16:バレー部エースの先輩とその彼氏
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学校帰りの青木と重山に声をかけた英太。
3人でファストフード店に入りました。
英太は学校帰りの先輩、青木と重山と一緒に学校近くのファストフード店に来ていた。
店内は英太らと同じく学校帰りの青葉高校の生徒の姿が数組見受けられた。
3人はそれぞれ注文を済ませ、窓際のテーブル席に陣取った。
「いやぁ本当に久しぶりだな、碧。元気してたか?」
「はい、青木先輩もお元気そうで。……怪我の事、聞きました。すごく辛かったんじゃないですか?」
「知ってたか……そうだな。今は痛みは無いよ。けど、もう野球は出来ない」
青木は自身の右腕を曲げたり伸ばしたりを繰り返して見せた。
やや苦笑混じりの彼は、自身に起きた出来事を振り返るようにそう言ってコーヒーを一口飲んだ。
「そう、ですか……」
「ははっ、暗くなるなよ。せっかくお前が誘ってくれたんだし久しぶりに話そう」
「あ、はい。すみません、俺が話を振ったのに」
「だから良いって。俺なりに整理はしたつもりなんだ。気にするな」
「はい、ありがとうございます」
青木と重山は英太と同じ中学の先輩だ。
中学自体も大きくはなかったので、在籍していた生徒ならなんとなく見たことはあるくらいの認識が出来る程度の生徒数である。
もっとも英太と青木は同じ野球部出身であるから、こうしてお互いを認識し合える中であった。
「重山先輩もすみません、付き合ってもらって。本当は二人きりになりたかったとか……?」
英太が話を振ると、シェイクを啜っていた重山が顔をあげてシェイクをテーブルに置いた。
「いいのよ、碧くん。最近は結構一緒にいられるから。ね、ひろくん♪」
「そうだな、瑞稀」
青木の腕に絡みつくように抱きつく重山は彼に蕩けるような笑顔を向けていた。
誰がどうみても上手くいっているラブラブカップルにしか見えないし、事実彼らは付き合っているのだから当然か。
「いやぁ羨ましいっすねー。俺も彼女欲しいっす」
「はははっ、見せつけちゃったか。すまん。けど碧ならすぐに彼女出来そうだけどな」
「そうね、結構イケメンだと思うけど。……もちろんひろくんの方がイケメンだけど♡」
「ははっ、ありがとう瑞稀」
「いや、本当羨ましいです。ところでどっちから告白したんですか?」
すると重山が青木にアイコンタクトを送る。
それを受けた青木が照れ臭そうに頬をかきながら「どうだろうな」と言った。
なるほど、まぁこの流れから見たら青木が重山に告白した様だ。
そして英太はさらに続ける。
「重山先輩、素敵な人ですもんね。その気持ちわかる気がします」
「あはは、そうだろ? 自慢の彼女だ」
「もう、ひろくんたらぁ♪」
「青木先輩、重山先輩のどこに惹かれたんですか? もちろん沢山あると思いますけど、強いて言えば」
「そうだな……もちろん瑞稀の好きな所は沢山あるけど……やっぱりバレーをやってる姿かな」
「……」
「瑞稀は中学の頃からずっとバレー部だっただろ? 実は俺、中学の頃から瑞稀の事が好きだったんだ」
「え、初めて聞いたよ?」
青木の突然の告白に重山は目を丸くする。
そんな重山に優しく微笑むと青木は懐かしむように語り始めた。
当時の風景が頭に蘇ってきているのであろう。
その表情はすごく穏やかだ。
「照れ臭くて言えなかった。バレーを一生懸命やってる瑞稀がすごく輝いて見えたんだ。碧は覚えてないか? 野球部の練習中も良くバレー部の声がグラウンドまで届いていただろ?」
「はい、よく覚えてます。重山先輩、すごく熱い人だって有名でしたもんね」
事実、重山の事は当時中学一年生だった英太もよく覚えていた。
弱小とは言えバレー部のエースでキャプテン。身長も高く、生徒会も兼任していた重山に憧れていた男子生徒を英太は何人も知っていた。
「そうそう。クラスでもバレーの話してたり。バレーの雑誌を部員で見てたりしてさ」
「……そ、そうだったかな?」
昔を思い出し、キラキラとした表情で話す青木と違い、重山は少し居心地が悪そうにして再びシェイクを啜った。
今の彼女には……落ち着きがない。
「そんな瑞稀に告白しようと思ったのは……そうだな、確か去年の秋くらいからだったかな。その頃から瑞稀は一層魅力的になったよ」
「私がキャプテンになった頃、かな?」
「そうかも知れないな。一生懸命に声を出して部員を引っ張る姿はすごく魅力的に見えたよ……ははっ、俺が怪我したのもその頃だったな」
青木は野球部のエース……だった。
3年の先輩からチームを明け渡され、いざこれから自分達の代になったのだと腕を鳴らしていた秋季大会。
大会を目前にして、今まで一人でチームを引っ張ってきた青木の肘が遂に悲鳴を上げた。
エースピッチャーとしてチームを牽引する立場にあった青木は自身の右腕に違和感を感じながらも騙し騙し投げ続けてしまった。
監督に言えば大事をとって投げさせてもらえなくなるかも知れない。
そしてかわりに投げた後輩投手の調子が良かったら?
