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17/62

16:バレー部キャプテン

 ご覧頂き、ありがとうございます。


 青葉高校の体育館でのお話です。


 少し長めですが、どうぞお付き合い下さい。



 青葉高校の高い天井からLED照明が照らされた、何処にでもあるような新しくも古くもない体育館。

 

 学校に体育館は一つしかないので、室内競技の部活でローテーションで使用する事になっており、今日は女子バレー部と女子バスケ部が体育館をネットで二分割してそれぞれが使用している。


 ローテーションにあぶれた部活動は周辺地域の公営のものや小中学校などの体育館を借りて練習をしている。


 ただし女子バレー部に置いては、数年前に一度だけ県予選決勝まで進んだ事があり、その名残で比較的優遇されている。


 全中制覇した凛子とさくらが入学したという事ももちろん大きいだろうが。


 今年の女バレは全国に行けるかも知れない。


 校内でそう囁かれている。


 ……しかし監督の日村は今日も生徒の自主性を育成するためと称して部活へは顔を出していなかった。


 そしてキャプテンの姿も無い。


 監督とキャプテンがいない状態での練習は、やはり身が入らない。

 

 今の自分のプレイが良いのか悪いのか分からない。

 もし悪かったとして、どうすればいいのか分からない。

 分かっていたとして、どう伝えれば良いかわからない。


 自分の考えで一応良くしようとは思う。


 けれど納得がいかない。自分が上手くなっているかわからない。

 

 何とか維持しているモチベーションはとうに限界を超えている。

 日村が以前提案した練習をひたすらに毎日こなすだけ。


 部員に危機感はある。

 

 このままではいけない。


 そう思っているのだが、うちには凛子とさくらがいる。だから大丈夫だ。という空気が漂っている。

 

 ……そして、誰もがそんなはずはないと、このままではいけないと心の奥底ではわかっている。

 しかし何故か行動に移せない。


 長のいないこのチームを叱咤する者は誰一人としていないのも事実。


 凛子、そしてさくらも指導者の重要性を痛感しているところであった。


「次、なにする? 3対3?」


「もうちょっとスパイク練習した方が良くない?」


「レシーブでしょ、美希ぜんぜん拾えてなかったじゃん」


「えー、だってレシーブ苦手なんだもん」


「苦手だからやるんでしょ」


「そーだけどさぁ……」


 最上級生である三年生がそれぞれ言いたいことを言い合い、その加減で次の練習が決まるようだ。


 スパイクにしてもレシーブにしても、段取りがしっかりしていないとこう……気持ちが締まらない。

 そんな気分のままただ練習をしたところで身につくのだろうか……。


「……ったく、何とかなんないの、この感じ」


 さくらが小さく悪態をつきながらスポーツドリンクが入ったボトルをあおった。

 

「ホント締まらないわね……」


 自前のタオルで汗で濡れた髪をバサバサと雑に拭き、手櫛で髪を整えているのは凛子だ。


 その時。


 体育館の鋼鉄製の引き戸がガラガラと重い音を立てて開いた。


「……キャプテン」


 速乾性がある素材のTシャツにショートパンツ。肘と膝用のサポーターをした重山が体育館にやってきた。

 

 先程の話だと今日は何かの(・・・)用事があるとかで先に帰ったらしいが……用事は終わったのだろうか。

 

 少なくとも今までも用事で休むことは何度もあったが、こうして遅刻してでも部に顔を出したのは初めてのことだった。


 女子バレー部員12人の視線を一手に集めている重山はバツが悪そうな、それでいて何処となく覚悟をしているようなそんな表情をしている様に思えた。


 バレーシューズ を履くと、バレー部員の元へ歩みを進め。


「みんな、ごめんなさい」


 と、深々と頭を下げた。


「この大事な時期に、みんなの足を引っ張ってしまったこと謝りたい。本当にごめんなさい……」

 

「……瑞稀」


「今までバレー一筋でやってきた。下手だけど、出来ないなりに上手くできるまで何度も何度も練習してきた。一生懸命やってきた。……だけど私のバレー人生で多分1番大事な時に……その……男作ってふらふらしちゃって……ホントにごめんなさい」


 重山は自身の指を絡ませ、俯きながら絞り出すような声でそう言った。


 事実、彼女自身は今までバレー部を牽引してきた。


 それが最近……新一年生が入部してきたあたりから一気にモチベーションが下がったように見えた。


「彼氏が出来たのは言い訳にならない。私の甘えのせいでみんなに迷惑をかけたこと、本当に反省してる……サボった時間を取り戻せるとは思えない。キャプテンとしてじゃなくても良い。練習に参加させて欲しい。……私、バレーが好きだって事忘れてた」


