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37. 泣かない訳
悲しい、哀しいと
泣いてばかりいたあの頃
あの人に出逢った
その人は何も言わず
唯、じっと私を見つめて
私の黒く長い髪のひと筋を掬い
そっと口づけてくれた
私は余計に泣きたくなったけれど
何故か泣いてはいけない気がした
それからの日々
その人は
史上の音楽の美しさを
煌めく星々の巡りの物語を
そして、全ての宇宙の理を
私に滔々と語ってくれた
私はその人を愛するように
何より自分を好きになった
そして今
その人はいつか何処かへ去り
いなくなってしまったけれど
私は穏やかな日々に暮らして
私はいつしか泣かなくなった




