18:バレー部エースのサーブ
ご覧頂き、ありがとうございます♪
なんとか部活の崩壊だけは回避した女子バレー部。
練習後、何やら始まる様です。
「小清水、ちょっといいかな?」
「はい?」
全体練習が一通り終わり、体育館の隅で胡座をかいて英太から貰ったおにぎりを頬張っている凛子の元に副キャプテンの畠中絵里が歩み寄ってきた。
短く切り揃えられた黒髪をしっとりと汗で湿らせた彼女の右手にはスポーツドリンク入りのボトルが握られている。
凛子の晩ごはんの代わりになるおにぎり。
なかなかに大きなおにぎりをモグモグと咀嚼しながら顔を上げる。
「今日も残ってやっていく? もし良かったらあたしらも一緒にやって行ってもいい?」
あたしら、というのは畠中の後ろで少し照れ臭そうにしている重山の事だというのは容易に推測できた。
そしてそれは、凛子もさくらも心待ちにしていた言葉であった。
「もちろんでふっ!」
人数が増えれば増えただけ出来る事が増える。
そして何より先輩達の心意気が嬉しかった。
感情に任せてそう言ったものだから、口から数粒の米が溢れる。
「汚ぁ!」
「え、えへへ……」
隣で眉をしかめるさくらに不気味な照れ笑いをしてから凛子は残りのおにぎりを手早く口に放り込み、立ち上がった。
せっかく英太が作ってくれた栄養満点のおにぎり。
十分に味わってから飲み込む。
「……ごくん。やりましょうやりましょう! あー、めちゃくちゃ嬉しいですっ」
心待ちにしていたさくら以外の練習相手を得た凛子は小さくぴょんぴょんと飛び跳ねる。
そんな嬉しそうな凛子を見て副キャプテンの畠中は目を細めた。
同時に今まで放ったらかしにしてしまっていた事に罪悪感を覚える。
「あははっ、嬉しそうだね」
「だって4人ならやれる事が一気に増えますしっ」
「今日はね、コイツをしごいてやって欲しいのよ」
「……? 重山先輩を、ですか?」
畠中に背中を押されて一歩前に出た重山は、やはり罪悪感が残っているのだろうか、少し申し訳なさそうに頭をかいている。
「う、うん。私、サーブレシーブ苦手だから、小清水のサーブ受けたいの。お願いできる?」
サーブレシーブとはその通称の通り、相手コートから打ち込まれたサーブを拾うレシーブの事だ。
バレーボールはサーブから試合が動き始めるので、それを拾えるか拾えないかで試合展開が大きく変わってくる。
サーブをしっかり相手コートに打ち込めないと勝てないし、その逆も然り。
打ち込まれたサーブをしっかりと捕球出来ないと反撃出来ない。
レシーブはバレーボールの基本であるが、その重要性は基本と言われるだけの事はあり計り知れない。
今日はもともとサーブ練習をする予定だった凛子にとっては容易い要求であった。
「もちろんです、やりましょうっ!」
新たな練習相手を得た凛子はふんすと腕を鳴らすのであった。
◇
「用意は良いですかー?」
バレーボールコートのエンドライン。1番後ろのラインのさらに後方にトリコロールカラーのボールを持った凛子が声を張った。
その声は反対側のコートに立つ重山にちゃんと届いた様子で、用意が出来ている旨を伝えた。
「いつでもオッケーよ!」
コートの中で中腰で構える重山。
姿勢を低くして顎を引く。
肩の力を抜き、前後左右にいつでも動ける様に身構える。
細く長く息を吐き、集中する。
さくらと畠中といえばコート外で二人の様子を伺っている。
凛子は重山の返事を受けて右手を上げると「じゃあいきまーす」と言ってサーブを打つ際のルーティンに入る。
ルーティンと言っても動作一つ一つにこだわりがあるわけではない。
そこまで神経質な選手ではない凛子。
そんな凛子がルーティンをするのは『なんかカッコいいから』という理由でやっているだけ。非常に凛子らしいといえば凛子らしいのだが、雑誌の取材を受けた時も同じことを言っていた。