 彼氏に、バレーをしているキミが好きだと言われたと言う事ももちろんあるだろう。


 しかしそれによって忘れていた、バレーへの想いが再燃してきた。


 彼女の言った通り、彼女のバレー人生において1番大切な時期かも知れない。


 高一のインハイ予選も高二のインハイ予選も一度きりしかない。


 しかし同じインハイ予選でも、高三の最後のインハイ予選は特別な意味を持つはずだ。


 そんなに大切な時期に男を作ってふらふらとするだけならまだしも、練習をサボってまで、キャプテンがそんな事をしていたのは果たして許されるのだろうか。


 それによって部内の雰囲気はチグハグになり、凛子には必要以上のプレッシャーがかかっていたのだ。そうそう簡単に許されて良いものか……。


 普通ならそう思うかも知れない。


「……ホントよね。キャプテンが男作ってふらふらとかあり得ないから」


「……絵里」


 副キャプテンの畠中が腰に手を当てて、呆れた様子でそう言った。

 思っていたより低い声だったからか、俯いていた重山は顔を上げて、畠中を見る。


 その表情はやはり沈んでいるようだ。


 親友であり、パートナーである畠中を裏切り続けてきたのだ。今からどんな事を言われるのか。そう思うだけで膝が震えた。


「ホント馬鹿よね……私たち、今まで何してきたんだろうね」


「……本当ごめん」


「瑞稀だけじゃない。私も、悪かったわ」


「……絵里?」


 青ざめていた重山の前にいた畠中は凛子とさくらに向き直った。


「小清水、花澤。二人ともごめん」


「え、ちょ、絵里さん、どうして」


「そ、そうですよ。私たちは何も……」


 突然の謝罪を受けて二人はあたふたしてしまった。


 しかし畠中はやめない。


「そんな事ない。私たちは確かにあんたらに甘えてた。全中優勝のゴールデンコンビが来たからもうインハイは固いと思ってた。……けど、違う」


 そして、拳を握る。


「インハイに連れて行ってもらったって意味ないのよ……自分の力で行かなきゃ意味ないのよ!」


「……絵里」


「もしインハイに行けたとして、将来、どうやって人に話す!? 後輩にすごい選手がいてさぁ、そいつらに連れて行ってもらったんだ。って!? 冗談じゃないわ!」


 畠中の勢いに部員たちは息を飲んだ。

 彼女の言っている事がすぐに想像出来てしまったからだ。


 凛子もさくらも確かに素晴らしいプレイヤーだ。

 二人が入部しただけで弱将校が一気に優勝候補になる程の。


 けれど、果たしてそれに乗っかっただけで自分達は全国へ行ったと言えるのか。

 

 ……答えは否である。



「あたしは、あたしの力で……あたしたちの力で全国へ行くのよ! 瑞稀! あんたの力もいるのよ」


「……うん、うん……」 


 重山は再び溢れ出る涙をタオルで拭いながら、しかし俯く事はなく、力強く頷いていた。


「小清水、花澤。あたしらは確かにあんた達に頼り切ってた……自主練も遅くまでやってくれてたんだよね? ホントごめん」


「あ、いえ、その……」


「瑞稀、アンタはインハイ予選終わるまで青木と会うな!」


「……うん………………え」


 涙を拭きながら頷いていた重山だったが、その言葉を受けてぴたりと動きを止めた。


 しかしすかさず副キャプテンの畠中が指をビシリと突き立てて叫ぶ。


「え、じゃない!! 青木、分かった!?」


「お、おう!?」


 重山を指していた指をそのままスライドさせ、鉄の扉を指す。


 扉の向こうにいた青木がびくりと肩を震わせた。

 その隣にいたのは……。


「……英太? どうして……?」


 とほほと肩を落とす青木の背中をポンポンと叩いて何か慰めているように見えた。


「良いじゃないすか、予選終わったら会えるんすから」


「そ、そうだな。うん、それは我慢しなきゃな」


 ふと凛子と英太との目が合う。


 英太は微笑み、凛子に小さく手を振った。



 そういえば昨日、英太に今のバレー部の事を話したっけ……。それと重山先輩と青木先輩とも知り合いだって……。

 

 もしかして、何かしてくれた……?


 それを聞きたくて英太に歩み寄ろうとしたが、畠中に呼ばれる。


「さぁ、キャプテンも戻ってきたんだし、一発頼むわよ!」


「みんな……いいの?」


「良いも何も。ここからじゃないすかキャプテン」


「あと2週間しかないっすよ! やる事は山積みなんすから」


 部員の視線は今や温かいものに変化しており、今までと同じようにキャプテンを中心にして円陣が組まれる。


 全員が肩を組み、腰を屈める。


「ありがとう、みんな……」


「さぁ、キャプテン、よろしく!」


 12人の仲間たちの顔を見回して、体育館に響き渡る声で叫んだ。


「青高ぉぉぉぉ、ファイッ!!」



「「「「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


 インターハイ予選まで後二週間。


 遅すぎるスタート。

 しかし確実なスタート。


 ようやく一丸となった青葉高校女子バレーボール部は、この日から本格始動を開始するのだった。


 人に頼り切ったプレイは無くなり、全員が組織の一員なのだという自覚が生まれる。


 確かに無駄な時間を送ってしまったかも知れない。


 しかし、彼女らはそれすらも糧にして成長していく。


 




 ご覧頂き、ありがとうございました。


 心を入れ替えた重山氏。

 予選まで時間はありませんが、最悪の状態で予選を迎える事だけは回避出来たようです。


 出来る事を精一杯やって、後悔が残らないようにしてほしいものです。


 これからお話はまだまだ続きます。

 

 まだ明らかになっていない事など徐々に公開していこうと思っています。


 凛子はもちろん、六花や咲などのヒロインたちの魅力もどんどんお伝えしていきたいと思っていますので、どうぞご期待ください。


 ブクマ、下部の★での評価。

 レビューもよろしくお願いします。


 感想は短くて大丈夫ですので、是非是非よろしくお願いします


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[良い点]  はじめまして。ちょっと泣いちゃったので感想書かせていただきます。 >遅すぎるスタート。  しかし確実なスタート。  ↑ここの『確実な』の部分からしばらく文字読めなくなってしまいました…
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