97/144
97. 帰り来ぬ人
いついかなる時も
落ち着いた笑みを湛えて
それは至高の芸術を
深淵な宇宙の理を
美しい音楽を奏でながら
説いていたあなた
あなたは誰より高雅で
慈しみ深く
いつも私に優しかった
嗚呼、けれど
運命は残酷で
あなたは出逢ったあの時から
ずっとこの日を予感していた
あなたがこの地を去る瞬間を
だからあなたは
私に触れることなく
唯、微笑むだけだったのか
夏は去り、また冬が巡り来て
あなたの姿はなく
私は悲しみの涙に暮れて
あなたの残影を追うだけ
あなたはもう私の許には帰ってこない




