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22/62

22:英太が見た夢

 ご覧頂き、ありがとうございます♪


 久しぶりに夢を見た英太くん。


 ほっこりした気分でバーベキュー当日の朝を迎えます。


 




「…………」



 懐かしい夢を見た。


 いや懐かしいのはその出来事そのものがという事であり、この夢を見るのはさほど久しい訳ではない。


 本当にあった昔の出来事を夢に見るなどという体験そのものが珍しい様にも感じるが、英太はこの夢を比較的頻繁に見ることが多かった。


 間隔こそ均等ではないが、あの出来事の事が記憶から薄れそうになると不思議と夢に見る。


 まるで何かが忘れさせまいとしているかのように。


 ふわふわとした暖かい夢。


 イメージとしては、白とか、黄とか。


 あんなに尊い時期が自分にもあったんだと思うとむず痒くて、けれど心はほかほかと暖かく。


 そしてドキドキともワクワクとも言える感覚が胸に広がっていく。


 あの女の子は今頃何してんのかな。


 約束の相手が誰だったのか、それは思い出せない。

 薄情、なのかも知れないと英太は思う。


 現に英太は凛子という少女に恋をした。


 あの時の約束は確かに覚えているのに、自分は別の女の子の事を好きになってしまったのだ。


 ……もし会えたら謝らなきゃな。


「……会えるわけないか」


 口ではそう言ったが、存外にして心はやはり暖かいまま。

 

 あの女の子は今どんな女性になっているんだろうか。

 もし会えたとして、お互いの事を覚えているのだろうか。

 10年も前の事だし、覚えているはずがない。

 偶然にも英太は夢に見るから覚えられているだけで、相手も覚えているはずもない。


 身体を起こし、寝起きにしては冴えた頭で思いを巡らせていると部屋の扉がノックされて典子の声が飛び込んで来た。


「おーい、起きてるー?」


「ああ、今起きた」


 英太の応えを聞いてから典子がガチャリとドアを開けて顔を覗かせた。


「おっはよぉー」


 中学校のバレー部(・・・・)のジャージに袖を通し、大きなスポーツバッグを肩にかけている。


 細く柔らかい黒髪は後頭部の高い位置で一つ縛りにしており、典子が動くたびに馬の尾のように揺れた。


「おはよ。部活か」


「そ。昼には帰ってくるからお肉残しておいてよね」


「わかってるよ。……あ、すずめちゃんも誘って来てもいいぞ」


「あ、名案だねっ。ちょい聞いてみる」


 じゃあ準備はよろしくぅ〜と言って典子は部活へと出かけて行った。


 青葉中学のバレー部に所属している典子は中学最後の大会、中体連が控えている。


 典子は上背(うわぜい)こそ無いが、守備専門のリベロというポジションで活躍している選手らしい。


 そんな彼女も、じきに最後の大会。


 受験勉強に熱が入らないのもまぁ仕方のない事だろう。


「じゃあ、いってきまーす」

 

「おう、気をつけてな」


 最後にヒラヒラと手を振ると典子はスポーツバッグを担ぎ直すと元気よく出かけて行った。


 ……英太の部屋のドアを開けたまま。


「……ったく」


 もう起きるつもりだからまぁ良いのだが、せめてドアくらいは閉めて行ってほしいものである。

 

 ベッドから立ち上がり、伸びをする。

 

 今日は楽しみにしていたバーベキューの日。

 ホームセンターが開く時間に六花と買い出しに行く約束をしている。

 

 懐かしい夢を見て、心が温まったまま1日が始まる。


 何かいい事がありそうだ。


 そんな浮ついた気分の英太は着替えをすませ部屋を出るのだった。



「おはよ」


 リビングに行くとキッチンで母親の望美(のぞみ)が食器を洗っている所だった。


「おはよう。ご飯食べる?」


「出来ればお願いしたいです」


「あら腰の低い子。親の(しつけ)がしっかりしてるのね」


「親はあんただよ」


「まぁ口の悪い子! 親の顔が見てみたいわ!」


「どっちだよっ。歯ぁ磨いてくる」


「はいはいー」


 午前0時ごろまで花月で働いていたというのに典子を送り出すために早起きしたのだろうか。

 しかしそんな事はおくびにも出さずに笑顔で英太を迎えた。


 歯磨きと洗顔、それに寝癖を直してリビングに戻るとテーブルにご飯と味噌汁、めざしが三本と納豆が用意してあった。


 テーブルにつき、望美にお礼を言ってから手を合わせ「いただきます」と言って箸をとる。


 赤だしの味噌汁をひとすすりし、少し硬めに炊かれた白米を口に含む。

 熱々の味噌汁が胃に流れ込み、身体がぽうと温まったような感覚に陥る。


 鼻を抜ける出汁の香りを感じながら白米を噛み締めると、やがて甘みが出てきた。


 米の旨味を感じながら納豆をかき混ぜて、付属のタレを投入する。

 

「今日バーベキューなんでしょ? タープ出しといてあげようか?」


「いや、自分で出すからいいよ。……あ、父さんは?」


「まだ寝てる。昨日、山下さんと」


「……なるほどね」


 望美はお猪口を持つ様な真似をしてクイクイと傾けた。


 英太の父親、孫六(まごろく)は花月の閉店後、常連のお客さんと飲みに出かけたようだ。


 彼のことであるから仕込みなど終わらせているだろうし、昼から花月のランチが始まる。


 普段から花月の店長として気を張っているし、たまには羽も伸ばしたいだろう。

 今のうちに寝かせてやるのが良いかも知れない。


「ご機嫌だったわよ。そう言えば、高校の先生に会ったとか何とか言ってたわね。お父さんベロベロだったし、私も寝ぼけてたからよく覚えてないけど」


「マジか。ご機嫌で絡んでたりしてなければいいけど」


 英太の父の孫六は商工会や商店街の組合などで非常に顔がきく人物だ。

 本人も非常に気さくな人柄なので交友関係も幅広く、おかげで贔屓(ひいき)にしてもらえるお得意様がたくさん居るのは非常にありがたい。


 けれど自分の高校の教師と変に(・・)仲良くなって、飲み仲間にでもなられたら学校で居心地が悪くなってしまう。


 教師にもよるだろうが「昨日、お前の親父と飲んで――」などと言う話をみんなの前でされたら堪らない。


 相手が誰だったのか気にはなったが、なってもいない事を心配しても仕方ない。

 

 それにもうすぐ六花との待ち合わせの時間だ。


 英太は少しだけ危惧しながらも、空腹を栄養満点の朝食で満たすのだった。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました♪


 英太くんの家は三階建て。


 一階は居酒屋花月。裏口は駐車スペース。


 二階はリビングなどの共有スペース。

 駐車スペースの上がバルコニーの様になっており、リビングから出る事ができます。


 三階には英太や典子、両親の部屋があります。


 英太達の住む青葉市は山々に囲まれた観光と土木が盛んな地方都市で人口は10万人前後。

 

 都会から見たら田舎ですが、生活する分には不自由がない程度の街です。


 

 次回は凛子回。お楽しみに。


 もし良かったら……そ、その……ブクマと評価をぉぉ……


 次回もお楽しみに(°▽°)!



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