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10:バレー部エースと弁当を食べる①

 ご覧頂き、ありがとうございます♪


 腕によりをかけて弁当を作った英太くん。

 待ちに待った凛子とのお弁当タイムに心が高鳴ります。


 前回の後書きで続きは明日だって言ったな。あれは嘘だ。

 (ごめんなさい、書けたのでアップしましたm(_ _)m)


 


 凛子を無事にアパートまで送り届けた次の日の昼休み。


 待ちに待った時間がやって来た。


 4限目のチャイムが鳴り終わる前に机の上の教科書を片付け終わり、チャイムが鳴り終わるのと同時に立ち上がり、二人分の弁当を持って屋上へ急いだ。



 屋上の扉を開くと、気持ちの良い五月晴れの空が広がっていた。今日も昨日同様に快晴。


 家から持ってきた小ぶりなレジャーシートを広げる。


 下がコンクリートだから少し味気ないが、芝生なら最高なピクニック日和。それでなくても風が抜ける屋上、温かな日差しが降り注いでいれば、それだけで晴れ晴れとした気持ちになるというものだ。


 靴を脱ぎ、レジャーシートに腰を据える。


 長方形のシートはわざと小さいものを選んだ。少しでも凛子に近づきたいという英太の下心が露見してしまっていたが、まぁこれくらいは許容できるものだろう。


 ……さらに少し中心にズレて凛子を待つ。


 ややあって鉄製の扉が重い音を立てて開いた。


 きた!


 そう思い、英太の心臓がドキリと跳ねるがハズレ。屋上に来たのは凛子ではなく上級生のカップルだった。


 彼らも英太らと同じく屋上で昼食をとるのだろう、それぞれ購買のパンと弁当が入っているであろう包みを持っている。


 仲良さげに歩く彼らは英太に気づくと、死角になる給水タンクの向こう側に行ってしまった。


 俺たちも(はた)から見たらカップルに見えたり……。


 そんな事を考えると自然に口元が緩んだ。

 

 凛子との恋人生活に思いを馳せ……いや、妄想をしていると、しばらくもしない内に凛子がやってきた。


 少し英太を探す素振りを見せた凛子だったがすぐに瑛太を見つけるとスッと左手を上げて「おーい」と笑いかけた。


 金色のショートカットが五月の日差しを反射してキラキラと美しく輝き、空よりも深い(あお)い瞳を細めて足速に歩み寄ってきた。


 歩くたびに制服のプリーツスカートがヒラヒラと揺れて、凛子の白雪の様に透き通った脚が露見した。


 その脚と同じ高さに目線がある英太の視線は凛子の絶対領域とも言える部分によって行ってしまった。


 しかし心の中で己を律して視線を外した。

 

「ごめんごめん、トイレ行ってた」


「女の子はトイレなんかしないんじゃないのか」


「あー、そんな人も居るかもね。でも私はするわよ、言っておくけど」


「同じ種族みたいで安心したよ。ほら飯食おうぜ」


「あぁ、そうね。ほら、手もバッチリ洗ってきたから」


 そう言ってから凛子はその小さくて整った顔の前で両の掌を開いてみせる。


 身長があるので小さくはなかったが、それでもやはり女の子。

 見るからに柔らかそうで、滑らかそうな手のひらだった。

 叶うなら英太も手を広げて重ねたい。自然にそう思ってしまった。


 でも。


「……濡れてるじゃないか」


「あー……うん。あははっ。カバンにハンカチ忘れちゃったぁ」


 ペロリと赤い舌を出して苦笑した。

 

 ……ぐっ、か、かわいいなちくしょう!