流石になんか違う理由考えときなさいよ、とはさくらの言である。
準備を整えた凛子はエンドラインから大きく離れた所に立つ。十分な助走をつけるためだ。
ふう、と小さく息を吐くと利き腕である左手の掌の上に置くようにボールを持つと、下から思い切り上に放り投げる。
それと同時に助走開始。
ボールを見上げながら走り出す。
リズミカルに鳴るシューズが床を擦る音。
十分な加速。そして膝を折り、フローリングの床を力強く蹴る……両腕を大きく振って全身のバネを使って、跳躍。
高い。
高校女子の平均などより遥かに高い打点に到達する。
ボールがゆっくりと落ちてくる。
ふわりと空中に飛び上がると背筋を限界まで収縮させ、スレンダーな身体をまるで弓の弦の様に引き絞る。
左腕を振りかぶった凛子のシャツの裾から割れた腹筋が覗いた。
極限まで引き絞られた身体をその鍛え抜かれた腹筋で一気に弾き出す。
鞭のようにしなった左腕が確実にボールを捉える。
刹那。
爆発じみた破裂音を轟かせたボールは一瞬にして反対のコートで構えていた重山の股の間をバウンドしていた。
「……え」
呆気にとられる重山。
あまりのスピードに反応すら出来ずにただ後ろの壁に当たって跳ね返ってきたボールを目で追う。
そこでようやくサーブに反応できなかったことに気づく。
「は、速……」
今まで凛子のサーブを見た事はあった。
けれどこうして受けるのは初めてだった。まさかここまでとは……。
バズーカ砲のような一撃に、重山は度肝を抜かれていた。
「へいへーい。反応出来てないじゃないのよー」
コートの外から見ていた畠中がヤジを飛ばす。自身は蚊帳の外であるから気楽なものである。
「あ、あんなの拾えるわけないでしょ!?」
重山といえば、顔は青ざめ、額には脂汗が滲んでいる。
「あんなのが当たったら死ぬわ! 腕がもげる!!」
「はぁー? 甘ったれんじゃないっての! アンタがサボってたからでしょ! 小清水、ガンガンやっちゃいなさい!」
「アイアイサー!」
と、凛子はビシッと敬礼を返して再びサーブトスの体勢に入る。
……口端が上がっている様に見えるのは気のせいだろうか。
「え、ちょ、ちょっとなんか怖いんだけど!? 狙わないでよね!?」
「いや、レシーブの練習なんですから狙うでしょ」
「ヒェッ」
慌ててレシーブの体勢に入る重山。
……というより、身構えないと避けられない。当たりどころが悪ければ死ぬ。……と重山は半ば本気で思った。
「……これ、練習……ですか?」
「練習よ」
冷や汗を流すさくらに畠中はビシリと言い放つ。
決してサボっていた事への報復ではないと強調しているようだが、果たして。真意は畠中しか知らない。
畠中は腕組みをして厳しい表情を送るばかりで真意を語る事はなかった。
「じゃあいきまーす」
「し、死んでたまるかぁぁ!!」
結局、重山がこの日のうちにサーブレシーブを決める事はなかった。
しかし後に重山はこの日のことをこう振り返る。
「あの日以来、どのサーブも止まって見える様になりました」
と。
この日の夜、重山は十字架に括られてバレーボールをひたすらぶつけられる悪夢にうなされるのであった。
ご覧頂き、ありがとうございました。
今回は少し日常に振ってみました。
毎度毎度、ポイントをくれー!!
と言い続けるのもアレなので、余裕がある時にはキャラ紹介などを、していけたらなぁと思っています。
けどまぁ、ポイントは欲しいです(笑
次回は六花と咲が登場するかも知れません。
お楽しみに(*'▽'*)
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