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43. アラベスク
それは不意に
ふと耳に飛び込んできたピアノの音
ラヴェルでも
ショパンでも
ドビュッシーでもない
それは切り裂くように
激しく、そして甘く
まるで恋に泣いているように
それは胸打つ衝撃の音だった
誰の音だろうと耳をそばだて
そして知った
それはシャミナーデのアラベスク
あの十七歳の秋
あの人が一番好きだと語った作曲家の
それは切なくも物悲しいピアノ曲
あの頃
私達は未来を知らず
唯、愛を語り
ふたり重なる夢を見て
そしていつしか大人になり
今、別々の人生を歩んでいる
激しく、甘く、そして悲しい
シャミナーデのアラベスクを
泣きながら聴いている秋の午後
私は
まだあの人を愛している……