 そう心の中で叫んでから英太は自分のハンカチを差し出す。今日は偶然シックなデザインのものを選んでおいて良かったと人知れず思った。


 凛子は一瞬だけ遠慮したが、英太の好意を無碍(むげ)にするのも悪いと思ったのかお礼を言ってからそれを受け取った。


「ありがと」


 丁寧に折り畳んで返されたハンカチを受け取り、気づく。


 ……宝物を手に入れた!(効果音)


 ハンカチを差し出したのは単に親切心だった。


 そのおかげで凛子が手を拭いたハンカチが手に入った。


 咲が言っていたが、ロックバンドのライブなどでは、アーティストに汗を拭いてもらいたくてタオルを差し出すファンがいるらしい。


  ……とまあ、このハンカチに頬擦りしたり洗わずにしまっておくなんて事はしないが、それでも英太にとっては確かに特別な気分にさせるものであった。


「さ、腹減っただろ? 飯にしよう」


 英太に促されて凛子はレジャーシートに腰を下ろした。

 

 わざと凛子の近くになる様に中央に寄って座っていた英太だったが、いざとなったらビビって少しズレて凛子のスペースを広くした。


 それでも隣に凛子が座ると、暖かみのあるヘアオイルの香りがふわりと漂ってきてドキリとしてしまう。


 片思いの相手と並んでいる。それだけで幸せを感じていた。


 胸の高鳴りを抑えて冷静を装う。


「減った減った、めちゃくちゃ減った。……けど、本当に作ってきてくれたの?」


「そりゃな。おいおい、まさか申し訳ないから契約破棄とか言わないよな? 俺に出来た新しい楽しみを取らないでくれよ。好きでやってんだから」


 英太は心底それだけはやめてくれよといった風なリアクションをした。

 そんな英太を見ていると自然と笑みが溢れていた。


「……ふふっ。ありがとう、英太」


「あ、でもウザくなったら言ってくれ。イヤイヤ付き合わせるのは逆にツライ。……けどその時はやんわり、遠回しで言ってくれ。ストレートに言われると多分立ち直れない」


「あははっ、ンなこと思うわけないでしょ。英太こそ無理はしないでよね。私だってイヤイヤ付き合わせたくないわ」


「ははっ、それは大丈夫だ。料理が辛いなんて思った事なんて今まで一度もない」


「じゃなくて、私と一緒にいる事がよ。もし他に好きな人とか出来たら――」


「それは無い。少なくとも今は考えられないからな」


 英太は視線をまっすぐ向いたままそう言ったが、凛子はそんな英太の横顔をつい見てしまった。

 上辺だけの言葉を言っている様には見えなかった。


 英太のまっすぐな言葉に、凛子は嬉しいやら恥ずかしいやら……なんとも言えない感覚が心に広がっていった。


「そ、そう……? それならいいんだけど」


「まぁとりあえず食べようぜ。はい、これ小清水の分」


 そう言って折り畳みの保冷バックから取り出したのは、ピンクを基調とした可愛らしい花柄の弁当箱だった。


「……ちょ、これは……」

 

「嫌だったか? 小清水、可愛いの好きかなって思って」


 凛子はそれを受け取り、固まった。……あまりにも好みだったからだ。


「あ、う、うん。ありがと、好きよ、こういうの。大きさもバッチリ」


「良かった。可愛いの嫌いだったらどうしようかと思ったけど。じゃあこれからその弁当箱は小清水専用って事で」


「ありがとね英太」


 凛子は今日何度目か分からないその言葉を、今度は噛み締める様に言った。

 

 サバサバした男の子みたいな性格の凛子も、中身はしっかり女の子なのだ。

 彼女自身はそういうファンシーなモノは好きなのだが、周りの目が少しだけ気になって手が出せずにいたのだ。


 その思いを英太が掬い上げてくれた。

 それは偶然かも知れない。しかし、英太の心遣いがすごく嬉しかった。


「まだお礼を言うには早いぞ。肝心なのは中身なんだからな」


「ふふっ。それは大丈夫でしょ。じゃあ、いただきまーす」


 凛子は自分らしく、パチンと元気よく手を合わせてから蓋を開けた。


 昼休みの30分間。


 たったそれだけの、けれど大切な時間が動き出した。



 




 お読みいただき、ありがとうございました。


 作者は【ブクマ】や【評価】をして頂くのが大好きです。

 その為に書いていると言ってもいいくらいです。

 生き甲斐、といっても過言ではないでしょう。


 ☆☆☆☆☆→★★★★★


 こうして頂くだけで大喜びする単純人間です。

 まだの方いらっしゃったら、下部の☆を塗りつぶして貰えると嬉しいなぁ(切実)


 レビューなんか超絶嬉しいです、感想ももちろん。


 一言でも頂けたらすごく嬉しいです。


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