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90. 影を慕いて
あなたの影が段々薄くなる
あなたが私から離れてゆく
冷たい清かな一陣の風が
この街にも吹き始め
季節がひとつ過ぎてゆく頃
あなたは次第に何も語らず
淋しい目をして愛おしく
私の瞳を見つめながら
繰り返す
"愛しているよ"
それは寄せては返す
静かな波のまにまのように
嗚呼、
知っている
わかってる
何かがあなたを駆り立てる
あなたの本能を目覚めさせ
あなたを狩人へと導きゆく
それがわかっていながら私には
あなたを引き留める術がない
あなたはあの女の影を慕いて
あの女の行く道を追い求めてゆくだろう
そう、きっと初雪が降る頃
あなたはこの街にはもういない




