっ」
い草の匂いが優しく漂うのは六花の寝室。
畳の上に敷かれた布団は就寝前の状態とほとんど変わっておらず、彼女の寝相の良さが見てとれた。
六花は半身を起こして大きく伸びをした。
大きく上げた腕に引っ張られるパジャマ。
それにつられるように六花の豊満な胸が容易に形を変えてしまう。
腕を戻せば胸の形も元通り。大きいが形の良いバストの頭頂部が遠慮気味に自己主張しているのであった。
「……懐かしい夢」
六花もまた懐かしい昔の夢を見ていた。
あれは確か……小学校へ上がる前の事。
あの時に初めてファーストバイトという言葉を知った。そして意味も。
あの時に確かに約束した『英太との約束』
英太クンは覚えているのかな。
この夢を見るたびに六花はそう胸を高鳴らせた。
六花は理解している。たかが幼い頃にした約束。
それを守ってもらえなかったからと言って腹を立てるようなことはしない。
……もちろん守って貰えるのならロマンチックな事この上ない。
今でも英太がこの約束のことを思い出して振り向いてほしいと思っている。
期待……している。
今の英太は凛子のことが好きだ。
それは告白に失敗した後も変わらないし、むしろ凛子が弁当を作って欲しいなどと言ったものだから英太はさらに熱を上げてしまったようである。
六花はといえば、度重なるアプローチももはや日常的になってしまい、気がつけばもはやそれに切れ味はなく、刃が落ちたナイフのように鋭さを失ってしまっている。
かと言ってアプローチを止めるつもりはない。
1番身近なライバルは……咲だ。認めたくないが。
咲は英太にとっては姉のような存在であるが、咲にとってはその限りではない。
あの時の、キスを迫っていた時の咲の目。
あれは弟を見るような目ではない。完全に欲情し切った女豹のような目だった。
何とか助け出せて良かったと六花は心から思った。
しかし、もし凛子が英太の魅力に気づいたら?
あっという間に恋に落ちるんじゃないだろうか。
六花自身は英太の良い所をたくさん知っているし、悪いところすら愛おしく思えてしまうほど陶酔してしまっている。
だからもし凛子がその魅力に気づいてしまったら、斜面を転がり落ちる岩のようにあっという間に恋に落ちてしまうのではと思えてならない。
幼い頃の約束。
もしかしたら英太は覚えていないかも知れない。
もう守られる事は無いのかも知れない。
けど、もし覚えていてくれたら。
二人の大切な思い出を心の奥に留めておいてくれていたなら。それはどれだけ嬉しい事なのだろうか。
自分の心の中に確かに芽生えたこの感情を、英太が汲んでくれたらどれだけ嬉しいのだろうか。
いつかこの思いを英太に伝えたい。
あの時の約束、覚えてる?
私は覚えているよ、と。
あの時からずっとずっと大好きだったと伝えたい。
……けど、それは今じゃない。
英太の頭の中が凛子でいっぱいになっている今それを伝えたとしても、果たして……。
自室にある姿見の前に立ち、自分の姿を見る。
英太の好みに合わせて切った髪。
英太の好みに合わせた洋服。
英太が好きだと言った女優に寄せたメイク。
本棚には英太が好きな作家の著書。
音楽アプリのプレイリストは英太の好きな歌手やバンドの音楽ばかり。
今の自分を作ったのは英太なのかも知れない。
そうであって欲しかった。
「……ぷ。ちょっと怖いかな」
そんな鏡に映る自分を見つめて思わず吹き出す。
改めて考えると少し怖いかも知れないと六花は思った。
自分のことだから感覚が麻痺しているのだが、もしこんな女の子が別で現れたら絶対怖い。
逆に言えば、それだけ英太には魅力があるのだとそう思えた。
もちろん英太には幸せになって欲しい。
一番大好きな人と結ばれて欲しい。
そしてその相手は自分であって欲しい。
自分が咲や、凛子より優れているところなんて一つも思い浮かばない。
けど、このうちに秘める思いは絶対に負けない。
それだけは声を大にして言える。
……いや、言えないが。それはもう告白と同義であるから。
想いは伝える。けど、今じゃない。
幼い日に交わした約束の分だけ、自分と英太との距離は近いはずなのだ。
そう信じて六花は今日も英太の隣で笑う。
誓い合った約束を胸に。
ご覧頂き、ありがとうございました。
ここ3話ほどのテーマは夢でした。
同じ夢を見る3人。
これは一体どういう事なのか、これからのお話の中で明らかにしていきます。
お話はまだまだ続きます。
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次回もお楽しみに!
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