23:バレー部エースが見た夢
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英太が朝食を摂っている頃、凛子のアパート。
白地に向日葵が描かれている明るい印象のカーテンに朝日が刺す。
レースにキラキラと反射する日光は凛子が寝ているベッドにも降り注いでいた。
凛子の金色の髪に朝日が反射すると、それはそれは美しい輝きを放っている。
しかし昨晩リアルなグレードのプラモデルに手をつけてしまい、寝不足の凛子はその光すら鬱陶しそうに顔をしかめて腕で遮り、背を向ける様に寝返りをうった。
「……まぶし……」
可愛いデザインだけでカーテンを選んでしまった事を寝ぼけた頭で後悔したが、買い直すほどの事でも無いし。
てか勿体無いし。
かぶっていた毛布がめくれて、白雪の様に透き通った脚と縦に筋の入った腹筋、そしてさらに上部にあるささやかな膨らみが露わになる。
眠いし、何よりこの部屋には凛子しか住んでいない。
誰の目も気にしずに惰眠をむさぼる。
春眠暁を覚えず。などという季節では決して無いが、年がら年中暁を覚えない凛子にとっては年中通して睡眠日和なのだ。
一応チラリと時計を確認しておく……まだ8時。
英太との約束は11時だし、10時半までは寝ていられる。
寝癖もシャワーで一撃で直してしまえば良い。
歯磨きもシャワーを浴びながらだ。
いつも頑張ってるから休日くらいはいいよね……?
だから今はまだ寝ていたい……。
〜♫
凛子がサファイア色の瞳を閉じて、再び眠りに落ちようかとした時、ローテーブルの上に置いてあったスマホが軽快な音楽を鳴らして着信を告げた。
「……」
まどろみの中に入り込もうとしていた凛子は一瞬ビクリと肩を震わせる。
「……誰よ、ったく……」
仕方なく身体を起こして画面を確認した凛子。
しかし表示されている名前を確認すると少しの躊躇もなく画面をスワイプした。
「もしもし、パパ?」
『おー! 凛子、久しぶりだな、元気してたか?』
「うん、パパこそ元気なの?」
スマホから聞こえてきたのは凛子の父、ルーカスの声だった。
客船運航会社に勤め、大型客船の船長をしている父と話すのは何日かぶりのことであるが、声の様子からして調子は良さそうである。
元気そうな父の声を聞いた凛子の声が自然に弾む。
『私は相変わらずさ。今はオスロに居るんだが……もしかして寝ていたか? 船の上だとどうも時間の感覚が分からなくてな。こればかりは何年やっても慣れない』
「あー、うん。日本は朝の8時だよ。ふぁ……」
『ははっ、とは言え起こしてしまったみたいだな。すまない。……学校はどうだ? すまんな、ほったらかしにしてしまって』
「上手くいってるよ。さくらも居るし、学校に友達も出来たよ」
『さくらか、彼女には本当に感謝しかないな。休暇が取れた時に会いに行くから、その時にハグしてやろう』
「やめといた方がいいよ、パパ。せっかくの休みを病院で過ごさなきゃ行けなくなるわ」
『はっはっは! 笑えない冗談だ。彼女なら必ず実行するだろう』
このようにおどけて見せてはいるが、なかなか一緒に居られない父に代わって娘の友達で居てくれるさくら。
父としては彼女には言葉では表しきれない程感謝している。
『それと食事はしっかり摂れているか? 菓子パンばかり食べているんじゃないだろうな。キミは甘いパンが大好きだからな、私はそれが心配だ』
「大丈夫よ、パパ。菓子パンはもう飽きちゃったもん」
『飽きるほど食べたって事じゃないかっ……入学して一ヶ月と少しでコレとは。三年間そんな生活を続けでもしたらドラム缶のようになった娘と再会しなくてはならなくなってしまうな』
「ふふっ。それでも愛してね、パパ」
父親との会話となるとやはり少しだけ気が緩むのか、いつもよりもやや子供っぽい口調になっている凛子。
こんな一面を英太が見たらきっとむっつり顔をして、しかし十分にそんな凛子の様子を堪能するに違いない。
『はっはっは、それはもちろんだ。……っと冗談はさておき、困ったぞ。キミはまだまだ成長期だ。栄養があるものを摂ってもらいたいのだけどね』
「パパ、その事なんだけど……」
凛子は英太に弁当を作ってもらっている旨をルーカスに伝えた。
告白云々の事までは言わなかったが、言い出したのは自分だという事。
それを了承した英太が好意で弁当を作ってくれているということや、その弁当が栄養バランスが整っているという事。
練習後のおにぎりまで用意してくれているということ。
……そして。
『……無償で? 本当かい、それは?』
「う、うん。それで良いって言ってくれたから……」
ルーカスが電話の向こうでこめかみに指を当てている様な雰囲気がした。
『うーむ。その英太くんがどのような人物か分からないが、それは申し訳ないな……いや、キミの身体を気遣ってくれるのはありがたいがね……』
「うん……そう、だよね」
確かに英太の料理を毎日食べたいとは言った。
しかしやはり何かしらの対価が無いと申し訳ない。
何とか栄養のバランスを取ろうと、あれだけ工夫をしてくれているのだ。
お金は要らないと言われて喜んでしまったが、このままでは申し訳なさ過ぎると凛子は思い始めてきた。
それが親ならば尚更だ。
ただでさえ愛娘の一人暮らしすら心配だというのに、そんな娘に親切に弁当などを作ってくれているのだという。
常識のある親ならばなんとも思わないはずは無い。
『英太くんには何らかのお礼をしなきゃいけないな』
「うん、私もそう思ってる」
英太はお互いの利害が一致してウィンウィンだと言ってくれたが、凛子としては申し訳なさが出てきてしまっている。
勢いでこうはなってしまったが、凛子もそこまで常識的な考えが持てない人物では無いのだ。
何かしらのお礼はしたい。けどどうすれば……。
少し声に覇気が無くなったのを感じたのか、ルーカスは敢えて明るい声でいう。
『ははっ、大丈夫。英太くんはきっとキミの事が好きなのかもしれないな。我が子の魅力に気付くとはなかなかに見どころのある少年じゃないかっ』
「あ、う、うん、そうかもね」
まさか「そうだ」とも言えるはずもないので、何となくな返事を返してしまった。
その後二人は近況などを話して電話を切った。
元気そうな父の声を聞いた凛子はスッカリと目が覚めていた。
朝日が眩しい。今日もよく晴れそうだ。
それに。
「……久しぶりに〝あの夢〟見たなぁ」
遠い日の一場面を切り取った様な夢。
あの約束をした男の子は今頃どうしているのだろう。
心の中に暖かい物を感じながら、寝癖がついた金色の髪を整える為に洗面台へ足を運んだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
凛子の父、ルーカスは北欧の血を引く元アメリカ人です。
現在は日本人である凛子の家に婿養子に入ったので国籍上は日本人ということになります。
そして英太と同じ記憶を持つ凛子。
一体どういう事なのか。
お話が進むにつれて明らかになって行く予定です。
次回もお楽しみに^ ^
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