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12:バレー部エースの憂鬱

 ご覧頂き、ありがとうございます。


 楽しい昼食をご馳走になった凛子。

 気分上々で部活に向かいます。


 しかし何やら問題があるようです。



 英太と昼食を取った日の放課後。


 凛子はこの日もさくらと一緒に部活へ向かっていた。


「何、それ?」


 放課後の騒がしい廊下をバレー部のスポーツバッグを肩に担いださくらは、凛子が見慣れない巾着袋を下げている事に気付いた。


 凛子のスポーツバッグに括り付けられたそれは明らかに昨日までは無かった物だ。

 

「おにぎり。英太が自主トレの後に食べろって」


 それは昼休みの際に英太から渡されたおにぎりが入った巾着袋だった。

 

 中には枝豆やひじきなどを混ぜ合わせた雑穀米のおにぎりが入っている。

 部活が終わるのが午後6時頃。それから自主トレを行なっていたら昨日のような時間までかかってしまっていた。


 それから夕食を摂ろうと思うともはや午後10時近い時間になってしまう。

 それは良くないという事で、部活の放課後練が終わったタイミングで食べられるようにと気を利かせて持たせてくれたのだ。

 

 空腹でその時間までいるより、少しでも夕食に近い時間帯で食事は取っておいた方が身体には良いだろうというのは英太の言だ。


「へぇ、気が利くじゃない」


「うん、正直すごくありがたい」


 凛子はそう言って巾着袋に触れる。

 その表情はどことなく優しいものに見えた。


 昨日の夜、偶然にもコンビニで会っていなければこんなおにぎりは持たせてもらえなかったかも知れない。


 栄養バランスの考えられた弁当、そして練習後の軽食まで用意してくれた英太には感謝しかない。


「後から何言われるか分からないわね」


 ボソリとさくらがそんなことを呟いたが、すぐさま凛子が否定する。


「英太はそんなヤツじゃないって。そんなことする訳ないでしょ?」


「何怒ってんのよ、冗談だって」


「べ、別に怒ってる訳じゃ……」


 とは言ったものの確かに語彙が強くなってしまっていた事に気づき、凛子はくしゃくしゃと頭をかいた。


「ははっ、確かに変なヤツじゃなさそうよね、碧くん。割とイケメンだし。料理も上手で気が利くなんて最高の旦那さんになるよ、きっと」


「だから無いって。そんなことより部活よ、部活。まずはインハイ」


 ひらひらと手を振ってから、そのままむんっと拳を握る凛子。

 

 インターハイ予選は今月末から始まる。


 それに向けてバレー部はコンディションを整えて、一致団結して行かなければいけない大事な時期だ。


「わかってる。まずは全国に出る。それから一番になる」


 同じ中学出身の二人。


 中学の全国大会で優勝を決めた後、二人の進路に注目が集まった。

 周囲の大人たちは、二人ともどこかしらのバレーの名門校に行くものとばかり思われていたが、凛子が選んだのは県外の無名校。

 

 そこにさくらも付いてきたのだ。


 もちろん凛子は付いてこなくても良いと説得した。さくらはさくらが行きたい学校へ行って良いのだと。

 彼女が高校でも全国大会で活躍したいと言っていたのを知っているから。


 無名校に行くと言ったのは……青葉に行きたいと言ったのは凛子の〝わがまま〟なのだから。


 しかしさくらは凛子と共に進むといってくれた。


 その〝わがまま〟に付き合うと。


 幼なじみのその気持ちが嬉しかった。

 

 確かに青葉は無名校だ。


 しかし全国はどこからでも目指せる。

 青葉の女子バレー部も無名ではあったが、キャプテンの重山はじめ、部員全員のモチベーションは高い様に見えていた。


 推薦入試試験の際に覗いた時のバレー部は確かに熱かった。

 重山も凛子とさくらが入ってきてくれれば、全国大会も夢じゃないと嬉しそうにしていた。


 



 その日の練習終わり。

 

 今日も凛子とさくらは自主練を始める。

 中学の頃からこうして全体練習が終わってから、自主練をしていた二人にとっては日課のようなものになっており、やらないと逆に気持ちが悪い。


 いつもはさくらがトスをあげて凛子がスパイクを打つ練習、もしくはサーブ練習に当てられる。


 しかしあと2週間もすればインターハイ予選が始まる。

 

 全体練習の時にうまく行かなかったコンビネーションなどを合わせておきたい。


「重山先輩、少し合わせたいところがあるんですが、一緒にやりませんか?」


 凛子のその誘いに三年キャプテンの重山が帰り支度の手を止めて顔を上げる。


「ん、何かまずかったっけ?」


「あ、はい。クイックのタイミングもうちょっと合わせた方がいいかなって……」 


 そう言うさくらにどうしてそんなことを言うのか分からないと言った表情を向けた。


「そんな事ないでしょ? うまくいってたわよ、あなた達」


「いや、私たちの事では無く……」


「あはは、大丈夫よ。試合中に私にクイック使わないでしょ」


「いや、そんな事は……」


「とにかく今日は、終わり。鍵は返しといてね。さぁ、帰りましょう」

 

 よほど早く帰りたいのか、重山はパンパンと手を叩いて他の部員を体育館から追い出す。

 

 そんな重山に肩を押されて体育館を出ていく部員たちは少し心配そうに、そして申し訳なさそうにして体育館を出て行った。


 ここ数日で分かった事なのだが、部全体がやる気が無いのではなく、重山の態度が部員のモチベーションを下げているという事みたいだ。


「……どうせ彼氏とイチャイチャしたいからでしょ」


 小さく呟くさくらに凛子はすかさずフォローを入れる。


「それは分からないじゃない」


 そうは言うが、凛子も内心ではさくらと同じことを思っていた。


 重山の彼氏が体育館横で待っているのは知っている。彼氏とイチャつくのは大いに結構。


 しかし他の部員を引っ張る立場のキャプテンがそんな態度では当然、チームの雰囲気が良くなる訳がない。


 弱小校に来たのは凛子、さくらの自らの意思だ。


 そこにいた部員たちに凛子たちが今までやってきた様な、厳しい練習に付き合わせるつもりは無い。


 それに凛子やさくらの高い志に付き合わせるつもりもなかった。


 しかし二人の入部を知った彼女らは……重山は『みんなで全国を目指そう』と目を輝かせていたのに。

 

 ただ、やれる事をやろうとそう言いたいだけなのに。


 重山があの感じでは部員たちのやる気も出るはずがない。彼女が率先して部員のモチベーションを下げているのは明らかだ。

 

 重山さえ、やる気にさせてしまえばチームが一丸になるのに。


 どうすれば……。


 そうは思うが、凛子もさくらも名案は思いつかない。

 

 結局今日も二人きりで自主トレを開始するのであった。

 


 最後までお読みいただきありがとうございました♪


 次回は明日更新予定です。お楽しみに(//∇//)!


 連日たくさんの方に読んで頂けて嬉しいです♪


 もし宜しければ、レビューや感想。それからブクマと下部の★★★★★の評価で応援して頂けると嬉しいです☆


 次回もお楽しみにっ


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― 新着の感想 ―
[一言] 強者の悩み。 弱者の悩み。 人それぞれの悩み。 どうやって改善されていくのでしょう。
2022/06/24 14:56 退会済み
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