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64. 晩夏の夕暮れに想う
「ただいま」
と、ひょっこり
あなたが長い長い旅から帰ってきたのは
もうすぐ涼しい一陣の秋風が吹く頃のこと
あなたは
私のことを信じていたと
私にただ感謝していると
その変わらない笑顔で
私を虜にして止まない涼やかな瞳で
私を見つめるから
私はあなたを忘れることはできない
あなたはこの一年余りの間
どこを彷徨い、何を考え
誰と一緒に過ごしていたの
私と離れていてもあなたは
変わらず私を愛していると
あなたはそう言いたいの?
私は一体あなたの何を知っているの
何もわからず
この恋の行方も知らないまま
私はそれでもやはり
あなたから離れられないことを
ただそれだけを思い知る
日が少しだけ短くなった
晩夏の夕暮れに私は独り
ただあなたを想い続ける
想い続ける……