肘に爆弾を抱えた投手より、健康で好調の投手がいたらそちらを投げさせるだろう。
そうなるのが怖かった。
痛みを隠して投げ続けた結果、青木の右腕は二度と全力投球出来なくなってしまった。
「……落ち込んでいた俺に瑞稀は勇気を与えてくれたんだ。って、俺が勝手に言ってるだけだけど」
絶望感に打ちひしがれていた青木にとって、目標に向かって直向きに走り続ける重山は大層輝いて見えた事だろう。
「春高の予選で負けて、先輩達が引退した後のチームを引っ張るのはすごく大変だったかも知れない。けど瑞稀は逃げなかった。チームのキャプテンとして頑張ってた。俺はそんな瑞稀が好きになったんだ」
青木は穏やかにそう言った。
純粋な、心からの言葉であると断言出来る。それほど青木の瞳は澄んでいる。
「練習練習でなかなか会えなかったけど、最近は放課後も会えるようになって嬉しいよ。本当はインハイ予選、もうすぐだから練習したいのに、体育館をバスケ部が使ってるからなかなか練習ができないんだろ? 大変だな」
重山はテーブルの上に組んだ自分の指先をただ見つめている。
思うところがあるのか、表情は前髪に隠れて伺えない。
「けど、きっと今年こそインターハイに行ける。あれだけ頑張ってたんだ、最後まで頑張ればきっと……って、瑞稀?」
「……っ、うぅ……っ……」
気がつくと重山は目からポロポロと大粒の涙を流していた。
溢れる涙をハンカチで拭うが、次から次へと流れ落ちる涙は止まる様子はない。
「み、瑞稀っ!? ど、どうしたんだ、俺、なにかまずい事言ったか!?」
突然の出来事に青木は慌てるばかりだ。
「……ぐすっ……ちが、違うの、ひろくん……違うの……うえーん……」
どうやら青木には部活をサボって会っていたという事は伝えていなかったらしい。
もちろんそれは英太の想像の範疇であった。
もし青木が自分に会う為に彼女が部活をサボって来ていると知れば絶対に許すハズがない。
そんな重山を好きになったのではないし、そんな重山を好きにはなれないだろう。
重山も重山で、青木に対する気持ちが大き過ぎて普段なら考えられない行動を取ってしまっていた。
バレーが大好きな彼女の事だ。今までバレーより優先順位が上になる事柄が無かった為にこんな行動を取ってしまっていたのだろう。
大好きな彼に会いたくて、部活を蔑ろにしてしまっていた。
彼が好きなのは確かに自分なのに。
彼が好きになってくれた自分を自分で裏切ってしまった。
それは彼を裏切ってしまったという後悔を産む。
そして後悔は、きっと自身の糧になる。
彼が好きになったのは『彼女自身』なのだから。
それは揺るがない事実。
恋に盲目的になってしまっていた。
それほどまでに彼との恋は刺激的で、甘美だった。
「……ごめんね……」
最後に彼女はそう呟いた。
そんな彼女を青木は優しく抱きしめる。
その言葉は確かに彼に向けられた言葉であろう。
しかし、それは同時に今まさに汗をほとばせているバレー部の仲間たちへ向けられた言葉でもあった。
彼女を迷わせるのも恋であり、又、彼女を導くのも恋なのかも知れない。
お読みいただきありがとうございました。
今学生時代を振り返ると、どうしてあの時頑張れなかったんだろう。あの時にもっと頑張っていたら……と今更ながら思うことがあります。
大人たちはそんな自身の後悔や経験を踏まえてアドバイスをしてくれたり、叱咤してくれたりしてくれていたのでしょう。
しかし、学生時分は今この瞬間こそが全て。あとの後悔など知ったことではありません。
作者は学生時代、あるスポーツを死ぬ思いでやっていました。
それなりに結果は残せたと思っていますが、それはそれで『もし部活をやっていなかったらどんな学生生活を送ったんだろう』と思うことがあります。
結局のところ、必死で何かに打ち込もうが、ダラダラと遊びに費やしたとしても、どちらに転んでも後悔はきっとするのでしょう。
この小説に登場する彼らもきっと将来後悔するかも知れません。けどその瞬間は一生で一度しかありません。
高校の三年間は今振り返っても大切でかけがえのない特別な時間です。
そんな特別な時間を、もう一度送りたくてこの小説を書きます。
ちょっと青臭いですが、重山のことを書いていたらこんな事を書きたくなってしまいました。
いやはや、お恥ずかしい……。
いつも『金髪弁当』を応援していただき、本当にありがとうございます。
たくさんの方に読んでいただき、本当に嬉しいです。
これからも頑張ります。
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